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エプロンパワー

『エプロンするか』
と思ったら、気持ちが入るのが分かった。
こんな些細なことで気持ちが入るなんて。
うれしいやろ
大分弁ではたしかこう言った。
ああ、もう大分弁も抜けている。
分からなくなっている。

大分には9歳までいた。私は社宅に住んでいた。空から見たら細長い箱のような建物がたくさん並んでいる町。いろんな会社の社宅と一緒に県営や市営の団地もたくさんあった。

夕方になると社宅の前は子どもたちの遊び場になる。いろんな年齢の子どもが一緒になって遊んだ。そこでお母さんたちはおしゃべりをしている。みんなエプロンをして。

母たちはエプロンをつけて、サンダルをはいて、近くのスーパーにも行く。そんな時代。母はいくつかエプロンを持っていて、いつもきれいにアイロンをかけていた。

私がエプロンパワーに気づき始めたのは、洋服に油じみがついた時だった。それまでは別にエプロンなんてしなくてもいい、と思っていた(わざわざエプロンをする意味が分からなかった)。揚げ物をしていたら、ワンピースに見事についた油じみ。大ショック。エプロンをするようになったのはそれからだ。エプロンがあるだけで、防ぐことができるのだから、エプロンってすごい(…当たり前すぎる気づき)。

料理をする時にエプロンするのが当たり前になってきたころ、それはやる気スイッチになっていることに気づいた。『めんどくさい』が、『よーし!やりますか』に変わる。
最近じゃ、家にいるときエプロンをしている。がんばるぞ!って時にしめている。

この前、商店街にマスタード色のエプロンが売られていた。他のエプロンは1000円とかなのに、それだけ1890円で、ちょっと躊躇してしまった。そしたらもうなくなっていた。ちょっと残念。私は今、ひとつしかエプロンを持っていない。新しいエプロンがほしい。新しいエプロンをしたら、さらにやる気が出そうだ。せっかくなら、すてきなエプロンを自分にプレゼントしよう。今、思いついた。

母は今もアイロンのぴしっとかかったエプロンをしている。『ふーん』と思って、ただ見ていたのに。私も母のようにエプロンをしたいと思っている。不思議なものだ。

さてさてさて!
エプロンしめて、がんばらなくては。
大分弁ではどうだったかな。
がんばるけんな
だっけ?…もう完全に、
私の中で大分弁が消えかけている。