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ある家族の切り抜き

「これ、全部むいたの?」
「○○、がんばってるよ」
「がんばってる」

里芋の煮物を作った。
息子の好物。
でも、今回の里芋はすごく小さい。
小さいのがたくさん入って99円だった。
小さい里芋をむいてむいて、
レシピ本通り、
一度ゆがいてぬめりを取り、煮た。
時々つくる。
見た目がいつもと違うからか、
息子は食べなかった。
里芋って時々おかしな味の子もいる。
多分、それを食べちゃったんだな。

夫が小さい里芋たちの煮物を見て、
なぜか私をがんばっている、と言った。
思いがけない「がんばってる」は
すっごく嬉しい。けれど、
「え、どうしたの?」
照れ隠しで言った。
「がんばってるよ」
となぜか繰り返す。
「どうしたの?」
念のためもう一度聞いておく。

なぜなら、私はうまくない。
いろいろとうまくない。
疲れることがあると、
部屋はあっという間に
おしよせる生活感。
そんな部屋を見て、
明日片付ける、と思いながら寝る。
まあ、私だけがやることではないのだけど。

生活感満載のテーブルを目の前に、
朝ソファに座り
テレビを見ている夫を見ると、
ちょっと申し訳ないと思う。

そんなことをよく思っていた中での
思いがけない「がんばってるよ」は
心にしみた。



昨日、餃子を作った。
包むの面倒くさいから明日にする、
と言ったら、小6息子が
「今日は餃子の気分だから手伝う」
と言う。ものすごくめずらしい事態。
「じゃあ、自分が食べる分だけ包んで」
と言って、各自包んだ。
息子のやる気は小2娘にすぐうつる。
息子20個、娘15個、残り25個は私が包む。
ホットプレートで焼いて、
あつあつを食べた。
ふたりともいい顔してる。

あんまりしゃべらない息子が
餃子を食べながらべらべらしゃべる。
ほとんどがYouTubeで見た
雑学だったけれど。
へえ、そうなんだね、と
ちゃんと聞いた。

餃子の日は、これからこのスタイルで行く、
と伝える。



私の具合が悪かった時に、
夫が夕飯をつくったときがあった。
そこに、サラダがあった。
きゅうりがスライスされてたんだけど、
それが縞目だった。
夫のお母さんがそうやっているのだろうか。
ピーラーできゅうりの皮が
何本かむいてあって。
それを見てすごいと思ってしまった。
なんかおしゃれ。
思わず箸でつまんで、
縞目のきゅうりをながめた。
「私、これやったことないんだけど」
「食べやすいかな、と思って」とのこと。

あの時の、
縞目のきゅうりを時々思い出す。

***

家族。
生活感あふれる家族。
だって、生活してるんだもの。
すべては切り取れない。
いろんなものがまざってる。
いろんなものが。

ある家族の切り抜き。

これはやっぱり比べられない。
どれが幸せだとか、本当に比べられない。
こんなことが、ある家族にあった。

こんなことを私は忘れたくない。
きっと忘れてしまうから。
忘れたくなくて残しておく。