母と四つ葉
母がベランダで育てている日々草。
その植木鉢に、いつの間にか
クローバーが生えるようになったそう。
四つ葉のクローバーが何個も見つかる、
と歩きながら教えてくれる。
「え、それ、カタバミじゃないの?」
と疑う私。
うちの植木鉢にはよくカタバミが生える。
「違う違う。ほら、あの輪っかの、
冠つくる花。あれも咲いている」と母。
「シロツメクサか」
ベランダに出て確認する。
本当だ。両手の親指と人差し指で、
まるをつくったくらいの大きさの鉢に、
クローバーが生えている。
シロツメクサの花も咲いている。
風にのってやってきたってこと?
毎朝、この小さな植木鉢をのぞきこみ、
四つ葉をチェックしているそうだ。
この前は3つ見つけた、とのこと。
私もしゃがんで、
四つ葉を探したけれど見つからなかった。
台所の小さなカップに
水に浮かんだ四つ葉があった。
1ヶ月もこうして浮かべているそう。
*
久しぶりに行った実家。
あんたも息抜きしないとね、と言われる。
母はとてもきれい好きで、
家の空気が澄んでいる。
おばあちゃんにそっくりだ。
母の白内障が進んだ時は、
よく見えないから、
家の中も埃とかよくあって、
なんだかそれが、いつもの母では
なくなっていくようだった。
そう思いながら、
掃除した日もあった。
昨年、白内障の手術をして帰ってきたら、
「こんなにうち汚かったの!」
と驚いて掃除をしまくっていた。
「こんなにクリアに見えるんだ」
と少女のような輝いた瞳で
ソファーに座り、きょろきょろしていた。
「あんた、うち汚いって
思ってたでしょう?」
とニヤリと笑う母。
そんなことないよ、って
真顔で言っておいた。
*
母とは時々衝突する。
もう!ってこともある。
けれど、この前『ああ、困ったなあ』
って時に、えいっ!って電話して。
泣いてしまって。
こうして話せるのは、やっぱり
母しかいないなあ、と思った。
母という存在。
私もこんな風になれるのだろうか。
私の娘にとって、
こんな存在になれるのだろうか。
朝起きて、
四つ葉のことを思い出す。
私は " 幸せ " をもらって
帰ってきたんだなと思った。