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マンガ原作『ヨコハマ・トレンチタウンロック』第2話「チャーシューワンタンメン」③完結編

登場人物

所長…川向探偵社・所長

村木…川向探偵社・調査員

舎弟…依頼者。反社組織の一員。格闘家でプロレスラーの村上和成選手のような風貌

兄貴…依頼者の兄貴分。現在服役中だが間もなく出所する。プロレスラーの藤原喜明選手のような風貌

ーーーーー

※トビラ画面
道路沿い。空き家の前に立つ村木。空き家には古びた看板「ラーメン味西」。

タイトル、字幕かぶせて。
タイトル『ヨコハマ・トレンチタウンロック』   
    『第2話「チャーシューワンタンメン」③』

字幕⦅ついに、あの…チャーシューワンタンメンが!!⦆

ーーー

某所ー
コンクリートの高い壁…刑務所。
出入口。鉄の門扉が開き、坊主頭の男が出て来る。
出入口を振り返り一礼。
門扉が《ガチャ―ン》と音を立てて閉まる。
歩き出す男に、そっと近付く依頼者…舎弟。
タバコを差し出す。
舎弟「お疲れっス」
タバコをくわえる男…兄貴。
兄貴「おう…!」
ライターで火を着ける舎弟。
タバコを吸いこみ、煙を吐く兄貴…美味そうに。
兄貴「ふう~」
離れた場所にワンボックスカー。
所長と村木がその様子を車の前で見ている。
村木「…高級車とそのスジの方たちが、ズラリと並んでいるかと思いましたが」
所長「最近は反社が集団でいるだけで、通報されるらしいからな」
  「カタギさんにご迷惑を掛けず、目立たずひっそり出るのが得策なんだろう」
兄貴と舎弟が歩いて来る。
所長と村木の前に立ち。
舎弟「例の…チャーシューワンタンメンの店を探してくれたタンテイさんです」
兄貴、所長と村木に。
兄貴「おう…ご苦労だったな」
一礼する所長と村木。
所長「お勤め…ご苦労様でした」

市街地を走るワンボックスカー。
車内。舎弟が運転席に座り、その後に所長と村木。
最後部席の兄貴。
兄貴「で、あったのかい…味西は?」
舎弟「今、現地に向かってます…」
所長「…弊社の村木から、ご報告が」
村木、書類…報告書を出し。
村木「お探しになっていたご夫婦の店は…」
兄貴「…」
村木「先代…ご尊父の逝去に伴い、本店に移転」
兄貴「うん…」
村木「その後、残念ながらご夫婦の旦那さんもお亡くなりになり…」
  「…現在はおカミさんと息子さんたちで」
兄貴「そうか…」
  「おカミさん、元気だったか…働き者で愛敬のある人でな」
  「息子たちは当時上が高校生、下は中学生…もういいオッサンだろ」
村木「とにかく店は存続していますが…当時の味かどうかは」
兄貴「アンタ…昔の味を知らないだろう」
村木「はあ、その通りですが…」
  「…それ以前の問題と申しますか」
兄貴「ん…どうゆーことだ?」
村木、資料を渡して。
村木「ここに現在の状態というか…評判をまとめておきました」
受け取る兄貴。
兄貴「ああ」
村木「正直、ほぼ悪評ばかりです…」
  「…そして、私が自分の眼で確かめたところ」
  「それらはすべて事実でした……」
兄貴「でもよ…レシピを受け継いだんだろ」
  「…味なんか大して変わらないんじゃねえのか」
所長「いや、同じレシピで作ったとしても…」
  「必ずしも…同じ味になるとは限らないようで」
兄貴「ふ~ん…そうゆーもんかね」

海沿いの高速道路を行く車。
報告書に目を通す兄貴。
兄貴「代がかわると、味が落ちた…なんて言われるのは」
  「お約束みてえなもんだが…」
  「…それにしても、ひどい言われようだな」
村木「それでも…明らかに悪意でしかないものは記載してません」
兄貴、車窓の海を見て。
兄貴「久しぶりだな…この辺に来るのも」
兄貴「二度はゆけぬ町の地図…か」
舎弟「何ですか、それ」
兄貴「小説だよ…西村賢太だ」
舎弟「読書家っスね」
兄貴「ああ…塀の中でヒマだったもんでな」
舎弟「あ…」
笑いを堪える所長と村木。
所長「…」
村木「…」

海…。
やがて市街地に入り。
商店街・ラーメン味西本店前ー
停車する車。
車の後部ドアが開く。
所長、兄貴に。
所長「探していた"チャーシューワンタンメン"かどうか…」
  「直接確かめてもらうしかありませんな」
《コクリ》と頷き、車から降りる兄貴。
兄貴「…」
舎弟、前方を指差し。
舎弟「…オレたちはそこのコインパーキングで待ってる」
店の前に立つ兄貴。
車が発進する。
店入口。玄関を開け入っていく兄貴。
「いらっしゃいませ~!」

味西本店・店内ー
緊張した面持ちでカウンター席に着く兄貴。
厨房内。老婆と中年男が二人。
老婆がコップに入った水を置き。
老婆「いらっしゃ~い」
  「ウチはね…ワンタンメンがおススメよ」
兄貴、《ゴクリ》と唾を飲み。
兄貴「は、はあ…で、ではチャ―シューワンタンメンを」
老婆「ハ~イ!」
兄貴、コップの水を一口。
兄貴「お、お母さん…」
  「オレのこと…わかりますか?」
老婆「…?」
老婆、兄貴を見て。
老婆「前のお店だったかしら…」
兄貴「は、はい!」
老婆「いつも来てくれた人だね」
兄貴「…」
老婆「…はっきり憶えてないけど」
老婆、厨房の中へ。
しょんぼりとうつむく兄貴。
兄貴「…」
兄貴、店内を見回す。
客がいないテーブルに置かれたままの丼。
洗い場には、大量の洗いものがたまっている。
清潔とは言えない雑然とした厨房内。
やがて親子、兄弟で口論が始まる。
兄貴、《ふ~っ》とタメ息をついて。
兄貴「"はばかり"はどこでしたかね」
厨房内の中年男、無愛想に指を差し。
中年男「そこ」
席を立つ兄貴。

コインパーキングー
遠巻きに店を見ている、舎弟と所長&村木。
舎弟「そんなにヒドい店なのか」
村木「はあ…ネットでも“ラーメン・兄弟喧嘩”のワードで一発で出て来るほど有名のようです」
  「店内だけではなく、兄弟間で裁判沙汰になるほど険悪な関係です」
所長「おそらく今後…“母親”が亡くなった時が、本格的な争いでしょうな」
舎弟「遺産…相続問題か」
村木「餌に群がる蟻のような連中が、すでに蠢いてるようです」
所長、《二ヤリ》と笑って。
所長「骨肉の争い…ってヤツですな」
  「…ラーメンのスープにもなりませんがね」
舎弟「ウマい事言ってんじゃねえよ」
店入口、玄関から出て来る兄貴。
三人「…!?」
舎弟「ん…?」
  「兄貴…ずいぶん早いな」
舎弟、手を振って。
舎弟「兄貴~っ!」
兄貴、気付いて。
兄貴「お、おう…」

味西店内ー
チャーシューワンタンメンを運ぶ老婆。
老婆「あれ…ここに居たお客さんは」
中年男「トイレじゃないの」
何かに気付く老婆。
老婆「…!?」
水が入ったコップの下に千円札が二枚おいてある。
老婆「?」

市街地を走る車。
車内ー
沈黙に包まれている。
全員「…」
兄貴、車窓を見ながら。
兄貴「あの店に…」
  「…オレが探していたモノはなかった…」
舎弟「…」
村木「同じ系列の店が、この近辺にいくつかあります」
舎弟「兄貴…そっちに行ってみるか」
兄貴「いや、いい…」
  「他の店…ってことでもねえんだ」
所長「では…何をお探しですかな?」
兄貴「う~ん、何を探してるんだろうな…ずっと」
兄貴、微笑。
兄貴「思い出…じゃねえことはたしかなんだが」
無言の舎弟、所長&村木。
三人「…」
兄貴「…横浜〈ハマ〉に戻ってくれ」
  「ウマい中華をごちそうするぜ」
横浜中華街を想像する舎弟。
舎弟の声(中華料理!)
アクセルを踏み込む舎弟。
舎弟「急ぎます…腹減っちまった」
微笑の所長&村木。
二人「…」
車窓を見る兄貴。
兄貴「…」

(兄貴の回想)
ラーメン店店内ー
座敷席に座り、ラーメンをすする店主夫婦と20才の兄貴…笑い合う三人。
満員の店内。ホールを動き回る兄貴、ラーメンを茹でる店主、盛り付けるおカミさん。
厨房内。冷蔵庫を雑巾で拭く兄貴、制服姿の高校生と談笑。
洗い場。丼を洗う兄貴、隣で坊主頭の中学生が手伝う。
(回想終わる)

兄貴「すべての人間は自らふさわしいものを得る…か」
舎弟「何スか…それ」
兄貴「ん…その頃にいつも読んでいたマンガの一節だ」


寂しげな兄貴の表情。
兄貴「…」
字幕(兄貴の声)⦅日陰でしか生きていけない、オレもまた…⦆
ーーー

人が行き交う横浜スタジアム周辺…。
中華料理店内ー
兄貴、メニューを見て。
兄貴「何でも好きなモン頼めや」
浮かない顔の舎弟、タメ息交じりに。
舎弟「はあ…」
舎弟の声(ち、中華料理…)

トレンチタウンー
小さな店構えの古びた町中華店。

町中華店内ー
兄貴「タンテイさんたちも、遠慮するこたあねえぞ…」
兄貴、指を折りながら。
兄貴「バアちゃんの漬け物…」
  「…オフクロの味噌汁、カレーライス」
《キョトン》とする所長・村木と舎弟。
三人「…?」
兄貴「まあ…年を取ると食べたくても、二度と食べられないもんが」
  「だんだんと増えてくるもんだ…」
兄貴「…あのチャーシューワンタンメンも、そのリスト入りってことだな」
静かに頷く所長。
所長「…」
兄貴「まあ、ラーメンなんてよ…」
  「誰もが気軽に食べられる…庶民の食べ物だよな」
店内の本棚、マンガ本が並んでいる。
兄貴「薄汚れた"ゴルゴ13"や“あぶさん”が並んでる…」
  「…こういう小汚え町中華が一番だぜ」
横浜中華街を思い浮かべる舎弟。
舎弟「…」
舎弟の声(中華街…)
兄貴「何だよ…シケたツラして」
  「この店じゃ、不満か」
舎弟、首を横に振り。
舎弟「い、いえ…」
兄貴の横顔に、ラーメン店親子のカットバック。
兄貴「血が繋がっているからこそ…」
  「“憎悪”も根深いんだろうか」
所長「…そうかもしれませんな」
  「数々の歴史、童話や昔話、神話のテーマにさえ…」
兄貴「親の血を引く兄弟よりも…」
兄貴、舎弟の肩を《ポン》と叩き。
兄貴「かたい契りの義兄弟…か」
舎弟を見つめる兄貴。
舎弟「あ、その小説…オレも読みました」
兄貴「ウソつくんじゃねえ…演歌じゃねえか!」
  「てめえ…サブちゃんの歌も知らねえで」
  「この稼業やってのンか」
頭を掻いて、《てへへ》の舎弟。
豪快に笑う兄貴と所長。
微笑の村木…。

※ラストコマ
トレンチタウンー
路上生活者、反社風のヤカラ、老人の車椅子を押す女性介護士さん…トレンチタウン・メインストリートの光景。字幕かぶせて。
字幕⦅それは、過去…あるいは近未来の光景なのか⦆
  ⦅すべてが渾然一体となった混沌〈カオス〉…⦆
  ⦅ここは…ヨコハマ・トレンチタウン⦆


『ヨコハマ・トレンチタウンロック』
第2話「チャーシューワンタンメン」END

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https://twitter.com/ukon_gondo

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