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〜どんぐりと山猫に会いに行こう〜大迫の山歩きツアー【秋編】に参加してきました(^ ^)

宮沢賢治の原風景を歩く

宮沢賢治の故郷として有名な岩手県花巻市。花巻市は、一市三町が合併していて、旧花巻市、東和町、石鳥谷町、そして大迫町という地域があります。
今回のイベントは、花巻市大迫総合支所の職員の方が企画したもので、以前は「宮沢賢治足跡トレッキングツアー」という名前で開催されていました。毎年、初夏と秋にやるのですが、初夏は「〜風の又三郎を追いかけて〜大迫の山歩きツアー【初夏編】」というタイトルでした。
大迫には、宮沢賢治作品の舞台と推測されるゆかりの地が存在します。そして、今回【秋編】で歩いてきたのが、こちら。

●猫底(注文の多い料理店)
●河原坊(河原坊・山の晨明に関する童話風の構想)
●笛貫の滝(どんぐりと山猫)→大雨のため中止
●早池峰神社
●水尻(早池峰登山口)
●宇瀬水牧野
●賢治文庫でふりかえり

台風の影響で朝から雨が降っていて、傘や雨具を身につけての見学となりました。本来歩く予定のコースだったメインの「笛貫の滝」は、雨で増水していて危険とのことで中止に。残念です。
町場ではそうでもなかったのですが、山の方は大雨でした。

でもいいこともありました。雨の日のフィールドワークは、晴れの日には見えない景色と出会えるということです。このイベントも長く開催されていますが、コースはさほど変えることがありません。それでも、天気や気温、山の状態の移り変わり、参加するメンバーなんかでも毎回がらっと雰囲気が変わります。
今回は雨天のため、急遽、早池峰神社に行けることになりました。

「注文の多い料理店」を感じさせる「猫底」

道の駅はやちねを目印に紫波方面に曲がって少し進むと、右側に猫底橋が見えます。そっちに進んで、Y字路を左にまがります。なんだか車もすれ違えないくらい道幅も狭くなってきて、本当にこっちでいいのか不安になってきますが、そのまま進み続けると、左側に小さな鳥居が見えてきます。
大迫町内川目村の記録によると、昭和初期までは、猫底には金山があったため、高山師が多く現地に入り、大変に栄えていたそうです。宮沢賢治がこの場所を訪ねたときは、ゴールドラッシュだったとか。赤提灯の飲み屋、料理屋、博打屋があったと伝わっています。

雨がしとしと降っていて、なんだかただならぬ空気感。集落の付近ですが、とても静かです。どこからか風が吹いてきて、山猫がにゃあごろごろ〜とやってきそうでした。
昔ここに住んでいた人たちはとても背が低かったそうです。瞳も青かったとか。だから鳥居も低く作られているのだと教えてくれました。

「山の晨明に関する童話風の構想」

おお青く展がるイーハトーボのこどもたち
グリムやアンデルセンを讀んでしまったら
じぶんでがまのはむばきを編み
經木の白い帽子を買って
この底なしの蒼い空氣の淵に立つ
巨きな菓子の塔を攀ぢやう

「宮沢賢治全集」(ちくま文庫)筑摩書房

河原坊にあるこの詩碑は、昭和47年10月16日に、全国では16番目の宮沢賢治の詩碑として除幕式が行われました。この碑の文字を揮毫したのは、当時亀ヶ森小学校の6年生だった女の子だったのです。びっくりしました。すごく味のある字で、大人が書いたみたいだったものですから。みなさんもこの詩碑を見にきたら、よーく見てみてください。
最初の、「青く展がる」とあるのは、早池峰山の早朝の景色だそうです。ぜひ実際に見てみたいなと思っていたら、たまたま読んでいた本に写真が載っていました。

宮沢賢治 早池峰山麓の岩石と童話の舞台 (共著 亀井茂・照井一明)

という書籍です。賢治文庫にありました。
今までに見たどんな「青色」より美しいです。機会があったら読んでみてください。岩石の話は素人には少し難しいですが、私なりに分かるところはありました。

早池峰神社で感じた「虔十公園林」

 その日はまっ白なやはらかな空からあめのさらさらと降る中で虔十がたゞ一人からだ中ずぶぬれになって林の外に立ってゐました。
「虔十さん。今日も林の立番だなす。」
 蓑を着て通りかゝる人が笑って云ひました。その杉には鳶色の実がなり立派な緑の枝さきからはすきとほったつめたい雨のしづくがポタリポタリと垂れました。虔十は口を大きくあけてはあはあ息をつき、からだからは雨の中に湯氣を立てながら、いつまでもいつまでもそこに立ってゐるのでした。

「宮沢賢治全集」(ちくま文庫)筑摩書房

ほんとうにそのとおりの景色でした。虔十さんには、他の人は気にも留めない、でも大切なものが見えていたのですね。当たり前にあるものの美しさに気づく感性の豊かさ。それは宮沢賢治さんが生涯持ち続けたものだったと思います。私はそこに共感を覚えたことがきっかけで、賢治さんを好きになりました。

道の駅はやちねでお昼ごはん

早池峰神社を後にして、バスに乗りお昼ごはんの休憩地点に向かいます。道の駅はやちねは、ワインやお土産はもちろん、美味しそうな地元野菜やぶどうなどが並んでいます。
なす、ミニトマト、ピーマン、じゃがいも…ついついお買い物を沢山してしまいました。
お弁当を持ってきていたので、講師の浅沼さんを囲んでランチタイムです。参加者の方の中には、浅沼さんのお話が聞きたくていらっしゃる方も多いんです。大迫と宮沢賢治の関わりや、山歩きツアーへのこだわりについてなど話しました。毎年同じルートを巡っても、全く同じことは起こらない。それぞれの年で新しい経験ができるし、作品の読みも深まります。それに気がついている方は、毎年参加してくださっています。

どんぐりと山猫のオブジェ

水尻〜宇瀬水牧野

その後は、当時宮沢賢治さんが早池峰山へ向かったとされる登山口「水尻」に向かいます。今では道路が整備されて、小田越ルートの入り口まで行くことができますが、当時はかなり離れた所から登っていたのですね。

次は宇瀬水牧野です。牛さんたちが座ってくつろいでいました。広々として気持ちよさそう。
ここからは近隣の山々が見渡せるのですが、あいにく曇っていてあまり見られませんでした。

賢治文庫でふりかえり

今日のメインだった、笛貫の滝。残念ながら見ることは叶いませんでした。なので、昨年の写真を貼ります。

一郎少年が山猫から受け取ったはがき作りました
笛貫の滝

また来年はきっとみんなで見ましょう。

賢治文庫の小さな椅子に、大人たちが座っている姿はとても微笑ましい光景でした。
今日一日、色んな場所に行ってみてみなさんどんな、賢治作品の原風景をご覧になったでしょうか。
山に降る雨に、足元の小さな草花に、思いがけず出会った動物たちに。きっとそれぞれ色々な原風景を感じたことと思います。

注文の多い料理店・序や、どんぐりと山猫の一部などを少し読ませて頂きながら、振り返りをしました。

参加者の方の中には、石に詳しい方もいらして、お互い情報交換をしていました。賢治文庫の本のおすすめの話をする方もいて、交流会としてもとても盛り上がりました。
大迫と宮沢賢治の魅力はまだまだ奥が深そうですね。

このツアーの内容を、ウェブラジオでも紹介してますので、興味のある方はお聞きになってみてください。