見出し画像

17年喫茶店を続けてこられた方に宛てた手紙

じつは、よく想像するんです。

あなたのいる喫茶店に行く私を。
ドアをあけるといい香り。
もうそれだけで、
私は嬉しくてたまらない。
本当はにやにやしたいくらい。
でもはずかしいから、
嬉しさをかくしながら、
窓際の席にすまして座る。

コーヒー、スコーン、そして
にんじんサラダを注文する。

にんじんサラダがやってきて、
私はひとくち食べてこう言う。
「このにんじんサラダ、
 私好きなんです!」と。
さっそくあなたに話しかける。

でしょう、
って嬉しそうな顔をして。
私が話す言葉を
聞きのがすことのないよう
耳を傾けてくれる。
そしてあなたが描く、
そのままの絵のような笑顔を
あなたは今日も向けてくれる。

コーヒーからたちのぼるゆげに
光があたる。
光の小さな小さなつぶが見える。

このカップかわいいなあ。
あなたらしいなと思いながら
私はあなたの喫茶店で包まれる。



よく想像します。

エプロンをきゅっとしめて、
店内を掃除している姿を。
暑い日も寒い日も。
さ、がんばりますか
とエンジンをかけるあなたを。

どんな気持ちで毎日の
仕込みをされていたのだろう。
スコーンが焼きあがるたび、
にんじんサラダの味見をするたび、
コーヒーの香りをかくたび、
きっと。
よしっ!今日もオッケー!
きりっとした表情に変わり、
おきゃくさまを
迎えていたのでしょうか。

そして、今日も
一杯に心をこめる。
その姿を、おもいます。



よく想像します。
店内が落ち着いた時に、
どんなことに思いをめぐらせていたのか。

きっと、きっと。
頭の中でたくさんのスケッチをされて、
かたわらにあるスケッチブックに
あなたの心に住んでいる
たくさんのゆうじんを描いて
いろんな構想を
ねられていたのではないかと。
時には、むふふと
わらったりなんかして。

きっと。
とても丁寧に
向き合ってこられたんだろうな。
だから、あなたの言葉は
私の心で落ち着くのだろう。

行ったことのないあなたの喫茶店は
もうやっていないと知りました。
17年、おつかれさまでした。
行ってみたかったから、
勝手に想像しちゃいました。

本当に気持ちのよい喫茶店ですね。

ごちそうさまでした。