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「全然」は否定?肯定?日常的な意味は?

「全然」という言葉があります。よく使いますよね。いい意味で「全然いい」、悪い意味で「全然だめ」など。goo辞書にはこうあります。

[ト・タル][文][形動タリ]余すところのないさま。まったくそうであるさま。
「―たるスパルタ国の属邦にあらずと雖も」〈竜渓・経国美談〉
[副]
1 (あとに打消しの語や否定的な表現を伴って)まるで。少しも。「全然食欲がない」「その話は全然知らない」「スポーツは全然だめです」
2 残りなく。すっかり。「結婚の問題は―僕に任せるという愛子の言葉を」〈志賀・暗夜行路〉
3 (俗な言い方)非常に。とても。「全然愉快だ」

最近はなくなりましたが、つい最近まで「全然」をいい意味で使うことは誤用とされていました。「全然」は悪い意味しか持っていないと思われていました。上記の1の意味ですね。

しかし、2の意味、3の意味ではいい意味として使えますね。夏目漱石の小説には、「全然良い」という表現が出てきます。なぜ「全然」は否定の意味のみという認識が広まったのでしょうか。

答えは、国語辞典にありそうです。1952年(昭和27年)5月刊行の「辞海」(金田一京助編)では、

「全く。まるで。残らず。すべて。(下に必ず打消を伴なう)『―知らない』

と”必ず”という強調表現を用いました。また、全然の意味は他の時点で英語との対応を研究した際、「not at all」と「wholly」であるとしました。この後の国語辞典から、「not at all」の意味である否定の意味が正しく、肯定の意味である「wholly」は誤用・俗用だとするものが増えてきました。国語辞典は教育で使われるため、「全然」は否定の意味のみ正しいという認識が広まっていったのではないかと考えます。

「全然」は副詞ですが、副詞の働きは

状態:主に動詞を修飾し、動作・作用がどんな状態(どのように)かを表す副詞 「すぐに」「ときどき」など。
程度:疑問・禁止・感動などの意味を付け加える副詞 「とても」「もっと」「かなり」など。
叙述:(陳述・呼応) 被修飾語の部分に決まった言い方を必要とする(副詞の呼応という)副詞 「決して(~ない)」「なぜなら(~だから)」など。
指示:物事の様子などを指し示す副詞 「こう」「そう」「ああ」「どう」の四語だけである。(指示語)

です。戦後の副詞研究では、叙述の呼応に注目が高まっていたため、「全然」の呼応が否定の意味ということに注目が高まってしまったのではないかと考えます。

最後に、私たちが日常で使っている「全然」について考えます。いい意味でも悪い意味でも「全然」が使えることはわかりましたが、だからといって全然を「残りなく・すっかり」や「非常に。とても」という意味で使っている人はあまりいません。

友人との会話で、「全然大丈夫」は「とても大丈夫」という意味では使いませんよね。この言葉が出る状況は

友人:(大丈夫そうに見えないけど)大丈夫?
自分:(あなたが思っているのとは違って大丈夫だから)全然大丈夫!

友人:(突然予定キャンセルして悪いと思っている)ごめん。
自分:(あなたが思っているのとは違って問題ないから)全然いい!

という状況なんですよね。むしろあなたが思っているのとは違って大丈夫だからという否定の強調表現の言葉です。

このように、普段使っている言葉が辞典に載っている意味と少し違った意味で使われていることがあります。こういうことを考えていくのも面白いです。




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