兄貴 お帰り【短編】#2
久しぶりの実家
三年前に帰って来て以来
今回も三年前も帰って来たくてではなく
仕方がないと言うかしょうがないと言うか
どうしても帰らざる理由で来ただけだ
前回は父、今回は母の葬式
さすがに長男の俺がいない訳にはいかない
俺は弟と二人兄弟
俺は東京で妻と娘、息子の
四人で暮らしてるサラリーマン
弟は奥さんと息子二人と娘の五人暮らしで
福井県の実家で父の跡を継ぎ里芋農家
子供のころから農家になりたいと言ってた弟
子供のころから絶対跡継ぎにはならないと
言ってた俺
仲が良く笑いの絶えない家庭だったしそれがスゴく好きだった
ただただ東京に憧れて上京するにあたり
弟に全部押し付けてしまった事に対する負い目があって
帰りずらくなってたのかもしれない
お通夜も無事に終わり 奥さんと子供達は実家に戻っていった
と同時に祭壇の前で座ってる俺の隣に
「黒龍」片手にした弟がやって来た
「仕事は忙しいの?なんかやつれて疲れた顔してるけど」
「……」
「あんまり無理すんなよ」
浅黒く焼けた顔にはだいぶ皺が増えたけど
精気溢れるたくましい男になった弟が…
それに引き換え仕事に追われ
家族ともすれ違いの生活で
独り浮いてる俺 …
希望の会社にも入社でき
順風満帆に昇進しながら
毎日を過ごしてきたが
大切な何かを失ってる
何かとはだいたい分かってるが
どうしていいかが分からない
無言で酒を飲んでる弟の横顔を見てると…
このままでは悪くなる一方だ
なんとかしなければ良くなる事はないし
愛する家族まで失う事になる
東京に戻ったら家族に相談してみよう
その前に弟にも相談というか頼みを聞いてもらおう
「なぁ 聞いてくれるか」
「なんだよ兄貴改まって」
「今から農家になるって 難しいか?」
「どうしたの急に 怖い顔して」
「……なんて言うか……」
「3年前に帰って来た時も 笑顔も見れなかったし心配してたんだ」
「……」
「親父もお袋も、俺達二人が笑ってる写真をよく見てたよ」
「……」
「俺も兄貴の笑顔 大好きだったし」
「……」
「俺は兄貴と一緒に仕事するのは大歓迎だよ
あとは兄貴の家族がどう思うかだな」
「ありがとう」
「久しぶりに見たよ」
「……?」
「いい笑顔」
「兄貴 お帰り」
ありがとうございました。
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