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家出のおかげで初めての家族旅行が実現

子供のころ「家族旅行」に連れて行ってもらったことは一度もありませんでした。高校まで実家で過ごし、大学進学を機に上京しましたが、家族そろって泊りがけでどこかに出かけた思い出が一度たりともないのです。

小学校の修学旅行で旅行の楽しさを知った私は、家族で旅行に行けないなら、一人で行けばいいと思い、中学1年の時、成績が上がったら夏休みに一人で伊豆に行きたいと父にお願いし、詳細な旅行プランを立てました。伊豆稲取温泉にホテルを予約し、バスで観光名所を巡りました。このころから分厚い時刻表が愛読書になりました。今でも、全国の路線がびっしりと載った地図の出発駅と到着駅に赤ペンで印をつけ、自分が乗る列車にマーカーを打つ作業を鮮明に覚えています。

なぜ伊豆だったかというと、ちょうどその時「サーティーンボーイ 僕は札束中学生」というドラマが放映されていて、同い年設定の岡本健一が盗んだ金をもって熱海で豪遊していたのを見て、ずいぶん大人っぽく見えて憧れたからでした。

初めて両親と一緒にホテルに泊まったのは、中学2年の冬に初めて家出をした時です。ある日、学校を抜け出し、郵便局で貯金を下ろして、「家出するなら日本海」と思ったかどうかは覚えていませんが、名古屋を経由して福井県の敦賀に向かいました。

敦賀駅に着いた私は、タクシーの運転手さんに、「海の方へ行ってください」とお願いしたのですが、当然怪しまれ、「泊る所は決まってる?」と逆に聞かれ、「いえ、、、」と正直に答えると、民宿のような場所に連れて行ってくれました。家出少年ながらちょっと不安とに感じ、「すいません。もっときれいなところに」とお願いしてこぎれいなホテルに連れて行ってもらいました。

部屋に着くと急に不安になり、速攻で家に電話してしました。その時両親は何も聞かず「安全の場所におるだな? 大丈夫だな?」というと電話を切りました。

それから数時間後、夜遅く両親がホテルを訪ねてきました。びっくりしていると父は、「お前のおかげでこんなところに泊まりにこれたよ」と一言いい、静かに家出した理由を問い始めました。

よくドラマで見る「心配かけやがって!」という言葉は一切なく、「自分も昔お前と同じような場面があったけど、ものすごく不安だったで、お前の気持ちはようわかるよ」と帰りの電車で言葉をかけてくれました。

家に戻ると母は、同居していた叔母に「この子ったら蟹が食べたいからって一人で福井に行っちゃっただに」とすぐばれるうそをついて、守ってくれました。

これが初めての家族旅行であり、初めて心配をかけた瞬間でした。




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