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【マンガ原作】『ヨコハマ・トレンチタウンロック』第1話「開かずの金庫」後編

これまでのあらすじ

みなと街ヨコハマ。ショッピングストリート・元町の川の向こう側…ハマのディープゾーン"トレンチタウン"の古びた雑居ビル『川向(かわむかい)探偵社』。川を渡りやって来る依頼者の奇妙な依頼の数々…。
老婦人からの「"開かずの金庫"を開けるため、どんな鍵でも開けられる天才鍵師を探して欲しい」との依頼。所長と村木の二人は、トレンチタウンに住む、かつて“錠前破りの松”と呼ばれた松三を引き連れ、高級住宅街・山手の依頼者宅に向かう。

登場人物

所長…川向探偵社・所長

村木…川向探偵社・調査員

メグミ…川向探偵社・バイト受付嬢兼事務員

依頼者…高級住宅街・山手に住む70代の老婦人。和服を着用

松三…原作:ひじかた憂峰/作画:松森正『湯けむりスナイパー』より、第一話のみのゲスト出演。この話では、かつて“錠前破りの松”と呼ばれた男の役柄。トレンチタウンの住人

GM…トレンチタウンの住人。つねに横浜ベイスターズの帽子を被りGMを自称するほどのファン。トレンチタウン住人の情報に詳しい

依頼者の娘夫婦…ともに40代、ヤカラを思わせる風体

ーーーーー

依頼者宅・リビングー
片隅に高さ1.5mほどの大型金庫。
金庫の前に中腰の松三、金庫と格闘中…の演技。
それを囲むように見守る、依頼者の老婦人、娘夫婦、そして所長と村木。
所長、上目遣いで娘夫婦をチラ見する。
所長「…」
金庫の前の松三、突然手を止め。
松三「おっ…!」
松三に注目する娘夫婦。
娘夫婦「えっ?」
首を傾げる松三、肩を落としてタメ息。
松三「ふぅ~…」
娘夫婦、松三と同じようにタメ息。
娘夫婦「ふぅ~」
その様子を見る所長と村木。
所長・村木「…」
松三、再びダイヤルを回し始める。
娘夫婦旦那、松三に向かい。
旦那「ま、松田さん…なにかこう、道具のようなものは使わないんですか?」
松三、金庫に向かったまま。
松三「オレっちのような昔ながらの職人は」
  「そんなもん、必要ねえんですよ」
娘夫婦「…」
松三「この指先の感覚と、耳さえあれば十分でさあ」
  「…金庫の声が聞こえるようでしてね」
旦那「はあ…そういうもんですか」
凛としたまま、ソファーに座る婦人。
婦人「…」
婦人、突如として語り始める。
婦人「…主人は、金融業でした……」
  「高利貸し…今ならヤミ金とでも言うのでしょうか」
婦人を見つめる所長。
所長「…」
娘、婦人の前に立ち。
娘「お、お母さん…この人達の前でそんなこと」
婦人「いいの…この方達の前ではっきりさせましょう」
怪訝な顔の所長と村木。
所長・村木「…?」
松三、《二ヤリ》と笑うような表情。
松三「…」
中腰から立とうとする松三。
松三「う…うおっ!」
松三に注目する一同。
一同「!?」
腰を押さえ、のたうち回る松三。
松三「こ、腰やっちまった…!」
  「…ぎ、ぎっくりだ」
慌てて駆け寄る所長と村木。
所長「だ、大丈夫か…松三さん」
  「…じゃねえ、松田さん!」
村木「ま、松田さん…!」
苦悶する松三。
松三「だ、駄目だ…身動き取れねえ」
所長「わ、わかった…すぐ病院に行こう」
笑いを堪える村木。
村木「…」

(回想)
依頼者宅・庭ー
松三の言葉が甦る。
松三「10分…いや5分で充分か」
  「突然ぎっくり腰になる…なんてのはどうだ」
所長「…うむ、そりゃいいかもな」
  「病院に連れて行くってことで、オレたちも一緒に退散出来る……」
(回想おわる)

所長、婦人に。
所長「…つうことで、奥さん」
  「松…松田さんを病院に連れて行かなければならねえ」
  「申し訳ないが、今日はこんなところで…!」
娘夫婦旦那が舌打ちして。
旦那「ちっ…!」
金庫に思い切り前蹴りを入れる旦那。
旦那「くそっ」
《ポカ~ン》とする娘夫婦。
娘夫婦「…!?」
全員があ然とする。
《ギギギギ》と音を軋ませ、金庫の扉が数センチほど開く。
旦那、あ然としたまま。
旦那「あ、開いてるじゃねえか…」
《ゴクリ》と唾を飲み込む娘。
娘「…」
凛としたままの婦人。
婦人「…」
思わず金庫を見る所長、村木、松三の三人。
三人「…!」

金庫の前に娘夫婦。その後に所長と村木。
ソファーに座る婦人。
その向かいのソファーでは松三が腰を押さえ、横たわっている。
旦那「よ、よし…開けるぜ」
娘「う、うん…」
所長と村木も覗き込む。
旦那、金庫の左右の扉を観音開きに開ける。
金庫の中には、いくつかの引き出しがあるアンティークな箪笥が。
娘夫婦「…!?」
所長と村木。
所長・村木「…!」
娘夫婦が二人で引き出しを次々と開けていく。
だが、どこも中身は空っぽ。
残るのは、最上段の引き違い戸。
娘夫婦、顔を見合わせ一緒に頷く。
娘夫婦「…」
引き違い戸を開けると、そこには手提げ金庫。
旦那「お、おい…なんか、コントみたいだな」
娘「…そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
所長と村木。
所長・村木「…」
終始俯いたままの婦人。
婦人「…」
横たわりながら、婦人の様子をチラ見する松三。
松三「…」
金庫を手に取り、開けようとする娘。
だが、鍵が掛かり開けられない。
後から松三の声が…。
松三「貸してみなせえ…」
松三を見る娘夫婦。
娘夫婦「…!?」
所長と村木。
身体を起こす松三。
娘が手提げ金庫を手に松三のそばに。
娘「は、はい…」
松三、金庫を受け取り。
婦人の眼をしっかりと見据えて。
松三「奥さん…ようござんすね」
  「開けさせてもれえやすぜ…」
婦人、俯いたままで。
婦人「…はい」
松三、背広の内ポケットからヘアピンを取り出す。
手提げ金庫のカギ穴にヘアピンを差し込みピッキング。
さらにダイヤルを回す。
息を飲み込む娘夫婦。
娘夫婦「…」
松三に注目する所長と村木。
所長・村木「…」
やはり俯いたままの婦人。
婦人「…」
ダイヤルを回す松三の手が止まる。
松三「…!」
松三、顔を上げて。
松三「…開きやしたぜ」
手提げ金庫を婦人に差し出す。
松三「奥さん…アンタが開けなせえ」
無言のまま、受け取る婦人。
婦人「…」
全員が注目する中、手提げ金庫を開ける婦人。
手提げ金庫の中…一枚の紙。
紙を手にする婦人。
やがてその手が震えだし。
婦人の眼から、一筋の涙。
紙には手書きの文字。
文字⦅女のみち⦆

(婦人の回想)
1977年頃。
元町・ショッピングストリートー
背を向けて歩き出す紳士。
字幕⦅私がささげた その人に⦆
その後姿を見送る20代の女性…若き日の婦人。
字幕⦅あなただけよと すがって泣いた⦆
婦人の顔のアップ…涙が溢れ出している。
字幕⦅うぶな私が いけないの⦆
(回想終わる)

紙の手書きの文字。
文字⦅二度としないわ 恋なんか
   これが女のみちならば⦆
※『女のみち』(作詞:宮史郎/作曲:並木ひろし)より
文字の上にポタポタと涙がこぼれ落ちる。
顔を上げる婦人。
ア然とする所長と村木。
所長・村木「…!」
松三、ア然…。
松三「…!?」
リビングルーム。婦人と娘夫婦の三人…ロボットのアンドロイドと化しメカ剥き出しになっている。所長、村木、松三はこれまでの姿のまま、茫然と立ち尽くしている。

ーーーーー

トレンチタウン・BAR《KURONEKO》入口ー
夜。BAR《KURONEKO》の看板が点灯している。

BAR《KURONEKO》・店内ー
カウンター内には、『大川端探偵社』(原作:ひじかた憂峰/作画:たなか亜希夫)でおなじみの、都家かつ江のようなママ。
カウンター席で、村木、所長、松三の三人がグラスを傾けている。
松三、村木の顔を覗き込み。
松三「なんでえ、若え衆〈し〉…浮かねえ顔して」
村木「依頼者のご婦人は、中身を知っていたのでしょうか?」
  「あの、娘夫婦の目的…いろいろと釈然としません」
所長「おい村木…」
  「オレたちゃあ、マンガやドラマの探偵じゃねえんだ」
  「何でも回収すりゃあ良いってもんじゃねえぜ」
村木「…」
所長「オレたちは仕事をこなした」
  「その結果、依頼者が涙した」
  「ただ、それだけのことだ…」
村木「…では、あの涙の意味は」
所長「さあな…亡夫への愛」
  「いや…もしかしたら別の恋かもしれねえし」
  「それとも何かの悔恨なのか…」
  「…だが、それを探ったところでどうなる」
村木「…」
ママ、村木に。
ママ「アンタねえ…」
  「女の涙に言葉はいらないの」
  「意味を探ろうなんて、ヤボってもんだね」
松三「…そうでえ、若え衆」
  「言葉に出来るくれえなら、涙なんていらねえじゃねえか」
村木「はあ…」
所長「ちっ…どうにも辛気臭えな」
  「おい、ママさん…一曲歌わせてくれ」
マイクを握る所長。
所長「やっぱり…この曲しかねえわな」
立ち上がって歌う所長に、字幕かぶせて。
字幕⦅私がささげた その人に
   あなただけよと すがって泣いた
   うぶな私が いけないの⦆

※ラストコマ
ヨコハマ・トレンチタウン上空ー
夜。元町とトレンチタウン(※華やかな元町と薄暗いトレンチタウンのコントラスト)。二つの街の間を境界線のように流れる中村川…。

字幕、かぶせて。
字幕⦅二度としないわ 恋なんか
   これが女のみちならば…⦆

字幕⦅ヨコハマ・トレンチタウンー⦆

『ヨコハマ・トレンチタウンロック』第1話「開かずの金庫」END

※『#0〈コードネーム・ゼロ〉』はさらなるブラッシュアップのため、いったん休止非公開にして、後日改めて第一話からリスタートします

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https://twitter.com/ukon_gondo

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