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一人旅の心得 フィンランドノート(0)

27歳の時に念願かなってフィンランドを一人旅した。ろくに海外旅行の経験も、ましてや海外一人旅の経験もないのに、好きな国だからどうしても一人で行きたくて、エイヤー!と行った。でも、ここにいたるまでスムーズだったわけではない。

大学三年の夏、私はフィンランド旅行を企てる。バイトしてお金をため、通帳の残高がたまっていくのを見て夢が近づいていくのを感じた。目標金額に達し、北欧旅行専門会社のツアーパンフレットをじっくりながめ計画する。学生だしお金がないから、ポイントポイントで旅行会社を使おうと思った。全てを自分でやりくりする自信はなかった。

まわりには一人旅をする子が何人かいた。サークルのかわいい顔した後輩は長期休みのたびに一人であちこち旅をしている。この前はインドに行ってきたと言う。こわくないの?と聞くと、大丈夫らしい。「道ばたで休んでると、子どもたちがよってきます」とか言っている。彼女の存在もまた、私も一人で行ってみるか!と思った。

が、出発日が近づくにつれ、とんでもなくドキドキするようになった。ワクワクよりもドキドキがまさって、もう落ち着かない。ドキドキし過ぎて夜も眠れなくなってきた。私は決意する。キャンセル料が発生するけれど、もうキャンセルする!と。たしか五万くらいキャンセル料を払っている。二十歳の私には一人旅の覚悟が定まっていなかった。もったいない、と思ったけれどそう決めたことに安心する自分がいた(その代わり、私はその年に親友と鹿児島県の与論島を旅するわけだが、この話はおいておこう)。

社会人になって、フィンランド一人旅を実行する時がやってきた。今度こそ大丈夫だと思った。海外一人旅する同期(女の子)に、一人旅で気をつけることは何?と聞いたら、「日本で気をつけることと同じだよ」と言われた。これが妙に納得がいった。そりゃそうだ、と思う。
毎年毎年、海外一人旅している女の先輩とも親しくなって、先輩は出発前に励ましてくれた。先輩は耳が聞こえない。でも先輩にとって聞こえないことは大した問題ではなさそうだった。「斜めがけするカバンは後ろにしないで、前にしなね」と最後に言われた。そして「大丈夫!楽しんできて」そう手話で伝えてくれた。こんな励ましがあったから、私は一人で行けたんだと思う。



結論、フィンランドでこわい思いや、こわい目には合わなかった。とてもいい国だった。時々、アジア人がきらいなんだろうな、という人はなんとなくいたけれど。親切だったし、気持ちの良い国だった。

一人旅慣れしているひとからしたら、笑っちゃう話だ。母は思い出しては言う。あんたはすごい、と。一人でフィンランドに行ったんだから、と。もう20回は言っているだろう。そのたびに、私は嬉しくなる。

自分の夢を自分で
ちゃんとかなえたことが、
私はとても嬉しくなるのだ。