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見習い死神くん 【短編】#3

2025年12月2日(火)  田中 数江 88歳 
担当者 オルクス(ローマ系) 過去0回 今回初担当

ちょっと緊張気味で4日後に故人となる数江さんの前に姿を現すと
以外に元気だったのに驚いた
てっきり病院のベッドで横たわっているもんだと思っていた

「はじめまして 死神のオルクスです。」
「・・・死神って事はもうすぐ天国に行くのかい?」
「4日後の 12月5日の午後11時8分に老衰でお亡くなりになります。」
「その日は次男の誕生日だから電話で話ことが出来るよ、死ぬ前に声が聞けて良かった 会えればもっといいんだけど」と可愛らしい笑顔
「死神ってのは怖いもんだと思ってたけど、あんたは礼儀正しいね」
「世間一般には怖いイメージがありますが私達は神様の使者でして、お亡くなりになる方の道案内が仕事でがざいます。」
「そんなに複雑な道なのかい?」
「道じたいは複雑では無いのですが、まだこの世に未練があって駄々をこねる方や、成仏しないで幽霊になる方などもいらっしゃいますので、、、」
「あんたらの仕事も大変なんだねぇ ところで4日間私の傍にいるのかい?」
「一人前の死神は普通亡くなる直前に現れるものなのですが、私は見習いでして4日前からお世話をさせてもらいながら信用して頂ければ、当日の道中もスムーズに行けるのではと思いまして」
「じゃ次回からは一人前になれるんだ」
「いえ、見習いとして10回お仕事しますと”見習いオルクス”と書いてある名札が ”オルクス”だけになり一人前になれます」
「私が若い時にやってたウエイトレスと同じだね 笑」

次は何をしようかと考えてると
「オルクス何ボケ~としてんだい手伝っておくれ そんな事じゃ一人前になれないよ」「すいません。」
遺品整理を手伝ってると「それはそこじゃない、やっぱりこっち、向きが逆」数江さんは人使いが荒かった
「長男夫婦が仕事から帰ってくるまである程度片ずけたいからね。
そうだ、長男夫婦はオルクスのことは見れるのかい?」
「見えません。私の姿を見れるのは亡くなる方だけです」
「じゃ長男夫婦がいる時オルクスと話せないね~」
「よく亡くなる少し前から独り言を言うようになったなんて聞きますが
あれは独り言ではなくて、私みたいな見習いの死神と会話してるのが殆どなんです。」
「そうだったんだね納得したよ じゃ話すときは私の部屋でしよう」
「あとオルクスの事は長男夫婦には言わない方がいいんだろう?」
「内緒でお願いします」

数江さんは死ぬ事は怖くないんだろうか?聞いてみると
「15年前から長男のこの家で一緒に住ませてもらってるし、4年前から53歳の長男に勿体ないほど良いお嫁さんの”はなちゃん”も来てくれて
何と言っても3年前には念願だった初孫も抱けたし文句なんてないよ」
と最高の笑顔にパッチリとした大きな瞳は少し潤んでいた

孫を抱いたお嫁さん、長男も帰って来たので夕食にする
「お袋さっきからニコニコしてるけど、良い事でもあったの?」
「二人ともありがとうね」長男とお嫁さんが顔を見合わせてるが無視して
はなちゃんが作ってくれた魚の煮付けを食べ続けた

◆12月3日(水)◆
数江さんは朝から出掛ける支度をしている「どちらへ?」と聞くと
銀行へ行って口座を解約するとの事「死んでからだと長男が面倒だろ」と
以外と優しいと思ってると ギロっとこっちを見て
「何だその顔は、以外と優しいと思ったね。以外と思った時はニコっとしてな。そんな事じゃは消えないよ 名札から見習いの文字は」
肩を落として後ろに付いてると 数江さんが振り返り
「背筋を伸ばして顔を上げろ。縁あってオルクスと出会ったんだ、10回じゃなくて5回で一人前になれたら私も嬉しいからね」慌てて ニコ
「さっき教えた事をすぐやるのは良いけど臨機応変に使いな、以外と優しいって言ってるのと同じだろ バカタレが 今日から厳しく行くよ」

数江さんが夕食の準備に取り掛かる 銀行の帰りにスーパーに寄って
海老、いか、なす、さつま芋、ピーマン、いんげんを買って帰ってきていた
「最近ははなちゃんがやってくれるから甘えちゃってね 
最後に天ぷらでも作ってあげようと思ってね
長男はいんげんの天ぷらが大好物だからさ」
ジーンとしてると
「オルクスがやってる事は人と人とを離れ離れにしてるんじゃない 人間誰しも死ぬんだ いい終わりかたをする手伝いをしてるんだよ 自分の仕事に誇りを持ちな このバカタレが」

お嫁さんのはなちゃんが帰宅
「どうしたんですか?夕食の準備してもらってるけど」
「今日は何だか 天ぷらが食べたくなってね~ 予定してるおかずもあったろうけど、わがままを許してね」
「わがままなんて」
「もう1つわがままあるんだけど聞いてくれる?」
「何ですか改まって」
「明後日の5日 はなちゃん仕事休めないよね?」
「上司に聞かないと分からないけど たぶん大丈夫ですけど、、、」
「本当かい じゃあとは長男と次男だな」

長男が帰って来た
「今日は天ぷらだよ」
「お母さんが作ってくれたのよ」
「ちゃんといんげんもあるよ」
「ヤッター お袋の天ぷら食べたかったんだ」

部屋で着替えてると奥さんが入ってきて
「ねぇお母さんちょっと変なんだけど、、、」
「どうして?」
「あなたの大好物も作ったし それと私に明後日仕事休めないかって」
「、、、」
「あとはあなたと弟さんだなって 小さな声で言ってたし 昨日のありがとうねも気になってたんだ」
「俺も気になってた 明後日は弟の誕生日だし何かあるのかなぁ?」
「弟さんにも言ってみれば」
「そうだね 今電話するよ」

「どうしたの兄貴?」
「突然だけど明後日の5日休み取れないか?」
「なんで?」
「お袋がさぁ………………」

◆12月4日(木)◆
数江さんは朝から誰かに電話していた
相手は 5歳下の妹 久しぶりに話したらしく
会話も弾み結構な長電話になった
妙にスッキリした表情なので
何故か聞いてみると
「妹とは元々仲良くて旅行なんかも行ってたんだけどちょっと疎遠になってね」
「……」
「だから最後は昔みたいに楽しく笑顔で話出来て良かったと思ってさ あんたのお陰だよ ありがとうねオルクス」
次は姪の由美子と美佐峰と由紀子と忍の計5人に電話をしてお昼になった

午後は手紙を書き始めた
長男、次男、長男のお嫁さん、次男のお嫁さん、
各自心のこもった感謝の気持ちで…

その後アルバムを見始めて何枚か引き抜きた
兄弟の赤ちゃんの時から最近の孫を抱っこしてる時までの計30枚位 これにもお願いの手紙を添えた
「この写真を棺桶に入れて」と

疲れたのか暗い顔になってたので
「数江さんお疲れ様でした」と
きわめて明るい口調で言ったが
返事が帰って来ないので
「大丈夫ですか?」と聞くと
「オルクス最後に1つお願いがあるんだけど」
「なんでございますか?私に出来る事でしたらやらさせて頂きます」
「……明日息子達、二人のお嫁さん、孫と私6人で食事がしたいんだ、最後の晩餐だからね」
「……すいません。私にそんな力はないです…」
「オルクスが謝る事はないよ、ただのワガママだから忘れておくれ」

◆12月5日(金)◆
5:00時起床 と言ってもほとんど寝てなくて
子供時代からの楽しい思い出を振り返っていた

「数江さん、おはようございます」
「おはよう、オルクス」
「ハァ・・・・・」
「どうしたんだいオルクス ビクッとして?」
「先輩方から聞いていたのとは だいぶ違ったんで・・・」
「何を聞いてたんだい?」
「最後は暗くなったり、恐怖に慄いて暴れだしたり、泣き止まなかったりといった感じでけっこう大変だぞって聞いていたものですから
こんなにも 晴れやかで、可愛いくて、素敵な笑顔に驚きました。
それと同時に数江さんは、いい人達に囲まれていい人生だったのが分かりました」
「翌々考えたら、恵まれた人生だったんだね 私は」

長男夫婦が起きてこない いつもは5時半に2人で起きてくるのに
もう15分も過ぎてる
長男は仕事で遅くなる時は深夜0時を過ぎるときもあるから
もしかしたら顔を見るのが最後かもと思い
見送ることにしたのにまだ起きてこない
ドアが開いてはなちゃんが「おはようございます」と
「大丈夫?いつもよりも遅いけど」
「大丈夫です。二人との今日お休みもらえたので」
「え 本当!」
「はい、あと弟さん夫婦もお昼前に来ます」
「お休み取ってくれたんだね」最高の笑顔で答えた

弟夫婦が来て6人で私の好きな回転寿司で
お昼ご飯を食べることになっていた

弟の誕生日会の名目だけどみんな私に気を使ってくれている
涙なんか出る暇もないくらい笑い声が絶えない楽しいお昼ご飯
孫がジュースをこぼしたり、醬油が服に着いたりするのも
楽しくてしょうがない
あと10時間思いっきり楽しもう

家に帰ってからも孫と遊びながらみんなとの楽しい会話で
盛り上がってるけど
私があと8時間で死ぬなんて誰も思ってないだろう
こんなに元気なんだから

お嫁さん二人で夕食の準備を始めだした
弟夫婦も嬉しいことに夕食を食べてから帰ると言ってる

息子二人も少し夕食を手伝ってくれて
テーブルに並んだのは私の好物ばかり
さすがにあんまり食べれないなんて事はなく
いつも以上に食べた だって「最後の晩餐」だもの

後片付けをしたら照明が暗くなったので
次男への誕生日ケーキを出してあげるんだ

テーブルに置いたら「ハッピーバースデー」を歌わずに
私と孫の二人でろうそくの火を消してとみんなに言われて
孫と一緒に「せーのっ!フ~~」
拍手と同時に照明が明るくなったら ケーキに

「お母さん いつもありがとう❤」

の文字が書かれていた
「この文字はみんなで書いたんだよ」と
込み上げる思いを我慢して
「みんな、ありがとうね、、、じゃ食べよう」
これを言うのが精一杯だった

孫に絵本を読んで寝しつかせた
残り2時間、お茶を飲みながら大人5人での楽しい会話が続き
あっという間に1時間が過ぎた10時に次男夫婦が帰って行く
残り1時間、3人でテレビを見ながらのいつも通りの会話

「今日はありがとうね、おやすみ」と最後の挨拶をしてベッドに入る
残り8分、本当に走馬灯のように自分の人生を思い出しながら、、、

2025年 12月5日(金) 午後11時8分
「田中 数江」永逝

「おまたせ、じゃ行こうかオルクス」
「、、、、、」
「オルクス、あんたがしっかりしなきゃダメだろ」
「、、、はい、、、すいません」
「ありがとうね オルクスのお陰で最高の終わり方ができたよ」
「でも素敵なご家族なんでちょっと心配が、、、」
「何が心配なんだい?」
「遺産相続などで兄弟喧嘩しないかと、、、」
「大丈夫だよオルクス、うちは先祖代々、、、」
「、、、、、?」

『由緒正しい、貧乏人だから』

ありがとうございました。

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