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NHKマイルカップ2022 回想録

GW最終日、春の終わりと夏の訪れを知らせる初夏の熱波に打たれながら、人生初の東京競馬場に向かった。東西線から中央線へ、府中へ向かう電車に揺られながら、そこで繰り広げられてきた優駿たちの激闘と、きょう新たに創造され人々の記憶に刻まれるべきドラマに思いをはせていた。本命はマテンロウオリオン(父ダイワメジャー・母父キングカメハメハ)。新馬戦2着から万両賞(1勝クラス)そしてシンザン記念(G3)を制しマイル戦線に名乗りを上げた若馬で、前走のニュージーランドトロフィー(G2)は上がりメンバー最速の足で追い上げるも一歩届かずアタマ差2着。能力の高さは証明したものの、シンザン記念から応援していた僕にとって、ニュージーランドトロフィーでの惜敗はかなり堪えた。このレースは現地で観戦しており、その瞬間を瞳に焼き付けてしまっただけに、思い出すたび悔しさがこみ上げる。それゆえ、今度こそ三歳マイル王を決めるこの大舞台でG1タイトルの栄光を掴み取ってほしい、そう心に願っていた。さらに、鞍上が横山典弘であるということ、その事実が僕の応援をよりいっそう熱くさせる。ウマ娘から競馬の魅力を知り、過去の様々な名レースを好んで見るようになった僕は、その中で横山典弘という一人の変態的天才に出会った。掴みどころのない変幻自在の騎乗で知られる彼だが、おそらく合理を超越したその感性に魅了されたのだと思う。しかし、僕が競馬に出会った時代が悪かった。彼の全盛期はとうに過ぎ去り、54歳の大ベテランになった横山典弘の勝利数は全盛期の見る影もないほどに落ち込み、G1タイトルからも遠ざかっていた。あと10年早く生まれていればと思った。そうすれば彼の全盛期をリアルタイムで見れたのに。まあ、そんなことを気にしてもどうにもならない。その横山典弘が、今シーズン、G1でも勝ち負けできるスペックのある相棒と久しぶりに出会った。その相棒こそが本レースの大本命マテンロウオリオンだ。これはもう応援するほかないという思いだった。僕にできるのは、勝利を信じで祈ることだけだ。単勝派の僕は、マテンロウオリオンの単勝1000円馬券を握りしめてゴール板を少し上から見渡せる位置に陣取り、その時を待った。ゲート内で横も向いてカメラ目線を決めたり、伝家の宝刀ポツンがさく裂したり、ヒヤヒヤさせられる場面はあったが、彼は外伸びの馬場を知っていたのか、最後の直線凄まじい末脚で追い上げるマテンロウオリオンを視界が捉えたときは雲の切れ目から一筋の光が差すかのような希望が僕の心に…しかし…結果は2着……最後の直線で最後方から追い込みをかけ、メンバー最速の足で差し切りを狙うも、クビ差届かず…まさに前走のデジャヴ。この感情はどうすればいいのだろう、いや、一頭の競走馬を本気で応援するという営みは、常に負ける悔しさを背負う宿命と共にあるのかもしれない。また、”追い込んで2着”というのは、横山典弘にとっては黄金の負けパターンであり、その起源は競馬史において今なお語り継がれるオグリキャップの伝説のラストラン、1990年有馬記念におけるメジロライアンにまで遡ることができる。彼を応援し続けたいと願う競馬ファンならば、必ず受け入れなければならない現実。そしてこの感情を飼いならさなければならないのだ。ニュージーランドトロフィーで今回と全く同じ負け方を目の当たりにしたあの日を思い出して、何度も自分に言い聞かせながら改めて強く思う。それでも、マテンロウオリオンはG1で勝ち負けができる能力の高さを証明してくれたし、横山典弘も最後方からの矢のように伸びる追い込みで全盛期の輝きを片鱗たりとも見せてくれた。このコンビの今後に期待したい。いつかG1タイトルを掴み取る日を信じて。

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