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【日記】 激動の2月12日

 最後にnoteを更新してから長くも4ヶ月ほどになる。
いつのまにか自分の中で日々の出来事を書き溜める意味が薄れていった(書いてもどうせ見返さないと悟った)からだろうか。
しかしながら、昨日は実に目まぐるしい1日であった。
ので、久しぶりに文章にしてみようと思う。

 そもそも昨日は何の日か、2年前に僕が受験した大学・学部の入学試験の行われる日であった。
熾烈な受験勉強の甲斐あってか、幸いにも僕は第一志望の学部に合格し、ましてや幸いなことに大学の近くに住んでいるので、少し会場の様子を見に行ってみようと好奇心が湧いた。家を出て、やや大きな道に抜けると、早くも今日という日がただの1日では無いと理解するほどの活気を感じた。さながら大名行列の如く受験生の大群が列を成し、会場となる大学のキャンパスを目指して真っ直ぐに進む様が目に映る。ふと僕がタクシーを使って会場へ向かったことを思い出し、そのことを提案した親の気遣いと、人混みに揉まれずに済んだ幸運を噛み締めた。僕にとつてはだだいつもの通学路に過ぎないこの道も、受験生にとつては決戦場へと続くチャンピオンロードだろう。邪魔になるので、キャンパス前に陣を構える応援の列に素早く加わる。そこでゾロゾロと会場に入ってゆく受験生を観察していると、実にその様子は多様である。緊張を和らげるためか友達と電話でメッセージを交わす者。最後の最後まで参考書に齧りつき勉強に励む者。あとは天命を待つのみとばかりに空を仰ぐ者。応援に来た先輩の前で泣き出してしまう者。余裕か空元気かその場に似つかわしくヘラヘラとした表情を浮かべる者。まさに様々であった。そららを見て、感慨に耽る。(自校が第一志望とは限らないが)皆、第一志望を母校にする為に戦ってるのだ。そのために努力を積み重ねて来た。言うなれば受験会場とは、積み重ねた熱い想いが交錯する場所である。熱き決闘者達が一堂に会する華舞台である。スポーツや格闘技とは異なり、彼ら彼女らが直接に戦いを交えることは無い。しかし、僕の目には、受験生は自らの解答用紙を介して戦いの火花を散らしているように感じられてならないのだ。僕は受験会場特有のそのような雰囲気が好きだ。

 試験開始のチャイムがなり正門が閉鎖されるまで、会場の様子を見届け、次は横浜へ向かう。
「オダイバ 超次元音楽祭」と言うアニソン系のライブイベントに参加するためだ。と言うライブイベントと言ってもただのライブイベントでは無い。"人生初"となる"声出し解禁"のライブイベントだ。僕にとってライブ文化の幕が開けたのは大学受験以後。よって最初の2年は、コロナ禍における本来の熱気が感じられないライブに甘んじるしか無かった。静かな下積み時代であった。実際、声の出せないライブとは悲しいものだ。なぜなら、アニソンの多くはライブにおける観客からのコールを以て初めて真の完成を遂げるよう作られているからだ。「コールができればもっと盛り上がるのに…」そのような歯がゆい思いは、今までに何度もあった。そのような感情からようやく解放され、本来のライブイベントなるものが、僕たちの元に帰ってきたと思うと、実に感慨深い。

 さて、実はその前に一つ大事な予定があった。
「G2 京都記念」である。僕の注目点は3つ。
1つは、昨年のダービー馬 ドウデュースの始動戦としてだ。2022年の日本ダービーを制し2019年に誕生した全サラブレッドの頂点に立ったドウデュース。秋はオーナーの大願である凱旋門賞に直行するも、日本とは全く異なるタフな芝に対応できず、そこに追い打ちをかけるように雨による不良馬場の不利を受け、最下位に大敗した。その後は、JCや有馬記念を目指すも、調整に苦労し、年内は全休。満を持してのレース復帰となった。ドバイでのG1制覇に向けた始動戦、当然の1番人気。その趨勢に数多くの競馬ファンが熱い視線を注いでおり、僕のその1人であった。
2つ目は、エフフォーリアの復活勝利だ。言わずと知れた2021年の年度代表馬&最優秀3歳牡馬。共同通信杯でクラシック戦線に名乗りを上げると、勢いそのままに皐月賞で一冠目を快勝。圧倒的1番人気を背負い必勝の覚悟で臨んだ次走の日本ダービーでは2着の惜敗を喫するも、その屈辱をバネに天皇賞秋・有馬記念の秋二冠を達成。鮮やかに現役最強を証明してみせた。22年は現役最強の称号を背に大阪杯から始動するも9着、続く宝塚記念も6着と振るわず、その後は故障を発生。大本命であった秋古馬三冠への挑戦は立ち消えとなり、天皇賞秋・JCは回避となる。しかし、再起をかけて臨んだ有馬記念では、優勝馬イクイノックスを初めとした斤量55kgの軽ハンデ馬が掲示板上位を独占する中、唯一57kgのトップハンデで5着に善戦。年度代表馬の矜持を見せつけると共に、完全復活への狼煙を上げた。3歳時の共同通信杯以来となるG2出走となる今回、完全復活への期待は大きいに高まり、2番人気に。現役最強を証明した21年の有馬記念以来の復活勝利に、僕も大いに期待していた。
3つ目は、マテンロウレオの今後を占う上でだ。彼はお世辞にも注目度や人気の高い競走馬とは言えず、僕が個人的に応援している"推し馬"の一頭。単勝オッズは6番人気。いわゆる穴馬の類に入るだろう。しかし、クラシックに挑むもダービーで大敗を経験し、その後は骨折に泣いた彼が、半年ぶりの復帰戦となった昨年11月のアンドロメダS(リステッド)を快勝、そして中日新聞杯(G3)では同世代のホープフルS覇者 キラーアビリティ相手に僅差の2着と、確実に成長曲線を描いている。
これに期待せず何に期待しろと言うのか。そもそも、好きな馬を応援するのに、オッズも下馬評も関係ないのだ。
 レース展開は、ドウデュースが後方で控え、マテンロウレオは最内中団で脚を溜め、エフフォーリアは二番手に付ける積極策を取った。ドウデュースはダービーで魅せた最高級の切れ味を発揮できるか、レオは格上相手にどこまで健闘できるか、エフフォーリアは積極策で完全復活に王手をかけるか、道中の駆け引きを目で追いながらそのようなことを考えていた。競馬を見始めて二年ほどになるが、道中に展開が大きく動くことは稀であり、馬群が第四コーナーを迎えるまでは、さながら嵐の前の静けさといった様子である。しかし、その後の展開は”衝撃”と言う他ないものであった。先頭集団で好位をキープしていたエフフォーリアが、第四コーナーに差し掛かるやいなやズルズルと後退していくのだ。この下がり方は只事ではない。彼の身に何か異常事態が発生していることは誰の目にも明らかであった。暗雲立ち込めるエフフォーリアとは対照的に、ドウデュースが初春の西日に照らされた馬体を躍動させ進出を開始する。馬群の外を大きく回り、抜群の勢いで他馬を撫で斬り先頭に立つ。まるで国内G2などドバイG1に向けた準備運動と言わんばかりの余裕綽々だ。馬群の最内でじっと我慢していたマテンロウレオも、溜めた末脚を爆発させ、馬群がばらけた隙を縫って抜け出しにかかる。しかし、ドウデュースの末脚は圧倒的だった。グングンと差を広げ、三馬身ほど千切ったかに見えた。必死の二着争い。同期の重賞馬 プラダリアをすんでのところでマテンロウレオが競り落とし、二着に入線。4ヶ月ぶりの始動戦かつドバイに向けた前哨戦にもかかわらず驚異的と言うべきパフォーマンスを発揮したドウデュースは、三馬身半差の圧勝を収めた。次走のドバイターフ (G1)を見据えて、文句なしの前哨戦と言えよう。レオは2着を確保。相手関係と彼の戦績を考えれば、これ以上なく素晴らしい結果と言える。同期のハーツ産駒として、いつかはドウデュースのように…とは行かないだろうが、またどこかで重賞タイトルに届く器であると確信させるレースであった。これからの活躍にも十分期待できそうだ。そして、エフフォーリアは、ゴール版を目前にして競争を中止してしまった… 映像からでと場内のどよめきが伝わってくる。頭をよぎるのは予後不良の文字。かつてコントレイル・グランアレグリア・クロノジェネシスら波いる名馬達との死闘を制して現役最強の地位を証明したエフフォーリアが、スランプの最中に復活の夢叶わず生涯を終える結末など、誰も望むはずがない。ドウデュースの快勝とマテンロウレオの大健闘を見届けた喜びと、エフフォーリアが最悪の最後を迎えるかもしれないという不安に、胸をかき乱されながら、そのとき時刻はライブ開演の30分前を迎えていた。SNSには早くもエフフォーリアの状態を心配する声が溢れ、彼がいかにファンの夢を背負っていたが伝わってくるようだった。しかし、ライブは開演の時間を迎え、僕はただエフフォーリアの無事を祈るしかなかった。そしてライブに向けてもう一つ不安があった。何せ3年ぶりの声出しライブ、観客が声の出し方を忘れているのではないかと心配していた。しかし、それは完全なる杞憂に終わった。声の出し方というのも実に多様で面白いものであった。イエッタイガァー!(俗に言う"家虎")という謎の呪文を大声で叫ぶ者、ヒャーッ!アピャッー!と猿のように騒ぎ散らす者、ヴッ!ヴッ!とゴリラのような声を出す者、どれ1つ見ても全く飽きることはない。ライブ開演から30分が経過し、トークタイムに。スマホを開くと、エフフォーリア"心房細動"との速報が入る。僕はホッと胸を撫で下ろした。詳細なメカニズムは割愛するが、心房細動は少なくとも競走馬として致命的な症状ではない。競走馬は最後まで分からない。良い意味でも悪い意味でもだ。突然覚醒する馬もいれば、突然走らなくなる馬もいる。走り続ける限り、復権もあり得る。今は見守る時期だろう。エフフォーリアの無事に安心させつつ、ライブのメインはウマ娘の出演である。ウマ娘のライブはこれで何回目になるだろうか。しかし、僕がこのコンテンツに出会って以降はずっとコロナ禍に包まれており、ウマぴょい伝説のコールをすることは叶わなかった。本来のライブの興奮を味わいつつ、来るべき5thライブに向けて、声出しが解禁されたことは全く喜びに尽きる。そして、その晩は倒れるように眠った。東京から横浜を飛び回るハードな日程、無理もない。翌日は地元に帰る日であった。

            2023年 2月13日 記す

【追記】
レースから2日後の2月14日、エフフォーリアの現役引退と社台SSでの種牡馬入りが発表された。心房細動は大事には至らない故障であると認識していた為、突然の引退表明には驚きを隠せなかった。しかし、たとえターフを去ろうとも、彼とファンが共に追い続けた夢は決して消えない。彼の勇姿は我々の記憶の中でいつまでも走り続けるのだ。そして、夢は仔へと受け継がれ、"父 エフフォーリア"の血統を背負う後継達がターフを駆ける日は、そう遠く無い未来に現実となる。彼が届かなかったダービー優勝を、彼の産駒が成し遂げる。僕が夢見がちだからであろうか、そんな未来が楽しみで仕方がないのだ。しかも、繋養先はサイアーランキングの上位を独占する社台SSである。彼の産駒に賭ける想いは増すばかりだ。
エフフォーリアよ、永遠なれ。

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