母と四つ葉

母がベランダで育てている日々草。
その植木鉢に、いつの間にか
クローバーが生えるようになったそう。
四つ葉のクローバーが何個も見つかる、
と歩きながら教えてくれる。

「え、それ、カタバミじゃないの?」
と疑う私。
うちの植木鉢にはよくカタバミが生える。
「違う違う。ほら、あの輪っかの、
 冠つくる花。あれも咲いている」と母。
「シロツメクサか」

ベランダに出て確認する。
本当だ。両手の親指と人差し指で、
まるをつくったくらいの大きさの鉢に、
クローバーが生えている。
シロツメクサの花も咲いている。
風にのってやってきたってこと?
毎朝、この小さな植木鉢をのぞきこみ、
四つ葉をチェックしているそうだ。
この前は3つ見つけた、とのこと。
私もしゃがんで、
四つ葉を探したけれど見つからなかった。

台所の小さなカップに
水に浮かんだ四つ葉があった。
1ヶ月もこうして浮かべているそう。

久しぶりに行った実家。
あんたも息抜きしないとね、と言われる。
母はとてもきれい好きで、
家の空気が澄んでいる。
おばあちゃんにそっくりだ。

母の白内障が進んだ時は、
よく見えないから、
家の中も埃とかよくあって、
なんだかそれが、いつもの母では
なくなっていくようだった。
そう思いながら、
掃除した日もあった。

昨年、白内障の手術をして帰ってきたら、
「こんなにうち汚かったの!」
と驚いて掃除をしまくっていた。
「こんなにクリアに見えるんだ」
と少女のような輝いた瞳で
ソファーに座り、きょろきょろしていた。
「あんた、うち汚いって
 思ってたでしょう?」
とニヤリと笑う母。
そんなことないよ、って
真顔で言っておいた。



母とは時々衝突する。
もう!ってこともある。

けれど、この前『ああ、困ったなあ』
って時に、えいっ!って電話して。
泣いてしまって。
こうして話せるのは、やっぱり
母しかいないなあ、と思った。

母という存在。
私もこんな風になれるのだろうか。
私の娘にとって、
こんな存在になれるのだろうか。


朝起きて、
四つ葉のことを思い出す。
私は " 幸せ " をもらって
帰ってきたんだなと思った。