日本人の9割が知らない石油開発の仕事

皆さんは石油開発の仕事と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。石油の開発というくらいですから、いいガソリンを作ってる?という方もいるでしょう。筆者は長年この業界で働いていますが、友人や親戚で石油開発の仕事内容について正しく理解していた人にはこれまで1人も出会いませんでした。あまりに認知されていない事に危機感を覚え、この記事を書くに至りました。

ただ、この記事では石油開発の仕事の魅力を訴えるつもりはありません。正しく知ってもらいたい、それだけです。その上でそれを魅力的に感じるか、つまらなく感じるかは人それぞれです。誤解を与えない限りのギリギリの平易さで書きましたので、気楽に御覧ください。

石油業界は大きく、上流-中流-下流の3つに分けられます、つまり石油を採掘する-運ぶ-売る、です。この上流がいわゆる「石油開発」です。端的に言うと「石油を採掘して中流に引き渡す」仕事まで石油開発の仕事です。ここまではイメージを持っていた方もいるのではないでしょうか。 日本では国際石油開発帝石(INPEX)が規模の点では最も大きく、世界的にはExxon Mobil(エクソン・モービル)が最大の石油開発会社として知られています。筆者もここまでのイメージは業界で働く前、学生時代から持っていました。その時は「石油を掘り出して売る仕事、、、?なんか定型業務っぽいし誰でも出来そうで詰まんなそう。」と思っていました。当時の筆者は創造性を発揮する仕事がしたいという志望があり、別の業界を志していましたが、採用担当の方の説明を聞くうちに「案外面白そう」と思い始め、面接を受け、幸いにも採用され、働き始めました。

そして実際働いてみるとそれまでのイメージがガラリと変わります。

まず衝撃を受けたのは、そもそも油田は探すものだ、という事。何となく油田はそこら辺に幾らでもあるものと思っていましたが、目星をつけて掘削して探し当てるものです。そしてその7割(!)は外れます。井戸一本掘削するのに最低でも10億円、高くつくと100億以上(平均では30〜40億)かかりますので、いかに成功率を上げるかが企業として生き残る鍵になります。

そしてこの石油を探すプロセスは決して当てずっぽうで掘るわけではなく、科学的に論理を組み立て、より成功確率の高い地点に掘削します。この論理の組み立て方は個性の出るところで、直接見ることが出来ない地下の状況を想像し、説得力のあるストーリーを作る能力が問われる創造的な作業です。深い科学的な見識、発想、論理構成、それを伝える力など、幅広い能力が求められ、定型業務とは程遠い世界です。

そしてやっとの思いで見つけた油田も、十分に大きくなければ採算が取れず、開発(石油を採掘すること)することは出来ません。 これまで費やしたお金と時間は文字通りドブに棄てた事になります。掘削した地点に石油があり、さらに十分に大きい確率は全体の1割に届かず、非常にリスクの大きい事業ということが分かって頂けるかと思います。

そしてやっとの思いで開発まで漕ぎ着けた油田は、いかに効率よく石油を掘り出すか、というステージに入ります。 これもイメージが掴みにくい所かと思いますが、地下に溜まっている石油はプールのような所にチャプチャプと溜まっているのではなく、スポンジのようなものの隙間に染み込んでいるというイメージが正しいです。その為掘削した井戸一本から石油を採取できる範囲は当然ながら限られ、いかに少ない井戸本数で多くの石油を取り出すか、という戦いになります。この作業には多くの場合コンピューターによる数値シミュレーションが用いられ、大学等でそれを専門に学んだ専門の技術者、いわゆる油層技術者が担当します。

石油の採取が進むと、地下から物を取り出すという性質上、地下に代わりの物を圧入しなければ地下のバランスが保てないということが起こります。海上の油田の場合これに海水が用いられます。そうすると何が起こるか。油を採取したくて掘削した地点は実は圧入した海水だらけだった、という事が起こり得ます。このような事態を避けるためにも数値シミュレーションが用いられ、地下の油や水の流れをシミュレートし、現在の姿をモデル化することによって新たに掘削する井戸の場所を考えます。ですので開発の進んだ油田のどの地点に井戸を掘るか、という問題は油層技術者の腕の見せ所になります。こうしてできる限り効率的に油を回収し、中流の業者に引き渡すことで売り上げが立ちます。井戸一本が数十億という世界なので、いかに効率よく回収するかは会社の収益に大きく影響します。

以上が非常にざっくりとした石油開発の仕事内容の説明になります。いかがでしたでしょうか。一口に石油を採取する仕事といっても、まず油田を見つける、さらに効率よく開発する、といったプロセスがある事をお伝えしました。ここまではさらっと流しましたが、井戸を掘る、というプロセスも大変高度な技術の結晶であり、これはまたの機会に解説致します。

最後に、石油開発業界の今後について。油価の低迷や環境問題、再生可能エネルギー等で、業界は非常に厳しい事業環境にあることは事実です。ですが依然として石油は人類の最も重要なエネルギー源であり、10年20年でそれが変わることはないというのが大方の見方です。とは言いながら世界の、日本の石油開発企業は着々と来るポスト・石油時代へ準備を進めています。各社の強みを生かしながら再生可能エネルギーやCO2の地下貯留事業、水素事業に手を広げ始めています。そこにデジタル革命が重なり、業界はまさに歴史的な過渡期にあるといっても過言ではありません。一技術者としてもそのような業界の流れにどのように乗っていくか、もしくは乗らないのか、問われていると感じます。

以上、まとまりなく書きましたが、このnoteを読む前と後で少しでも業界に対する理解が深まっていれば幸いです。






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