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中国に投資したお金は持って帰れないって本当?

15年くらい前でしょうか。まだ私が銀行勤めのサラリーマンだったころ、大阪の同じ支店で場所で働いていた先輩が上海に出張に来られ、お会いした時のことです。


先輩 「呉君、中国って投資した金を持って帰れないんやろ?」
私 「そんなことないですよ。投資した金を持って帰る方法にはちゃんとルールがあって、そのルール通りにやれば持って帰れますよ。持って帰れないのがわかってて投資する人なんでいるわけないでしょ!」


などという会話をしたことがあります。中国業務にかかわりのない人でこのように思う人っているんだなあと思いました。当時も今も中国本がたくさん売られていますが、確かに中国という国はハチャメチャで、当たり前のことが当たり前ではないというような内容が書かれたものがたくさんあり、もちろん全部が全部間違っているわけではないのですが、嘘くさい内容から相当誇張した内容が書かれていたりして、これを信じてしまうと先輩のように思ってしまう人がいるのも無理はなかったかもしれません。代表的なのが谷絹子(ながらく中国ビジネスをやっていた人であれば知っていると思います)が書いていたような本ですね。


さて、2021年になってこの認識はどのように変わってきているでしょうか。最近よくyoutubeを見るのですが、たまたま高橋洋一チャンネルというのがおすすめめで表示されました。高橋洋一さんとは日本の財務官僚出身の経済学者で、テレビでもよく見かける人ですね。さて、youtubeに上がっていた動画のタイトルは「中国進出のリスク 共産主義国に投資するとはどういう事なのか?」。たかだか8分ちょっとなのでちょっと見てみました。


今までテレビで見ていた高橋洋一さん、面白い話をする人だなあと思っていたのですが、この動画の内容に関しては「???」としか感じられなかったです。以下はこの動画で言っていたおおよその内容と、それに対する私のコメントです。


①なぜ中国進出するのか。大企業は先のことを読まず目の前のことを考え(投資したお金を本国に戻すことまで考えていない)、またサラリーマンなので投資するのは自分のお金じゃない。
→サラリーマンが自分の金で投資するのではないはそうですが、大企業は先のことを読まず目の前のことしか考えないから中国なんかに進出するというのは「?」を感じました。私のお客さんでも中国に進出して結構な期間がたち、がっつり儲けているところはあります。ほかにも中国でも受けている会社たくさんあると思うんですよねえ。だって日本の株式市場なんかでも俗に「中国銘柄」とよばれているところもあり、そういう会社はがっつり中国で儲けているからこそ「中国銘柄」と呼ばれていると思うんですよねえ。


②大企業よりも中小企業のほうが自分の身銭を切ることもあり、中国進出については慎重。
→中小企業が身銭を切る分慎重になるというのは確かにそうでしょうね。


③共産主義は個人が会社を持てない、オーナーにはなれない
→これは×。個人オーナーの会社なんていくらでもあります。うちもそうですし。


④資本の回収はできない。投資分は回収できない。投下資本回収するのは難しい。投下資本は置いて帰れという考え方なので、持ち帰れないのは当たり前。
→これも昔よく聞いた話ですねえ。資本の回収にも考え方はいくつかあるかと思いますが、まず資本を投下して利益が上がった場合、それを配当することができるか否かで言うと、当然配当することはできます。そんな実例いくらでもあります。次に、資本投下した資金そのものを回収するということであれば、わかりやすいのが会社清算ですが、これも手続きを間違えなければちゃんと投資者に残預金金を清算代わり金として送金することはできます。私が実際にハンドリングした案件でもちゃんと日本に送金できています。


⑤企業の売却市場もない。だから引き上げるから株を売りたいといったって当局が認めない。
→これも違いますねえ。撤退の手法として清算もありますが、持分譲渡の方法もあります。これも私が実際にハンドリングした案件があり、譲渡代金を譲渡者側(日本企業)にちゃんと送金できています。


⑥共産圏に投資しちゃいけないというのは常識。
→これは感覚的にはわかります(笑)。共産圏のイメージは政治的なこともあり正直よくないですよねえ。しかし、それを横においてビジネス目線で考えれば、中国に投資をするということついて、ビジネスがうまくいかなさそうだから見合わせるというのはあっても、今時中国が共産圏だから見合わせるというのはほとんどないのではないでしょうか。


さて、あらためて投資したお金は持って帰れないというところについて考えてみましょう。ひょっとすると私の知らないところでそういうことが実際にあったのかもしれません。しかし私の会社でもふんだんにとは言わないまでも撤退案件はそこそこやってきてますが、そういうのに巡り合ったことはないです。面倒なケースた確かにあると思いますが、とはいうものの、業界仲間からも投資資金を持ち帰れなかったというような話を聞いたことがありません。もしそれがあったとすれば、考えられるのは定められたルール通りに事務を進めなかったからではないかと。例えば、会社清算業務をどこかに依頼したとします。地場系の会社だと会社清算業務をやたらと安い値段で引き受けているところがありますが、こういうところに頼んでしまったケースにおいて高橋洋一さんが言われているような「資本の回収ができない」が多いのではないでしょうか。こういう地場系のやたらと安い会社は会社清算という業務自体は確かに終わらせることはできますが、後ろにある清算代わり金を送金するところにまで気を配っていないことが多いです。そのため、いざそういう問題が起こっても、「私たちが依頼されたのは会社清算(登記抹消)業務だけ」といい、それ以上の責任を取ろうとしません。うん、高橋洋一さんはきっとそういう事例ばかりを耳にしたのでしょう。一度そういう目にあってしまった会社に会ってみたいものです。


しかし、2021年にもなってまだこんな話がこんな有名な人の口から出てくるとは。そこにびっくりしました。高橋洋一さんのことは今までテレビで何度も見ていて、話す内容もちゃんとしていると思っていたので、なおさら残念に思いました。今後この型の話す内容についてちょっと色メガネで見るようになるかもしれません。ネタとして話すのはともかく、あんまりこういう話は信じないほうがいいと思います。

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