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ちゃんと捨てよう


先に言っておくが断捨離の話ではない。
今回は「大人の男なら、ちゃんと捨てた方が良いものがある」という話だ。



過去に何度か他人の引っ越しを手伝ったことがあるのだが、その中でも特に印象的だったものが2件ある。

1件目はひとつ年上の先輩の引っ越しだった。
業者を使わずに自力での引っ越しということもあり、先輩のご両親も駆けつけての大人数での引っ越し作業となった。

「この辺の服とかも要らないから、欲しいのあったら持ってっていいよ」

「じゃ、これとこれ貰います!あざっす!」

当時、100円未満のレトルト食品を駆使して食い繋ぐような懐事情だった私は、ライオンの食べ残しに群がるハイエナの如く先輩のお下がりを狙っていた。

そんな中、私がわざわざ軽トラをレンタルしてまで駆けつけた目当ての品の搬出となった。

「引っ越しにあたってベッド買い替えようと思うんだけど、誰か欲しい人いる?」

引っ越しの数日前に先輩がそう呼びかけた時、自宅のベッドが経年劣化で歪んでしまい、寝心地の悪い日々を送っていた私は誰よりも早く反応した。

中古とはいえ、いつも部屋は片付いていて清潔感もある先輩のお下がりなら大丈夫だろうという信頼感があった。
ズボラで汚部屋に住んでいる先輩のベッドだったら絶対に貰ったりしない。僕らが部屋で飲み明かしてどんなに散らかしても翌日には掃除して片付けている人だと知っているからこその信頼である。

搬出前に改めて現物を確認したが、数年使っていたという割には状態も良い。このタイミングでベッドを貰えるなんてラッキーだなと思いながら搬出の準備を進める。
壁際に寄せられていたベッドを少しだけ部屋の中央側に寄せて隙間を作り、手を差し込む。ベッドの両端を私と引っ越しを手伝いに来ていた友人で持ち、「せーの」で持ち上げたその瞬間、ベッドの側面に貼りついていた何かがハラリとフローリングの床に落ちた。

落ちたのは正方形のビニールのパッケージだった。既に開封されているようで端の部分がめくれてピラピラとなびいており、小さな文字とともに見覚えのあるOKサインのロゴマークが刻印されていた。

脊髄反射

私は咄嗟にベッドを置き、床に落ちたそれを拾い上げ、自らのズボンのポケットにねじ込んだ。大丈夫、隣にいた先輩のお母さんには見られていない。
「引っ越し作業中、親に使用済みコンドームの空き袋を拾われる、しかも友人達の前で」という最悪の事態を防ぐことができた。世話になった先輩へのせめてもの恩返しである。

想像してみて欲しい、例えば母親に隠していたエロ本が見つかるのと、家族、友人、大勢が集まっている場所でいきなり使用済みコンドームの空き袋が見つかるのとではどちらが気まずいだろうか?

答えは「エロ本のジャンルによる」だ。

人間性を疑われるようなエグいジャンルのエロ本とコンドームで比較すると全然コンドームの方がマシだ。むしろコンドームをちゃんと使っているという常識的な一面を見せられた方が逆に親も安心かもしれない。なので、一概にどちらがとは言い難い。

しかし、あのキレイ好きな先輩でさえ、やはり事に及んでいる最中はゴミを放置しがちということが分かった。装着し終えた瞬間には意識が完全にあちらを向いていて、今まさにゴミとなったそれをゴミ箱に捨てることなく、暗い部屋で適当にその辺に置いてしまうからこのような事故が起きる。
自宅を主戦場とされている方なら、大掃除などでベッドの下を掃除した時にコンドームの空き袋が出てきたことが一度はあるのではないだろうか?

しかし、これはまだ良い方だ。

2件目は随分とズボラな後輩の引っ越しだった。
引っ越し前夜の22時頃に私がビールを持って彼の部屋を訪ねた時、そこにはまだ荷造りが段ボールひとつ分も終わっておらず、引っ越しの準備がゼロのいつも通り散らかった部屋があった。

「いやぁ、準備しなきゃいけないと頭では分かってるんですけどね・・」

さすが大学を2度も留年した男の言葉だ、説得力が違う。その日は引っ越し前に最後にこの部屋で飲もうぜ的な会のはずが、後輩の尻を叩きながらの徹夜での引っ越し準備となった。

要るもの、要らないものの分別に始まり、ダンボールへの梱包、部屋の掃除と進めていく中で、ベランダにゴミ袋がひとつ放置されているのが見つかった。

あのゴミ袋はなんだと尋ねると後輩はしどろもどろにこう答えた。

「あれはですね・・半年くらい前にケンタッキーでチキンを買い込んでここで飲み会したんですけど、そん時の、空き缶とか、チキンの骨とか、片付ける時にとりあえず分別せずにゴミ袋に突っ込んだやつで・・燃えるゴミとか燃えないゴミとかがごちゃ混ぜになって入ってまして・・それで、捨てるなら分別しないとなぁって思って・・でも分別するのが面倒で、それで・・それからずっとベランダにあります。」

もういっそ分別せずにその時捨ててた方がまだマシだったんじゃないかと思われる代物だが、本人は分別をしたい気持ちはあるらしいので、コンビニでビニール手袋を買い、半年前の生ゴミと空き缶の分別作業に入った。

正直、分別作業中の記憶はほとんどない。その前後のことはかなり鮮明に覚えているのにだ。これはおそらく、脳が無意識に辛かった記憶に蓋をしたからだと思う。かなり時間はかかったが、無事、半年前のゴミは可燃と不燃の2種類のゴミ袋に分けることができた。その時点で時刻は朝の4時をまわっていた。少し疲れでふらつきながらも、分別の済んだゴミ袋をゴミ捨て場に出しに行こうと歩き出した私の足裏に、何か柔らかいものを踏む感触があった。

私が踏んでいたのは、中身の入った使用済みのコンドーム(本体)だった。
パッと見のビンテージ感から、かなり古いものだということが分かった。

黄色がかった糊のような液体が含まれたそれは中ほどでキツく縛られており、経年劣化しているものの私が踏んでも割れて中身がこぼれない程度には耐久性があったことが不幸中の幸いである。

それが半年前のゴミ袋から分別の際にこぼれ落ちたものなのか、それとも、それまでの大掃除の際にベッドの下から出てきたものなのかは分からないが、どう考えても後輩の使用済みであることは確かだ。

「踏んだのは女性側の面だから」と自分に言い聞かせて気を紛らわせたりもした。

意図的に避妊したとはいえ、中身のそれはいわば自分の子孫である。そう考えると、やはり本来は放置せずに早急に燃えるゴミに出して火葬すべきだと思う。てか、そういう理屈とか抜きにしても、せめて人に見られる前にちゃんと処理しましょうって話。

皆さんも今後は情事の際に出たゴミはちゃんとゴミ箱に捨て、早めに燃えるゴミに出すように気をつけて欲しい。

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