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一人勝手に回顧シリーズ#マーティン・スコセッシ編(16)#クンドゥン/無条件の愛

【映画のプロット】
▶︎クンドゥン
知恵の大海(ダライ・ラマ)という名は、チンギス・ハーンの子孫が付けた。戦火の絶えぬアジアで、チベットは、ダライ・ラマを指導者と仰ぎ、1,000年の間、非暴力主義を貫いた。彼こそは、仏陀の慈悲の化身である。1933年、ダライ・ラマ13世が逝去。4年後、旅人に身をやつした高僧が、チベットの寒村で、ダライ・ラマ14世を捜していた。だが、彼の旅は、終わろうとしている。仏陀が、再び、生まれ変わったのである。
ヒマラヤの高山。雪を抱く。精密な織物。カメラは引いて行く。
"話して。"
"Again?"
"Tell me."
"お父さんは、病気だった。家畜も死に、お父さんも死ぬかと。"
"Cow?"
"そうよ。牛も。馬も。ヤクも。Chickens. それに、4年間も、飢饉が続いていたの。"
"Yeah."
"One night 産気づいて、夜明けに、お前が生まれた。"
"Tell me."
"泣き声も上げず。"
"No cry."
"お前は、泣かなかった。お父さんは、元気を取り戻し、お前を『守る人(ハモ)』と名付けた。"
"知っている。"
"さあ、眠るのよ。ハモ。"

ベッドで目覚める少年。男たちの脚が見える。眠り続ける兄。母親が、覗き込む。
少年は、中庭に出る。父親が、馬に荷物をくくりつけている。娘は、竈門で、飯を炊く。
朝の食卓。
"僕の席。"
"No."
父親が言う。
"代わって。"
"やめなさい。"
"僕の席だ。"
"No. ここは、父親の席だ。"
"そこは、僕の席だ。"
"No."
"席ぐらい、代わってやって。"
"困った子だ。"
僧服をまとった兄が、言う。
"食べ物を、母親にしか、触らせないんだから。すべて、その調子。"
父親は、席を代わってやる。
"そういう子なの。"
"王様気取りだ。"
"僕の話を。"
"またか。"
"もう一度、話して。"
姉が語る。
"いいわ。お前は、夜明けに生まれたの。外は、静まりかえり、私が、お産の手伝いをした。お前は、少しも泣かなかった。甘いミルクを飲ませたわ。"
"うんこした。"
兄と喧嘩になる。
"やめなさい。僧院まで、送って行くよ。"
"Thank you 父さん。"
"思い出したわ。あの日、大カラスを見たの。"
"When?"
"ハモが生まれた朝よ。あなたは、病気で、この子を、ハモと名付けて、祈った。私は、少し休み、外へ出ると、2羽の大カラスが、ハモを迎えるように、屋根に。"
"ダライ・ラマのようだ。"
皆、手を合わす。
ハモは、立ち上がり、父親の顔に触れる。
"やめなさい。ハモ。"

馬に乗った一行が、高原の道を行く。
ハモは、2匹の甲虫を戦わせ、遊ぶ。1匹の甲虫を、土塀の隙間に置く。馬上の一行を見る。
ハモの家を訪う者あり。例の一行。
"ラサへ行く途中で。"
"入って。寒いでしょ。"
3人が、休む。
"台所を使ってください。"
ハモは、リーダー格の男が首に掛けた数珠、そして、男の目を見る。
男とおはじきで遊ぶ。
男の数珠をつかむ。
"僕のだ。"
"私が誰か、当てたら、あげよう。"
"ラマ僧。"
数珠が渡される。
"Mine."
男の目が、鋭くなる。
"駄目よ。ハモ。お返し。"
"普段は、こんな事しないのに。"
一行は、出立する。
"ラサと聞くと、必ず、行きたがる。ハモ。"
ハモは、抱き上げられ、泣き声を上げる。

夜。ハモは、母親に起こされ、連れて行かれる。
先日の男が、僧服を羽織り、数人の者と、部屋に控える。
"さあ、入ってくれ。これは、君の数珠?ほかに君の物が?"
テーブルに、仏具が並べられている。
ハモは、小さなでんでん太鼓を選ぶ。2つの鉦鼓のうち、高い音が出る方を選ぶ。
"そう。それも君のだ。"
みすぼらしい木の棒、赤いお椀を選ぶ。
"それも、あなたのです。"
眼鏡、孫の手。古ぼけた方の杖を選ぶ。
"これも僕のだ。僕のだよ。"
"そうです。法王猊下(クドゥン)。"
僧たちは、手を合わせ、頭を垂れる。
父親が、部屋を覗く。
"僕のだよ。"
"僕のだ。僕の杖だ。"
"僕のだよ。母さん。"
母親は、遠い目をする。
"別のを買ってあげるわ。"

それから2年。1939年
"ハモ。出発するのよ。"
"お前は、位の高いラマ僧になるんだ。怖がるな。"
ハモは、木の輿に乗せられる。
"今まで、男の子が選ばれ、これからも選ばれる。私が守ってあげるよ。大切な人だ。"
若い僧は、ハモを抱き締める。
"知っている。"
兄が、輿に乗り込み、ハモの隣に座る。
"座れと言ったか?"
兄は、ハモの手を払い除ける。
輿の列は、荒れた地を進む。走り去る鹿の群れ。雁行する鳥。
騎馬の職員が、告げる。
"レティング摂政猊下。行列が見えました。"
日が暮れ、一行は、野営する。
"ご命令で捜した子が、あのように成長を。好奇心のある元気な子ですが、少し恐れています。彼を見出した人に、会う事を。"
レティングは、報告を聞き、僧服をまとう。
"頭をお剃りします。怖がらないで。髪を短く。"
ハモは逃げ回る。
"逃げないで。"
テントの外には、見張り。中に引き返し、ハモを見出した僧に遭う。
"暗唱を。"
"『私は、病を持つすべての人の医者で、薬で、看護人。すべての人を癒す。』。Can you remenber? "
ハモは、僧から、小さな桃を受け取り、僧がまとう赤いショールの下に、隠れる。
"『味方を持たぬ弱い人々を守り、川を渡りたいと願う人々の』"
レティングと唱和する。
"『橋となり、船となろう。』"
レティングが、語る。
"何世紀も前、1人の少年が生まれた。名は、ゲンデンドュブ。彼が生まれた夜、家に強盗が入った。家族は、殺されると思って、逃げ出し、赤ん坊を隠した。翌日、そこに戻ると、赤ん坊は、無事だった。2羽の大カラスが、彼を守っていた。それが、初代のダライ・ラマ。慈愛の菩薩だ。我々は、『クンドゥン』と呼ぶ。"
レティングの遠くを見る目。山岳にある湖。水面の煌めき。さざなみ。ハモの家。
"夢で、あなたを見た。私は、摂政のレティング。手掛かりをたどり、あなたを見出しました。あなたをお待たせしたでしょうか?"
レティングは、ショールを高く掲げ、ハモは、その下に入る。
"あなたは、再び、この世に甦ってくださった。できる限り、この世に留まり、また戻って来てください。この世に、生がある限り、甦り続けてください。生きとし生けるものに、愛を注ぐため、この世に、生まれたお方。生あるものに、慈しみを注ぐお方。生あるものが、息をし続ける限り、あなたのおられる所には、慈悲があり、仏陀の御姿があります。"

ハモたちの一行は、野外に設けられたステージに連なる赤い絨毯の上を歩く。両脇に、幾重にも人垣。手を合わす。
ハモは、台座に座る。数々の仏具を頂く。
レティングが、観衆に言う。
"慈愛に満つる仏陀。我々の願いを叶えたもうダライ・ラマ14世法王猊下。"
ハモの両親が、顔を見合わす。
人々は、ハモに頭を垂れる。

輿の一行は、また歩みを進める。ラサの石造りのゲートをくぐる。僧に、手を取られ、宮殿の階段を上る。ハモの両親が、見送る。

"侍従長が、お目通りを。"
"法王猊下。あなたの侍従長パラです。あなたにお仕えします。5世。ダライ・ラマ7世。"
壁の絵を示す。
"ダライ・ラマ13世。"
額装された肖像写真を見せる。
"成人の時、この玉璽が、法王のものに。"
ハモは、箱から取り出し、足元に置く。
"さすがです。14世。"
仏陀の頭部像の前に、ほかの僧を従え、座る。ハモは、笑い、周りの僧を見回す。供えられた水をネズミが、舐める。

"この布を、歯で裂きますよ。"
ハモに手品を見せる。ハモも、真似をする。
人形を並べ、対戦ゲームをする。
"あなたの番ですよ。"
"力を。"
礫で、敵の兵士を倒す。
"山に立って、皆を倒す。"
"私の方が、勇敢です。"
兵隊を、がさっと取り払う。
"兵は、多いぞ。"
"私には、頭のいい部下が、揃っています。"
"今日は負けても、明日は勝てます。日々、変わるのです。"

レティングたちの列を、ほかの少年僧と、小走りで追い掛ける。
"発見者のレティングに、あれほどの土地と金を与える?ダライ・ラマの家族にも、金品を与えねばならない。"
"父さんだ。"
"我々の財布は空。軍は、資金不足。この分では、摂政に、鼻毛まで抜かれてしまうぞ。"
"費用を負担させるのか?彼は、好き好んで、少年を捜しに出た訳では。"
ハモたちは、廊下で、部屋の中の様子を窺う。
"隠遁生活を好むお方だ。"
"女に囲まれて?"
"偉大なる13世が、あの子の顔に、現れている。しかも、生まれは、中国との国境の村だ。"
"『聖なる布(カタ)』を、中国の顔に、投げつけたようなものだ。『ここは、チベットだ。私は、ここに生まれる。この国境から先は、私の国チベットだ』と。"
レティングが、ハモたちの前に現れる。顎で所払いされる。
レティングたちが、部屋に入る。
"家や使用人に不都合は?"
"至れり尽せりです。"
ハモは、寝床に横たわる。土間にネズミ。
"母さん。"
とばりの向こうに人の影。僧は、経を唱える。
"母さん。"
僧が、ベッドにはじに、腰をかける。
"ここは、嫌いだ。"
ハモを抱き寄せ、言う。
"古くて暗い宮殿ですが、夏の宮殿は違います。庭があって、動物が。鹿や犬たち。小熊や小鳥。孔雀。"
"象は?"
"象はいませんが、川と湖が。"
"魚が?"
"沢山。"
"あの女は、誰?"
壁の仏画を指差す。
"ペンデン・ハモ。あなたの守護神。チベットの政府を守っています。"
"本当の女?想像なの?"
"本当にいます。本当に。"

また輿の隊列は、ラサを発つ。太鼓や鉦が、打ち鳴らされる。

門が開く。動物のいる庭園。鹿、孔雀、犬、羊の群れ。
錦鯉が泳ぐ池。ハモが、水辺に腰掛ける。
"小さい魚から。大きい魚は、待つんだ。小さい魚から。"
ハモは、庭を走り、建屋に入る。
"法王は、上座に。"
父が言う。
"父さんの席だ。"
"豚肉はよせ。頭が悪くなるんだよ。"
兄が言う。
"勉強も、僕が見張るからね。ダライ・ラマは、卵も駄目。"
髭を触る父を見て、父の口髭をむしる。父は、ハモの手を叩く。
"お許しを。"
母親たちが、戻って来る。
"戻ったのね。"
"ポンポ。卵だよ。"
"いけません。"
"うるさい。"
"そんな口の聞き方。"
"僕は、指導者だ。"
"誰の?"
"病気の羊を介抱しよう。"
"金持ちだ。買えよ。"
"買えるの?"
父に聞く。
"飼う場所は?"
"この家の中で。"
"では、買いましょう。" 
"立派な馬も買った。" 
"そろそろ宮殿へ。"
ハモは、母に手を取られ、言う。
"帰りたくない。"
今に続く部屋に、僧たち。
"あそこに僕の歯が。"
"歯?" 
"あそこに入れたんだ。ポンポ。開けて。"
壁際の物入れを開ける。仏具の中から、布に包まれた入れ歯を取り出す。
"昔、使っていた。"
"先代様の入れ歯です。"
"法王。"

レティングが言う。
"天のお告げを受けた。『ラサを去り、祈りに身を捧げないと、早死にする』と。" 
"では、すぐにそのように。"
"退任しても?"
"退任に賛成です。人々は、言っています。『戒律を守らぬ人間が、ダライ・ラマに、戒律を説く?』。その意見は、正しいと思います。"
"では、退任を。死が遠のいたら、摂政に復帰しよう。"
"すべて、法王のためです。"
レティングは、ハモの顔を覗き込み、去る。

ハモ。僧たちとテーブルに並べられた仏具を前に、王座に座る。
"リン師。ライチャン師。"
"救いとなる三宝とは、すなわち、仏・法・僧。それが、悟りへの道。"
"タクラ。レティングは?彼は、どこに?"
"ラサを去りました。"
"どこへ?"
"隠遁所です。"
"How long?"
"Several years. 務めを退き、新しい摂政と交代を。"
"I don't understand."
"申し難い事で。"
"どうして?"
"『私は、仏・法・僧に帰依する。』。"
"お前が、新しい摂政に。私の命令だ。"
僧たちは、一礼する。
"救いとなる三宝とは、すなわち仏・法・僧。それが、悟りへの道。"

ハモは、宮城の外に、遊ぶ。池のほとりで遊ぶ。牧羊の群れ。また宮城に入り込む。

それから4年。1944年。
ハモは、兄と車に乗り込み、車を走らせる。衝突する。僧たちが走る。

蔵の中を見て回る。
"貢ぎ物です。偉大な先代様の遺品です。"
サイレント映画を投影する。
望遠鏡を持ち出し、宮城の外を眺める。
建物の築造に、従事する人たち。輪になって遊ぶ子供たち。宮城の塀の中を覗くと、壁際に立つ髪の長い男。見れば、足枷がされている。男は、身を投じて、祈る。ハモも手を合わせる。
"四の真理を忘れぬように。"
"その真理とは?"
"御仏の説かれた四の真理。苦しみの真理、苦しみの原因、苦しみからの解脱..."
"謙虚さに欠けています。頭をお下げなさい。師であるリンに、頭を低く。"
"苦しみの源は?"
"傲慢。" 
僧は、首を振る。
"傲慢が、苦しみを呼ぶ。教えを暗唱して。頭は低く。"
"脳みそを搾らなきゃ。"
"Answer. "
ネズミが、供えられた水を舐める。
"人は、自らの身に、要らぬ苦しみを招いている。自ら、その理由を探し、求めよ。探し求める事で、苦しみを断つ力を得る。それが、平穏の道をたどる力となる。幸せと悟りを得たいと、願う者。これ、人なり。"
高僧たちは、うなずく。
"お前の役目は終わった。"
リンと頭を合わせる。
"行かないで。"
"大人だろ?大丈夫だよ。"
"I miss you."
"立派なダライ・ラマに。"
"安全な旅をして、また戻って来るように。"

写真誌をめくる。
"勝利への道"
"ヒトラーと側近たち"
世界地図で調べる。
"This is Britain. ポーランドは?"
"I don't know."
"真珠湾は?Do you know ポンポ?"
"存じません。"
"This is チベット。This is China. チベットの軍力は?"
"兵5,000です。"
"5,000人?凄いな。凄い数だ。チベットは、安全だね?"
"そう願います。"

シンバルが打ち鳴らされる。魔界の王のような身なりで、体を揺する男。
"Liers."
"愚か者ども。お前らは、何も学ばない。嘆かわしき5つの事。中国共産党のイデオロギー、国の内外からの危機。空しい献身、手先の技能、後悔と失敗。"
王は、ダライ・ラマに、王冠を渡し金属のコップの水を差し出す。
"先代たちの残した警告を心せよ。さもないと、戦争が、この国を襲う。心せよ。"
王は、気を失い、僧たちに担がれ、退場する。 
"法王。手紙をお目に。"
"ダライ・ラマ13世が、死の前年に書かれた手紙です。『私は、19歳になった時、この国の精神的指導者で、また、政治的指導者となる責任を負わされた。その責任は、極めて重く、私の心にのしかかった。やがて、中国の侵略。我々にできる事は、祈る事だけ。祈りは、聞き届けられた。真実の力とカルマは、人を裏切らない。我々は、中国軍を撃退した。だが、再び起こり得る我々の信仰と政府が、非難され、僧院が襲われ、破壊されて、僧や尼僧が殺され、僧院を追われる。我々は、征服者に屈し、物乞いのように、さ迷い歩く事になる。日々は、苦しみと恐怖のうちに、ゆっくりと過ぎ去る。』。"
"タクラ。生まれは?"
"カルポです。"
"パラ、お前は?"
"ラサです。"
"ここで?"
"Yes."
"子供の私に、何ができる?"
"あなたが、この手紙を書き、我々を導くために、甦られた。やがて、重い責任に目覚め、なすべき事が見えます。"
"B-29が、日本のヒロシマ上空で、人類の歴史を変えました。TNT爆弾2万トンに相当する新型爆弾が、巨大なキノコ雲と共に炸裂。雲の下の世界は、終焉さながら。恐ろしくも美しいキノコ雲は、空を彩る死と破壊のシンボルとなりました。科学者は、言います。『原子爆弾は、地球の最後の日を想像させる。地球の最後を見る者は、今日と、まったく同じ光景を見るだろう』と。"

"人の命が尊いのは?"
僧たちが、ダライ・ラマに問う。
"前世のカルマによって、与えられた命だから。無知なる者よ。"
銃声が響く。
"眠っては、ならない。"
僧たちは、立ち上がり、避難する。ダライ・ラマは、ショールで頭を覆われ、導かれる。
"I can't see. What's the happening?"
騎馬の僧服の一行が、入城する。
"よせ、私の友達だ。ノルブ。What's the happening?"
"前摂政が、逮捕されて。"
"レティングが?"
"お許しを。あなたの目に触れるとは。"
"見ては、いけないのか?"
騎馬のレティングが、宮殿を見上げる。
"内閣の招集を。"
"はい。"
閣議。
"それで、レティングは?"
"複雑な事件なのです。"
"Tell me."
"彼は、摂政に復帰したいと、その望みを捨てず、現摂政に、暗殺の手を。"
"Really?"
"レティングを守ろうとするセラ寺院の僧兵と撃ち合いが。"
"僧侶が、銃を?"
"ええ。今回は、銃を。"
"僧侶が、銃で戦う?"
"許されぬ事です。"
"今、レティングは?"
"このポタラ宮殿の牢獄に。"
"この宮殿に、牢獄が?"
"牢獄は、昔からあります。"
"色々、改革が必要だ。ポンポ。お茶を。"
"どこか怪我でも?"
"ご心配なく。そんなヤワな体では。"
"Now tell me about China."
"それも、complicated situation."
"中国は、またも世界に向け、『チベットは中国領土である』とアピールを。"
"チベットは、チベットだ。"
"昔から、両国は、互いの見解の差を、黙認し合って来ました。彼らは、それを変える気です。"
"残念な事だ。"
"中国人を、国に帰したら?中国人がいなけりゃ、中国領土ではない。"
"確かに。『チベットは独立国だ』と宣言を?"
"隣国のインドが、我々に力添えを。"
"独立したばかりで、自国の事で、手一杯でしょう。"
"Britain?"
"協力を避けます。"
"And America."
"アメリカの態度は、不明です。"
"大統領に、手紙を書こう。"
"よい考えです。"
"レティングに会いたい。"
"それは、なりません。"
"よい待遇をするように。彼は、私を見出した。私の師だ。"
"そのようにいたします。"
部屋を退出ぎわ、ダライ・ラマは言う。
"私は、もう子供ではない。すべてを報告せよ。"

ラジオを聴く。
"毛沢東の中国は、戦闘態勢。目標は、『巨大な赤い中国』。東洋も、鉄のカーテンで、仕切られるのか。20年の内戦を締め括るこの戦争宣言で、中国の自由の日々は、終結を?毛沢東軍は、北京に集結。"
ダライ・ラマは、手紙を書く。
"法王猊下。"
"Listen. 『アメリカ合衆国大統領トルーマン閣下へ。ご健勝に恵まれ、世界の幸せと繁栄のために、お尽くしのご様子。私も、御仏とすべての人のために、努力しております。』。ここまでだ。"
"レティングが、牢で、亡くなりました。"
ダライ・ラマは、手を合わす。

"心乱さず、次の成長段階へ。心を乱さぬように。"
"父上が、亡くなりました。あなたの手で、最後の法要を。心を乱さぬように。"
母親と父の亡骸に、対面する。
亡骸は、小高い丘に安置され、鳥葬に付される。空を舞い、地上に止まり、獲物を待つ禿げ鷲たち。
"中国は、共産党の手に。"
"観音菩薩。慈悲深い菩薩に祈りを。"
父親の遺体に、刃物が入れられる。
"毛沢東から、3つの要求が。『1つ。チベットは、中国の領土の一部である。』。"
父親の手がもがれる。
"『2つ。チベットの防衛は、中国軍自らが行う。』。"
鳥に、肉片が撒かれる。
"『3つ。諸外国との政治・交易の交渉は、中国政府を通じて、行う。』。"
肉を奪い合う鳥たち。

5年後。1949年
湖畔に集う高僧たち。
"どう返答を?"
"領土の一部だと認めれば、すべて終わりだ。"
向こう岸の牧羊の群れを指差す。
"その羊を買おう。"
"お前は、どう思う?"
"私は、虫ケラです。"
"3点すべてを拒否しよう。条件には、耳を貸さぬ。民の意見を聞こう。そして、守護神の声を。御仏が、導いてくださる。"
"そのように。"

仮面を被った異形の者たちのダンス。
こっけいな風刺劇。
ダライ・私はラマは、宮殿から、民の様子を窺う。
"どうぞ。"
ダライ・ラマは、障子の上から、廊下の様子を窺う。
"会議を。"
"法王。中国軍が、侵略を。"
毛沢東の絵を掲げた紅衛兵軍。
"川を越え、チャムド周囲の6か所に。"
"死者が?"
"無線手の報告では、1人。『中国軍が襲って来る』と言って、無線は切れました。"
紅衛兵は、土煙を上げながら、荒野を進軍して来る。
"人民解放軍は、平和裡に、チベット解放に着手。チベットの少数派の要請に応えての動きです。帝国主義の牙城であるチベットは、今も、独裁君主ダライ・ラマが支配する封建王国。首都ラサに向かう人民軍に、チベットの農民たちは、熱烈な歓迎を浴びせます。"
"民たちは、何と?"
"『あなたを統治者に』と。"
"私は、年若く、経験もない。"
"経験がおありだから、今の地位に。"
"ノルブ。人違いで、私を選んだのでは?" 
"No."
"他のダライ・ラマのように、私も、18歳で即位式を。"
置き時計を、手入れし続ける。

ダライ・ラマの前に、異形の神が、歩み出る。
"Time has come."

廊下を歩むダライ・ラマに伝令が伝える。
"法王。1950年11月17日が、御即位に、最も適した日です。"
"Yes."
"その後、お身の安全のために、ラサをお離れください。"
"分かった。"

ハモは、即位する。大仏に額づき、玉座に座る。きらびやかな仏具が、手渡される。
"西側に助けを求めよう。米国と英国、そして、インドに特使を派遣して、チベットの独立を承認するよう、要請を。お前たちは、首相として、中国に代表団を。"
僧たちの首に、細長い布をかける。
"近代化を目指した改革も行う。今日は、恩赦を発令する。囚人の釈放を。"
御璽は、蝋で封緘され、ダライ・ラマの出立の準備が進められる。
"これは、箱に。"
ノルブが言う。
望遠鏡も、荷造りされる。
"お前は?"
"残ります。勉学を怠らずに、僧侶は、政治に深入りせぬ事です。"
"寂しくなる。"
"楽しい日々でした。"
"楽しかった。"
"立派に、成人なさった。"
"お前は、年をとり、頑固になった。"
"外の世界においても、善は、常に悪を退けます。"

夜に、ダライ・ラマは、白馬にまたがる。ノルブが携帯のライトを手渡すが、動作が悪く、返される。
"直して、お送りします。"
ダライ・ラマの一行は、出立する。ノルブが、段々、小さくなる。
"お気をつけて。"

ラサ市内に入る人民解放軍。
高地の荒地を行くダライ・ラマの一行。
"政府を、インド国境のドンカル僧院に移します。世界の反響が、そこに届くのを待ちましょう。"
前方から現れた僧の一団が、一行にすがる。
"チベットは、離れない。すぐ戻られる。"
"行かないでください。"
ダライ・ラマに、頭を下げ、懇願する。皆、地面に体を投げて、行く手を阻む。
"法王は、お前たちを見捨てられるのではない。チベットは、離れない。すぐ戻られる。心配するな。法王は、戻られる。"
一行は、野営する。ダライ・ラマは、ふと目覚め、テントの出入り口に立つ。
"静かだな。"
"はい。法王猊下。"
見張りが、答える。
"Where are you from?"
"カムです。"
"勇者の地。"
"伝統的に。"
"我が軍には、武器らしい武器が何もない。戦闘機も軍用車もなく、砲もない。だが、敵に立ち向かう。"
"あなたのためです。間違いですか?"
"暴力には、反対だ。だが、すべての事には、原因が。"
"我々は、攻め込まれるような悪い事を?"
"非暴力主義には、時が必要だ。"
"我々に、その時間が?"
"I never know."

"法王猊下。これが届きました。"
見張りが、小箱を差し出す。携帯のライトが、届く。
"『真夜中が訪れ、菩薩は、一条の光を見た。その瞬間、菩薩は3つの存在を見た。』。"
経典を照らし、読む。
"『過去と、現在と、未来を。清らかな光の中に。菩提樹の下で、菩薩は、悪に打ち勝った。』。"
▶︎衛星政府
ドンカル僧院
ダライ・ラマの一行は、ドンカル僧院に至る。
しきりに、恭順の意思を示す僧たち。
"よせ。こういう無駄なしきたりは、廃止しよう。やめなさい。"
"ネパールの客人が、法王に、象を献上したいと。"
"Elephant?"
"本物の象です。"
"ここに?"
"はい。"
"見よう。"
"先代の時も、進歩的だった。"

ラジオニュース
"チベットは、完全に降伏。双方の代表が、北京で、17か条の協定に調印。チベットは、中国の一部に。"
ダライ・ラマは、急に、顔を伏せる。
"ダライ・ラマの使者が、彼の名で、調印を行い、本土との早急な再統合への願いを、表明した。"
憤り、立ち上がる。
"第1条 チベット国民は、帝国主義の侵略者を追放する。"

中国の軍人が、ダライ・ラマを訪ねる。
"張経布将軍閣下です。"
"毛首席が、あなたに敬意を。17か条のこの協定書に、あなたの署名をいただきたい。"
ダライ・ラマは、黙して答えず、お付きの者が、協定書を預かる。
"批准されたものと、理解します。"
"ラサへお戻りになるのでしょう?ご予定は?"
"検討中です。"
幹部が答える。
"戻られた後、我々と話し合いを。"
答えない。
"Thank you. 我々が、お役に立てる事があれば、ご連絡を。"
将軍一行は、退出する。
"頭に角の生えているモンスターのような男かと。だが、この私と、どこも変わらぬ普通の男だった。"
"忌むべき奴らです。幽霊にも、劣ります。"

"中国も、昔は、孤立していました。やがて、香料、絹、茶の交易。そして、西洋人は、中国に、需要が尽きぬ物を買わせた。阿片です。『阿片の毒で、我々を滅ぼす。』帝国主義者の奸計でした。連中の魔手から、あなた方を救いたいのです。"
中国の将校が語る。
"想像できぬだろう。かつての中国を。洪水、飢饉、その惨状。中国社会は、正に、崩壊しかかっていた。内戦の始まる前日だった。1人の男が、死んだ赤ん坊を、煮立つ鍋に。彼は、わめいていた。『死んだんだ。殺したんじゃない。』それが、毛主席の現れる前の中国だ。"
別の将校が語る。
ダライ・ラマは、彼らを夢に見、息を荒くして、起き上がる。

ダライ・ラマが、幹部と意見交換する。
"やはり、インドに行かれた方が。インドは、友好国で、安全です。アメリカからも、好意的な手紙が。"
"署名のない手紙だ。信用できない。中国は近く、アメリカは遠い。民の命にとって、中国は脅威だ。"
"チベットに留まるなら、お命の保証はできません。"
"国外へ脱出すれば、2度と戻れぬかも。"
"今までも、中国を抑えて来た。"
"今の中国は、昔と違い、共産主義国家です。"
"ダライ・ラマ5世は、中国と同盟を結び、東洋に、偉大な精神革命をもたらしました。"
"5世の時とは、時代が変わった。我々の命は、今は、問題ではない。民を守る事が、私の使命だ。ラサへ戻る。"

"侵攻当初の人民解放軍は、我々に、優しく、親切でした。それは、もう過去。私につきまとい、常に監視しています。雑言を浴びせながら。"
"Mother 夜の僧院に、女性は。"
"Go on. "
"皆、私と同じように、家を焼かれ、痛めつけられて。私が、私が、こうやって、ここに来られたのも..."
"Tell me."
"私が、あなたを殺すと、思っているのです。"
"私を殺す?"
"ダライ・ラマを、中国に従わせるようにと。それができなければ、私に、あなたを殺せと。"
"実の兄が、弟を殺す?本当に、そう思っているのか?"

荒野を走る人民解放軍の車両の列。
ダライ・ラマは、土塀の隙間から覗く。
ラサの宮殿に、人民解放軍の将校がやって来る。
"こんな所。ここは、過去の墓場だ。あの歌もやめさせろ。"
"Song? どの歌で?"
"譚将軍を歌った歌だよ。将軍の金時計の事を。確かに、揶揄している。"
"歌を禁ずる事は、できません。"
"集会を禁止しろ。大麦2,000トンの供出を。"
"This is imposible. チベットの民が、飢え死にします。食料を奪い、良い土地は軍用地。"
"代金は、すべて払っている。"
"今のところはな。だが、ない物は、供出できない。"
"茶は、お好きで?首相。"
"インド産のいい茶なら。"
将校は、憤り、立ち上がる。ダライ・ラマが制する。
"本日から、チベット軍を人民解放軍に編入する。"
"承知できぬ。"
"国旗は、中国国旗を掲げろ。"
"掲げたら、引きずり降ろす。"
ラサの街に、人民解放軍のアジテーションが流れる。
ダライ・ラマは、書類を読む。
"残念だ。"
"中国が、話に応じないのです。仕方ありません。"
"辞表を受理する。"
"新しい首相を?"
"首相は、置かない。"
"静寂まで奪われた。"

"英国、ネパール、米国、インド。すべて我々の代表を、門前払いに。"
"国連は?"
"我々の訴えを却下しました。"
"単独で、中国と相対するのか?''
"はい。単独で、交渉の場に臨まねば。ラサに、呼び寄せましょう。"
"そんな余裕はない。我々が、北京に。"
ダライ・ラマらは、北京に向け、馬を連ねる。途中、ダライ・ラマは、機上の人となり、空路で北京に入る。
子供の合唱で、ダライ・ラマを歓迎する。
"人民解放軍を、チベットに送り込んだ事に、中国全人民は、熱い支持を表明してくれた。特に、各地のチベット人は、これを歓迎。祖国の一部に戻る事を、強く希望している。"
毛沢東が演説する。
"中国の使命は、チベットの近代化である。チベットの民よ、祖国への帰還を歓迎する。"
ダライ・ラマは、毛沢東と一緒にカメラに収まる。ダライ・ラマは、毛の腹、靴を盗み見る。
"17か条の条約を、即、実現するには時期が早い。"
毛は咳き込み、お茶を飲む。
"チベットの民の要望に沿ったペースで行う。改革は、慎重に。その判断は、あなたにお任せする。チベットは、歴史のある偉大な地域だ。中国の一部を、征服した事もある。時代に乗り遅れたあなた方を助けたい。20年後は、我々を追い抜き、中国を助けて貰う事になるかも知れぬ。私の母は、仏教徒だった。私も、仏を深く尊敬している。仏は、階級制度と腐敗体制を退け、搾取を非難した。政治と宗教の混合を認める意見もある。菓子をいかがかな?私の故郷の菓子だ。母が、よく作ってくれた。"
ダライ・ラマは、菓子を摘む。

"毛主席の約束を聞いて、未来への期待が持てた。彼の家族は、仏教徒で農民だったんです。社会主義と仏教には、共通した部分も。"
衰弱したダライ・ラマの母の手をとる僧が言う。
"ご心配なく、中国の気候が合わないのです。"
"彼は、色々、約束を。"
"信用するの?"

"あなたは、普通の少年時代を持たれなかった。それを思うと、胸が痛みます。お別れです。法王猊下。"
"Good bye. 法王猊下。"
ノブルが告げる。
"Good bye. 法王猊下。"
亡くなった父親が告げる。
"ノルブ。Don't dye. 皆、死ぬな。"

"我が国の少数民族について一言。漢民族と少数民族が、統合された事を、全国民は、喜んでいます。"
中国側とのミーティング。
"漢民族は、奢っては、なりません。漢民族が、少数民族を助けて来たという考え方を、捨てましょう。少数民族も、漢民族の助けとなって、これから、中国社会の一部として、積極的に..."
ダライ・ラマは、数珠を置いて、席を立つ。洗面所で、手を洗う。
"ダライ・ラマ。Excuse me. 毛主席が、呼んでおられます。"
男は、数珠を手渡す。
"ダライ・ラマ。夜遅く、恐縮です。"
"明日、出発します。"
"Yes. I know. 北京のご感想は?"
"興味深い滞在でした。立派な工場とか。"
"学ぶ事です。人民の意見を引き出し、どう決断するか。若者たちの教化も。私からの連絡は、中国人でなく、チベット人を使いましょう。"
"Very good. 一部のご意見は、参考にします。僧院の改革とか。"
"そういう姿勢は、心強い。よく分かりますが、1つだけ、学んでいただきたい。宗教は、毒です。Poison. 民族を、弱体化させます。麻薬のように、人々の心と社会をむしばみます。人間を腐らす阿片です。チベットは、宗教に毒されている。あなたの民は、毒され、劣った民族となった。車まで、お送りしよう。"
毛とダライ・ラマは、車まで歩く。
"滞在を延ばされては?"
"残念ですが。"
"Take care of yourself. 手紙をください。"
車窓から見える毛沢東が、次第に小さくなる。

ダライ・ラマは、生家の村に帰る。
"ようこそ。またこの家に。"
老女が、水の入った鉢を、差し出す。ダライ・ラマは、指先を、水に浸ける。
部屋中に、中国を讃えるスローガンが、貼られている。娘が、ダライ・ラマに、お茶を差し出すが、中国人兵が制する。
庭で、ダライ・ラマに頭を垂れる人たち。ダライ・ラマは、老女に問う。
"幸せか?"
"はい。何の不自由もなく、中国共産党と毛主席様のお陰です。"
ダライ・ラマは、泣き出した老女の顔を、手で包む。

チベットのゲリラの生首が並んだ写真が、新聞に載る。
"勇敢な兵士たち。近代武器を持つ相手と、戦っています。"
"真実を聞かせてくれ。"
"リタンの僧院が、爆撃で破壊されました。上空から、石まで投げて。僧や尼僧は、路上で陵辱を受けています。子供たちは、銃を持たされて、『自分の親を殺せ』と。"
ダライ・ラマは、顔を伏せ、涙ぐむ。
"毛主席に、手紙を。"
"返事は、来ませんよ。非暴力主義が、報われぬ時は、抵抗を示すべきです。あなたは、努力された。チベットを出て、抵抗を示すべき時です。"
錦鯉の泳ぐ生簀に、赤い水の広がり。赤い水が、注ぎ込まれる。
血塗れの僧の死骸の中に、ダライ・ラマが立つ。ダライ・ラマが、息をつき、目覚める。
また中国の将校が、やって来る。茶を、勝手に、注ぐ。
"チベット領内に、中国人を移します。農民を4万人ほど。チベット東部で、暴動が。ゲリラ勢力を、チベット軍に抑えて貰いたい。"
"譚将軍。我々は、非暴力主義です。暴動など。"
"あなた方は、罪のない民に、爆撃を。"
ダライ・ラマが、語気を強める。
"抵抗したからです。"
"我々は、平和の民だ。"
"我々は、チベットの民を癒やし、解放したいのです。"
"我々を癒やしてくれるのは、御仏です。知恵と慈悲が、人間を解放する。私を解放するのは、あなたでなく、私自身だ。"

ダライ・ラマは、映画の戦闘シーンを上映する。
"あなたが、中国の手に落ちたら、最後。戦うしかありません。"
"You can not."
"あなたの最期は、チベットの最期。国外脱出を。"

中国の将校が、入城する。チベット人が、抗議する。書状を託し、帰る。
"『譚将軍は、ダンスの催しに、ダライ・ラマをご招待します。場所は、新築された解放軍大ホールです。』"
"ダンス?"
"Yes. 『諸般の状況に鑑み、警備の者の同伴は、控えるよう。』彼らの選ぶ警備の者を1人付けると。誰が、信用を。"
"彼らを怒らせては、ならない。"
"町の諸所に、戦車。ラサの郊外には、戦闘機。彼らは、とっくに怒っています。"
"お前の考えは?"
"私は、虫けらです。法王。長い目で、チベットの存続を考えるべきです。民を守るのが、法王の務め。私なら、ここを去って、インドに逃れます。"
"できない。『ダンスは、失礼する。』と返事を。『次の機会に。また手紙を』と。こういう時だから、嘘も仕方がない。"
"分かりました。お一人で行かせるなど、とんでもない。
"亡命など勧めるな。"
"今日は、やめておきます。"

宮殿に、遊牧民が入場する。ダライ・ラマが、入室する。民は、身を投げて、祈る。
"逃げて。"
"行かないでください。"
"脱出を。"
"大切なお命です。"
"法王猊下。"

シャーマンが、ダライ・ラマの前に現れる。シャーマンは、制止を振り切り、体を揺らす。
"橋も浅瀬もない大きな川を渡る時、望みは船だが、船もない。私が、船を置こう。望みを満たす我々の星は、西方で輝く。"

宮殿前の広場に集まる人々。
"法王猊下の御長命を。"
"手紙が参りました。"
"聞こう。"
"『ダライ・ラマとその側近が、敷地内に留まるなら、そして、その建物を明示するなら、我々は、その建物の安全を保証する。』"
"ここに砲撃を?"
"そのようです。"
"狙いが、外れたら?"
"追伸があります。『脱出は、できません。手を尽くし、妨害します。』。"
"『私は、ここに留まる』と伝えよ。"
民の祈り。
"町の様子は?"
"皆、怯えた表情です。法王が、町を出たという噂も。"
"必要品を届けて来る。トラックに銃を?"
"いい考えだ。"
"ケサン。仕立人を呼んで、軍服を作らせるのだ。見掛けは、着古した軍服のように。"

シャーマンが、色紙に、何か書きつける。ダライ・ラマに手渡す。
"発て。今夜。Go."
"ご託宣のルートは、中国軍基地のそばを通るので、危険です。"
ダライ・ラマは、手で制する。
土塀が、砲撃される。
ダライ・ラマの弟。
"僕も、銃を持って、戦う。"
母。
"私は、どうすれば?『旅の準備を』と言われても、いつ、どこへ?あなたとご一緒に。"
"母上は、先に。"
"改革を行おうとしていた矢先だ。それも、自力で、行う筈だった。"
"戦争に行く。"
"私は、戦争を許さない。"

ダライ・ラマは、不動明王に祈る。
"明かりを消せ。"
"ポンポ。長い旅に出る。この悲しい旅が、いつ終わるのか。お前も、一緒に。"
ポンポは、手を合わせる。
"基地が移動しました。ご託宣のルートは、安全です。インドに、お住まいを用意しました。"
"ありがとう。"
仏画の掛け軸を、丸めて、背負う。ダライ・ラマは、瞑想する。
"安全な旅が、見える。"
"また戻れる。出発しよう。"
夜、軍服姿の一行は、出発する。

僧たちが、居並ぶ中で、ダライ・ラマは思う。
"悟りに到達された御仏。御仏に従う者たちの魂に、祝福を。手を合わせ、私は全宇宙の御仏に祈る。光を掲げ、闇に迷っている者を、導きたまえ。"
宮殿の外に、人々が、彙集。
"道を開けろ。"
"軍の視察を行う。"
"道を開けて、通せ。"
"大丈夫。時間はある。"
焚き火を囲む僧たち。祈りを捧げる者。

僧が、精妙な砂絵を作る。
"手を合わせ、御仏に祈る。この世を去らず、未来永劫、留まりたもうて、世を暗黒から、救いたまえ。"

一行は、小さなボートに乗り込む。
"敵は、やがて無となり、友も、やがて無となり、私も、やがて無となる。そして、すべてのものが、いつか無となる。"
ボートは、ヒマラヤを仰ぎ見、川を下る。
騎馬で、高原を行く。遠く、ラサ城を振り返る。石積みに、石を乗せ、ヒマラヤの方に、手を合わす。
"徳ある者は勝利し、徳なき者は敗れる。"
側近が、つぶやく。
ダライ・ラマに向かい、母親、僧たちは、白い布を前に放り出す。
"この世の喜びは、いずれ夢のような思い出となる。過ぎ去った過去は、戻らない。"
騎馬の一行は、白い馬を連れた民と出くわす。ダライ・ラマは、白馬を受け取る。
"私は、自由なき者に、自由を与え、縛められている者を、解き放ち、救いなき者に、救いを与える。そして、彼らを、涅槃に導く。"
砂絵が、完成する。
僧院に立ち寄る。
"我々は、17か条協定の批准を拒否する。"
印影を潰す。
"我々は、チベットの臨時政府であり、主権は、我々の手にある。"
僧たちは、気勢を上げる。
雪の残る高地を行く。
砂絵が、指で、つままれて行く。
"御仏は、汚れを水で洗い流す事はなく、苦しみを手で取り除く事もされず、悟りをただ下される事もない。人は、真理の教えを経て、悟りに到達する。真理は、究極の現実。"
農家を一夜の宿とする。
目覚めると、隣に幼い自分が寝ている。
"法王。中国軍が来ます。"
また横を見ると、牛がいるばかり。
"お急ぎを。中国軍です。"
砂絵は、崩される。
骨壷の遺灰を、川に撒くのを、回想。
馬上で伏せるダライ・ラマは、遂に国境に至る。
"ご自分の足で、インドへ。我々は、勝ちました。"
警護の者たちを、振り返る。彼らが、殺戮されている情景が、見える。
"今までの行いにより、私が、積み重ねた徳の力で、生きとし生ける者の苦しみが消える事を。"
インド将校が、敬礼で迎える。
"敬意を込めて、お尋ねします。Who are you?"
"私は、ただの男。仏に仕える1人の僧だ。"
"あなたは、御仏様?"
"私は、月の影だ。水面に映る月の影。善を行い、自己に目覚める努力をしている者だ。"
砂絵が、崩される。
ダライ・ラマは、新居に収まる。望遠鏡を組み立てる。ヒマラヤの山並みが、見える。
"ダライ・ラマは、未だチベットに戻っていない。彼は、いずれ帰郷の旅に出る事を望んでいる。



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