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2019年度HEAD研究会・ビルダーTF第2回 機械化と職人

前回の通り、日本の住宅生産の今後の課題は、これを支えてきたオープンな人的・物的資源が、縮小時代にも持続していけるかだと思います。その代表的な人的資源が大工をはじめとする職人です。今回は職人とその不足を補うことが期待される機械化について考えたいと思います。

下図は中岡哲朗の「人間と労働の未来」に出てくる「まんじゅう製造ライン」です。まんじゅうの記事で餡子を包む作業が機械化されると何が起こるか。それまでの職人は、作りたいまんじゅうを構想し、材料や道具を揃え、生地を練り、餡子を丸めて生地で包み、包装して店に出すのが仕事でした。こうした全体性をもった仕事が機械の前後で分断されます。機械の前には機械のスピードに合わせて高速化した餡子や生地を丸めるだけの仕事、機械の後にはまんじゅうをひたすら包む仕事が残されます。このように多くの場合、機械化は人間の作業を単純に置き換えるだけでなく、全体性をもった職人から細分化された労働者へと労働のあり方を変えてしまいます。

図 まんじゅう製造ライン(「人間と労働の未来」、中岡哲郎、1970年、中公新書より転載)

かつての大工も和菓子職人のような全体性を持っていたと思います。施主が簡単な平面図を描けば大工が架構を考え、木材を買って刻み、組立て、他の職人にも指示を出して家が建っていました。現在は、プレカットされた木材を足場屋さんが組み立てたり、大工は石膏ボードをはじめとする建材を取り付けるのが作業の大半を占めるといった現場も多いのではないでしょうか。

ロボット・自動化

次に職人不足対策として注目されるロボットについて見たいと思います。写真は日本で初めて実用化された建築施工用ロボットと言われる清水建設のSSR-1です。耐火被覆という負担の大きい作業をロボットに置き換える試みです。最初に熟練技能者がロボットの先を持って吹き付け作業の動きを教えます。すると、ロボットがその動きを記憶して他の梁の吹き付けをします。

写真 SSR-1(「三田43森ビル鉄骨耐火被覆工事 労働環境改善、省力化めざし建築現場へ初のロボット導入」、日経アーキテクチュア、1982年12月20日号より転載)

この後、時代はバブルに突入し、建物全体を機械で自動的に作る方向に向かいます。写真は大林組のABCSと呼ばれる自動化工法の現場です。建物の上部を大きな屋根・壁で覆うことで、天候に左右されず作業ができ、鉄骨等の部材は天井のクレーンやホイストで取り付け位置まで運ばれます。この覆いは施工が進むにつれて上層階へと移動していきます。こうした自動化工法がバブル期には大手ゼネコンによって8社10工法ほど開発されました。

写真 ABCS(「建築業協会賞50年 受賞作品を通して見る建築1960―2009」新建築2009年12月臨時増刊、2009年より転載)

こうした自動化工法はバブル崩壊後に職人の賃金が下がると廃れてしまいましたが、現在、再び自動化工法に熱心に取り組んでいるのが清水建設です。現在、大阪などでスマートサイトと呼ばれる自動化工法を試行していますし、下動画のような石膏ボード貼りのロボットなど一連のロボット群を開発しています。

建築ロボット普及に向けては、重量、移動、精度、汎用性、安全、コストといった課題があげられます。一方で人間の職人について考えると、軽くて、自分で移動して、精度も調整できて、様々な仕事を教えればこなし、衝突等では事故になりにくく、コストも比較的安定している、といったように1周まわって職人の素晴らしさが分かってきます。これから建設現場でロボットを見る機会も増えていくと思いますが、建築には現場生産、受注生産、一品生産、単価の安さといった特徴があり、なかなか職人がいなくなるのは難しいと思います。その職人が年々減少していて、2025年に125万人が足りなくなり、省人化で35万人をまかない、90万人の新規入職を目指そうといった数字が日建連などから出されています。

海外で見た職人

ここで一度日本から離れて、海外のいくつかの国で職人に関してどのような問題が起こっているか、どのような対策がとられているか簡単に見てみます。
写真はベトナムのハノイ市の在来の住宅の建設現場です。職人は半農半工と言いますか、周辺の農村から働きに来ていて、農業の繁忙期には帰ってしまいます。現場で働いているのはほぼ全員ベトナム人です。技能工というよりは単なる労務者で、1人で型枠も鉄筋も打設も組積も左官も担います。町場は短パン、サンダルで安全どうこうといった感じではないのですが、見てのとおり、高齢者や子どものような職人が働いています。職人にヒアリングをしたのですが、平均年齢20代のベトナムでも若者は工場等への就職を好み、建設現場に就職する人は足りない、つまりは職人不足とのことでした。

写真 ベトナムの住宅建設現場

次のシンガポールでは、同じ東南アジアでも裕福な国なので、建設現場の職人として働くシンガポール人はいません。100%が中国、インド、バングラディッシュ等からの外国人労働者です。シンガポールも日本と似ていて外国人労働者に頼らざるを得ない一方、なるべくその数は減らしたいというジレンマを抱えています。そこで、請負金額によって施工現場毎に雇用できる外国人労働者の数を制限したり(MYE)、職人の技能レベルが集まればレヴィ(人頭税)が安くなるといった制度をつくり、施工会社に外国人労働者の数を減らすインセンティブを設けています。また、工業化によって現場作業を減らせば必要な職人の数は減るので、建築の工業化のレベルを数値化し、これが一定の値を下回ると確認申請がおりないといった発注者、設計者に対する工業化のインセンティブも設けています。いずれにせよ国民の反発等もあって、外国人労働者はできることなら減らしたい、なるべく人の目につかないようにしたい、でも頼らざるをえない状況で、やれることは何でもやるという状況です。下の動画は韓国ゼネコンの現場をとりあげたコカコーラのCMです。なんとも言えない雰囲気が伝わるかと思います。

アメリカには移民もいますが、アメリカ人も現場で多く働いています。給料がいいからです。横貝らの調査(2016)によると、ユニオンの職員の時給は福利厚生含めて平均50ドル程度でした。そして昼になると帰ってしまいます。以前、アメリカの職人ユニオンの調査に行きましたが、全米に訓練施設があって、そこの講師を教える教育施設がラスベガスにあります。このようにきちんと訓練して、きちんと給料を稼ぐ仕組みがあります。少し前に下のリンクの記事が話題になっていましたが(見に行きたいと思っていますが)、きちんと技能を身につけて良いお給料をもらうといった好循環も、景気が良いとありえるようにも思います。

それで日本はどうかというと、まず待遇はあまりよくなくて現在改善しているところです。そうした中でもこれまで日本の現場では日本人の技能労働者がほとんどでした。待遇がよくて現場に自国人もいるのがアメリカ、100%外国人なのがシンガポール、待遇がよくなくて自国人でほぼまわしてるのがベトナムと考えると、日本はベトナムに近い状況です。

そうした日本でも最近、建設現場で外国人の方を見る機会が増えました。これまでは外国人の方がいても教育目的、国際貢献目的の技能実習生でした。そこから2019年の4月に大きな変化があって、就労目的の外国人労働者の受け入れが始まっています。この特定技能と呼ばれる新たな制度を使って、建設業は今後3,4万人の外国人労働者を受け入れようとしています。特に特定技能2号(現在始まった1号を5年経験してから)に認められると、永住とは違うのですが無期限にその職種の労働者として在住することが可能になります。型枠、鉄筋、とびなど野丁場から広がっていくと思いますが、町場でも見かけるようになっていくと思います。

つくるものとつくる人

シンガポールに話を戻すと、シンガポールの外国人労働者対策の特徴は、つくる建築とリンクさせているところです。外国人労働者を減らすために工業化を推進して、プレハブ化、乾式化へのインセンティブを設けています。

機械化によってつくるものがどう変わるか例を見たいと思います。例えば写真は畳の縫着機ですが、機械化しても作っているのは畳です。縫い方も職人が畳針を使って縫っていたのと変わりませんし、精度やスピードは違いますが同じ畳ができています。これは人の作業をそのまま機械に置き換えた例かなと思います。

写真 畳の逢着機

一方で、機械やロボットがつくりやすいデザインを考える分野もあって、ROD(Robot Oriented Design)などとも呼ばれます。福島原発の覆い屋を乾式嵌合で施工した例などは、人が近づけない中で四角錐状の接合部を穴に落とし込むだけで接合していますから、RODにあたります。最初に紹介した「人間と労働の未来」では饅頭の次にバウムクーヘンが登場します。バウムクーヘンは円運動と上下運動のみで作る機械生産を前提とした形状のお菓子として登場します。

図 バウムクーヘンをつくる機械(「人間と労働の未来」、中岡哲郎、1970年、中公新書より転載)

円運動と上下運動の組合せは在来木造のプレカットと一緒です。軸組接合部を純粋に機械が加工しやすい形にすれば金物工法のようにドリフトピンとスリットになりますが、大工の継ぎ手仕口の仕組みも残して現在の丸い蟻、鎌ができていると思います。

写真 プレカット(全国木造住宅機械プレカット協会HP)

「機械でもつくれる」を進めていくと「機械にしかつくれない」建築が出てきます。欧米の機械化やロボット化の事例を見ても、機械にしかできない形の追求は大きなテーマです。この分野で世界最先端をいくETH(スイス)でも、煉瓦を少しずつずらして構造的に最適な形状を目指す取り組みは10年くらい前から見られます。近年だと泥のような材料(ローム)を発射して毎回軌道や形状を記録し再度発射する方向を調整して構造物をつくる、といったように機械による繊細さやセンシングとの組合せといった面白い取り組みが見られます(下動画)。ただ、動画を見ても印象に残るのは、泥を練ったり、泥をセッティングする人間の姿で、どうしても、冒頭の饅頭工場の図を思い出してしまいます。楽しんでやってそうなので良いと思いますが。


裁量と信頼

最後にこれまでの話も踏まえて、これから職人さんとどういった関係が理想的なのかという点について少し考えたいと思います。下図は小学生と中学生のなりたい職業ランキングで、小学生だと大工がランクに入りますが、中学生だと入ってきません。建築家は中学生になってもなんとかランク内に残っています。

なりたい職業ランキング(ベネッセ、https://benesse.jp/kosodate/201802/20180221-1.html)

前にいた大学で推薦入試の面接をしていると、建築を志望する理由で多いのが、「小さい頃に住宅の現場の大工さんを見てかっこいいと思った」というものです。なんで大工さんを見て建築に携わりたいと思ったかと考えると、最初の話に戻りますが、職人さんが頭と体をつかって家1棟つくっている感じ、仕事の全体性や創造性、技能、工夫の余地、裁量の大きさのようなものを感じているからではないかと思います。小学生は純粋にそう思っても中学、高校とあがっていくと、人から聞いた待遇の話などで徐々に敬遠されていきますし、一度入ったとしても、実際の細分化された仕事の内容とのギャップがあってやめてしまうことも多いのではないかと思います。

「職人は自由だ。(中略)職人はどこにいても、人が迫害をくわえようとしたら、さっさと荷物をまとめることができる。かれは自分の腕をたずさえてそこを立ち去る。」(「エミール」、ルソー)

ルソーは上のようなことを言っています。職人は自分が嫌な仕事だととっとと出て行って別の仕事を探せば良い。お菓子でも建築でも自分がつくりたいものをつくる。「この住宅は俺がつくった」、「余計な口出しはするな」と言える感じです。そういう個人ベースで社会に対して目に見える形で働きかけられる仕事ってそうはない気がします。こういう職人にとってある種理想的な働き方があって、それが工務店にとってみると、職人に任せれば管理に手間をかけなくてもいいものができる。こういう関係が理想なのかなと思っています。今は、なかなか仕事に全体性がある、裁量があって自分で工夫をする、といった職人の働き方ではありません。職人に依頼する工務店やハウスメーカーもコンプライアンスの問題などで職人を信頼して任せるという感じではないと思います。

この信頼がなくなると、コストがかかります。例えば、職人が信頼できないからといって、現場監督がずっと張り付くことは多くの工務店やハウスメーカーでは不可能です。1日1回も行ってないと思います。じゃぁ、毎日記録つけるとか、ウェブカメラ付けますかとかどんどん変な方向に行ってしまうわけです。下の動画はアマゾンの倉庫です。アマゾンが買収したキバという物流のシステムでは、人が動くのではなく人のところに棚が運ばれてきます。このシステムのうりは、信頼できる作業員のところにしかiPhoneなどの貴重品は運ばないところです(クルツ、2018)。最先端の物流システムの差別化は作業者の信頼度をシステムに組み込むところにあるわけです。

住宅業界で、信頼できる職人、できない職人とか分け出すとどんどん効率の悪い世界になるような気がします。JBNの故・青木会長が昔、アメリカにリフォームの現場を見に行ったら家具を一回全部出すのに驚いたそうです。日本だと、家具も下手したら貴重品も残したままで職人さんがリフォームしてたりします。このあたりの信頼はあまり認識されていませんが大きな価値があるような気がしますし、職人不足で焦って変なことをして裁量や信頼がなくなるような方向に行くのはまずいと思っています。以上まとまらない話で職人に関しては新規入職、定着、待遇改善等々ありますが、職人さんに信頼して任せるようなところを職人さんとともに探していくのが大事ではないかと考えています。

その後の議論をまとめた内容メモ(工務店さんほかの参加者、権藤の意見が混在)

1.裁量を与えるのは理論上の理想。一方で、大工があれこれ考えなくてもガンガン作れるというのも大工にとっては楽だし1つの理想。一方で同じ作業ばっかじゃつまらない、違うことやりたいとも時々言われる。バランスが大事だと思う。

2.同じ作業ばっかじゃつまらないのは工務店側も同じでこれは感情の問題。一方で9割はコストの問題で同じ作業させた方が良い。たいていコストが感情に勝つ。「大工の腕を発揮する住宅」というのは、施主も工務店も職人も、3者が少しは感情を優先するような組合せになった極めて稀な場合じゃないと成立しない。

3.感情の問題があるから、住宅現場の看板に大工の名前を書いたり、お施主さんに仕事を見せたりするのが大事だと思う。一方で、それは工務店も一緒に行ったりコストがかかる。

4.性能やクレームの問題がある中で、大工に任せる部分が減るのは当然の流れ。工務店が責任をとらないといけない。仕事の段取りなどの面で大工がどんどん工夫してくれるのは工務店・大工双方にとってよいこと。そういう裁量もある。断熱・気密など大工が原理を理解しているとどんどん工夫してくれることもある。

5.家具の世界もクラフト、プロダクト(例えばイケア)に二極化してる。クラフトもよく見るとちょっと手作業入れただけでクラフトと言ってるし、それで喜んで買う人がいる。技能とか言うと「きちんと大工が施工して本物の木で伝統工法で」と言う原理主義的な考えがあるが、もう少し部分的な取り入れ方でもいいような気がする。木材はばらつきが大きいから手作業は最後まで多分残る。残ったところを強調しても良いのでは?

6.人生100年時代に純粋に仕事としてどうか考える余地がある。アメリカの話があったが、自分の手に技能をつけて、18歳から70歳まで細く長く健康に働けるとしたら良い仕事なのかもしれない。切り取り方・見せ方が偏っているような気もする。

参考文献

中岡哲郎、「人間と労働の未来」、中公新書、1970年

コンスタンツェ・クルツ 、フランク・リーガー 、「無人化と労働の未来」、岩波書店、2018年

権藤智之、日本の高層建築における施工技術の変遷 第4回 機械化・自動化、建築士2019年3月号、pp.40-43、公益社団法人日本建築士会連合会、vol.68、No.798、2019年3月

権藤智之,蟹澤宏剛,志手一哉,金容善,ベトナム・ハノイ市におけるペンシル住宅生産の実態調査,日本建築学会技術報告集,第24巻第56号,pp.397-402, 2018年2月

志手一哉,権藤智之,金容善,吉川來春,蟹澤宏剛,シンガポールの建築生産システムに関する研究-日韓6プロジェクトへのヒアリングを通じて-,第31回建築生産シンポジウム論文集,pp.137-144,2015年7月

横貝拓哉、蟹澤宏剛、志手一哉、安藤正雄、米国ユニオンにおける建設技能者の教育・訓練、評価、処遇のシステムに関する研究 セントルイス及び周辺地区の事例、第32回建築生産シンポジウム、日本建築学会、pp.263-268、2016年7月

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