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エンジンのかからない朝に ~『おんなのことば』
きのう、朝に淹れたコーヒーを冷蔵庫で冷やしていた。夫が飲んだだろうと思っていたら、「飲んでないよ」と言う。冷蔵庫でコーヒーは私の帰りを待っていた。キンキンに冷えたコーヒーを夜の8時に一気に飲んだ。寝つきが悪くなると分かっていながら。そんな風にあえてする時がある。疲れた時になぜかそうする。
夜中、散らかったリビングを片付ける。テーブルの上をまっさらにする。ひとつひとつ元に戻して、心がすうっとしていく。
そして、あれはまずかったな、と大いに反省する。笑えない。子どもたちにかわいそうなことをしてしまった、と思い出す。やりきれなくて、気持ちのやり場がなくて苦しくなる。うっかりばばあ。
*
そんな風にした次の日の朝は、エンジンがやっぱりかかりにくい。ソファにどかっと座り、茨木のりこさんの『おんなのことば』(童話屋)を開く。「自分の感受性くらい」から始まり「汲む」で終わる詩集を。
初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった
私の志よ。と問いかける。
お母さんだけとはかぎらない
人間は誰でも心の底に
しいんと静かな湖を持つべきなのだ
私の湖を思う。大荒れだ。
…
初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
…
大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子どもの悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと.……
.…
「汲む」の詩を、友だちが私にぴったりだと、ある日教えてくれた。そんな風にして見ててくれたのね、とちょっとおかしくて(そんな風な自分だ)。「汲む」を読みながら、ちょっと泣いた。それでこの本はいつもそばにいてもらわないと、と思って買った。
茨木のりこさんの言葉を、感じる。
そうやってエンジンをかけていく朝。
次に生かそう。
日々に生かそう。
今に、生かそう、と。