見出し画像

Ziegen jagen! デザイナーズノート【楽市フレッシュドラゴン大賞受賞】

はじめに

当記事は、2023年春にごみ国際が制作し「楽市フレッシュドラゴン大賞2023・大賞」を受賞したボードゲーム「Ziegen jagen!」に関してのデザインノートです。
Ziegen jagen!の製作過程の記録が他の方のゲーム制作の一助になれば幸いです。

読む前にルールを確認しておきたいという方はこちらのリンクからご確認ください。

着想

私は2022年から広島のボードゲームカフェplayful place(プレプレ)さんにて数月に一度のペースで開催されるテストプレイ会に定期的に参加しています。
2022年秋頃、次のテストプレイ会の開催日が決まり、いくつかの試作品を持っていく事にしました。
しかし、テストプレイ会まで数日、ぼんやり過ごすのもつまらなかったので、もし間に合えばということで、もう1作品の制作に挑戦することにしました。

短時間でのゲーム制作にあたって「骨組みはカラハ、性質の違う複数種類のコマが存在する」をコンセプトに定め、取り組むことにしました。

まずはカラハのおさらいです。カラハは古より遊ばれているゲームで、人によってはマンカラという方が馴染み深いかもしれません。並んだ皿から1つを選んでその中のコマを全て掴み、隣の皿から順番にコマを1つずつを撒いていきます。特定の皿に撒かれるコマの数や最後のコマが撒かれる皿をうまくコントロールして、勝利を目指します。

さて、今回「骨組みはカラハ、性質の違う複数種類のコマが存在する」というコンセプトに決めた理由はシンプルで「カラハ大好き、もっと気骨のあるやつを作りたい」という欲望に忠実になったからです。また、私たちと同じく広島で活動されているサークルパタタイカの狂道化さんが作られた「Galle Fort(ゴールフォート)」が木箱に入った木ゴマのみという無骨なゲームで憧れたというのは間違いなくあったと思います。

playful placeさんには
前作の眠れない夜の色からいつもお世話になってます

カラハの分析

さて、気骨のあるカラハを作ろうということで、このコアメカニクスにギミックを仕込むべく、カラハを2つの要素に分解しました。
・皿を選ぶ
・選んだ皿のコマを撒く
それぞれの要素からどのように発展させていくかを考えたらこんな感じになりました。

皿を選ぶ

皿を選ぶ上で最も重要なのはコマの数です。コマの数を把握することで、コマを撒き終える皿や、各皿のコマの数の変化も把握することができます。皿のコマの数はコマを撒く操作によって基本的に1つずつ増えるので、コマを撒き終えたい皿で撒き終える調節も可能です。
今回のコンセプトとした「性質の違う複数種類のコマ」というアイデアでは、各皿のコマの個数に加えてその内訳も重要な要素にできそうです。コマごとの価値が違えば、コマの個数による最適な選択と、コマの内訳による最適な選択が必ずしも一致しないというジレンマもギミックとして活かせるかもしれません。

選んだ皿のコマを撒く

従来のコマを撒く操作は至ってシンプル。皿を選べば、コマを各皿に順に1つずつ撒くのみです。ここに「性質の違う複数種類のコマ」を持ち込むと、どのコマをどの皿に撒くのかという要素が加わり、思考の幅が大きく広がりそうです。さらに、撒き終えた皿の位置によりダブルアクションを行える他にも、撒き終えた皿にあるコマの内訳によって様々な効果を設定することもできそうです。

こんな感じのことをあれやこれや考えつつ、ものは試しということで試作品のルールとモックを作ることにしました。

紆余曲折

脳みそを破壊する試作品1号

結論から言えば、最初の試作品はめちゃくちゃなものになりました。

試作品は、コマの種類を小麦、羊、羊毛、人、犬、金貨とし、変動する相場の中で各素材を安い時に仕入れ、高い時に売るゲームとしてデザインしました。最後にコマを撒いた皿のコマの構成に応じてコマを購入したり売却します。購入したコマはその皿に加え、支払いもその皿にあるコマで行います。
カラハでの操作による制約があるため、タイミングよく買って売るのは難しくなりますが、それによって難易度の高いパズルを解くような爽快感を得られると考えたからです。

最初のテストプレイ
机を紙皿が埋め尽くし、さながらインドの露店のよう

しかしここで、私はカラハに複数種類のコマを持ち込むことにより生まれる致命的な弱点に気付かされました。それは「選んだ皿のコマを撒く」過程で発生する、どの皿にどのコマを撒くかという選択肢が、際限ない思考量を要求するということです。
例えば、従来のカラハでは行動パターンは皿が5つあれば5通りです。しかし今回は皿が5つあれば5通り、そこに種類の違うコマが5つあれば120通りの合計600通りなのです!
その結果、試作品1号ではその思考ハードルから従来のカラハのような上手くプレイする爽快感は失われてしまいました。むしろ、前ターンの自身への不満が募る苦しいゲーム体験が先行していました。

初期案のコマとそれぞれの効果のメモ

また、コマが増減するギミックが搭載されていたのですが、思考負荷以外の面では明らかにコマを増やすメリットが大きくなり、コマを減らす場面はほとんどありませんでした。無計画さをコマの多さでカバーしつつ場当たり的なプレイングをする大味なゲームになってしまったのは悔しかったです。

試作品1号によるテストプレイは大きな問題点を明らかにしてくれました。一方で、「見たことないものが出来上がるかもしれない」「ぜひどうにか完成させてほしい」といったご感想もいただきました。そういった言葉は私のゲーム制作を強く後押し、非常にありがたかったです。

隠れた数字を見つける

最初のテストプレイで明らかになった問題点をもとに、さらなる試作品の制作を続けました。
コマの種類を絞ることを目標に設定してコマの種類を4種、3種と減らし、ギミックの組み合わせやバランスを地道に色々と試していきました。

よく覚えていないけれど没になった解決案
見るからにヤバそう

コマの効果を削減したり統合したりの試行錯誤を進める中で最も対処に困ったのが効果の発動トリガーでした。コマの種類を減らすと発動トリガー以外にも役割を与えられるコマが発生し、複数の役割を得たはずのコマが、発動トリガーの役割に振り回されて与えられたもう一方の役割を果たせないという非常に噛み合いの悪い状況でした。

転機が訪れたのは、いっそのことコマを2種類まで減らしたらどうかと考えていた時でした。草コマで動物コマを増やし、動物コマを売って得点にするという現在のストーリーの原型もこのタイミングで出てきたアイデアです。

草コマ、動物コマがあるとき、これで表せる数字は「草コマの数」「動物コマの数」「2種のコマの和」「2種のコマの差」の4つがあることに気がつきました。言われてみれば当たり前なのですが、気づいた時には体に電流が走りました。「2種のコマの和」で最後にコマを撒く場所が決まるのがカラハの根源ですから、使われていない「2種のコマの差」を効果発動のトリガーにするわけです。これによって各コマの個数は程度の自由になり、プレイングにも幅が生まれました。

かなりスマートになってきた

ビジュアルデザインとフレーバー

この辺りまでルールが定まった時点でビジュアルデザインやコンポーネントを決めることとなりました。

まず、カラハのコマは動物コマや草コマを採用しました。次に、カラハの皿。こちらは最初はなんらかの器やボードを使って表現しようと考えていました。しかし、コマを並べてのテストを繰り返すうちに、机の上がゲームボードであると同時にジオラマのようになってほしいと思うようになり、机上を区切るように柵コマを配置して盤面を作ることにしました。

完成直前までお世話になった醤油皿

木コマにこだわったのを振り返ると、先に述べた「Galle Fort」の影響もありますが、さらに遡ると子供の頃からHABA社の「tier auf tier(ワニに乗る?)」などのかわいい木のゲームやおもちゃに親しんでいたことも思い出して感慨深いものがあります。

そして、今回はいずれのコマもBGPさんで作られているコマを使わせていただきました。BGPさんのホームページを眺めていると、今度はこのコマとあの駒をを使って…とイメージが湧いて来ます。

木コマは正義

パッケージにもこだわって、麻袋にエンボス印刷した木製タグをつけることにしたので、これもまたせっせと準備をしていきました。

エンボス加工したタグ
結構お気に入り

計画性とインタラクション

ゲームルールがほぼ完成した段階で、インタラクションをどの程度入れるかという問題が生まれました。当初はインタラクションには妨害の要素を採用していました。妨害のインタラクションは複数手番にまたがる計画を容易に崩しうるため改善する必要がありました。

そこで、インタラクションを「ダブルアクション時に相手もメリットを得る」というものに変更しました。プレイヤーは自分の計画に集中することができるようになり、プレッシャーが適度なインタラクションとして機能するようになりました。

完成とフレッシュドラゴン大賞

テストプレイの末に完成したZiegen jagen!の初お披露目は2023年4月に開催された名古屋ボードゲーム楽市となりました。そして、光栄なことにZiegen jagen!は楽市フレッシュドラゴン大賞2023の大賞作品に選出していただきました。

フレッシュドラゴン大賞は名古屋ボードゲーム楽市が初頒布となる作品を対象に、ナンバーワン注目作品を決める賞レースです。もちろん良い仕上がりになった自負はあったのですが、それでも他にも素敵な作品が多くあった中での受賞でしたし、ボードゲーム制作を続けてきてなんらかの賞を受けるのは初めてだったので、非常に嬉しかったのを今でも鮮明に覚えています。

そして、受賞の後押しもあって、Ziegen jagen!は多くの方に興味を持っていただき、名古屋ボードゲーム楽市やその後のゲームマーケット2023春では完売となりました。

受賞式後の一枚
喜びの表情が下手です

おわりに

名古屋ボードゲーム楽市の運営の方々や、playful place(プレプレ)さん、BGPさん、テストプレイしていただいたみなさんには感謝しかありません。ありがとうございます。

これからも変わらず衝動的にゲームを作っては感想を食べる生物であり続けたいと思うので、応援いただければ幸いです。

※ゲームマーケット2023秋では【土曜日イ11】にて増版したZiegen jagen!を頒布予定です。ぜひブースにお越しください。

著:きゃし

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?