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リスキーミッション

「だめだ。俺にはできない」
「ばかな。怖気づいたか?」

「リスクが高すぎる」
「そんなことを言ってるから、何もできないんだ」

「確かにそうかもしれない。けれども、そんなにリスクを冒してまでしなければならないことなのか」
「これ以上に重要なことがあるか」
「けど……」

「チャンスは今しかない」
「……」
「みんなすでに集まっている。彼らを待たせるわけにはいかない」

そう言うと男は、窓の側に向かった。窓から見える景色には漆黒が塗りこめ、この建物以外、明かりのついているところはほとんどない。

少し離れたところから波の音が聞こえる。あまりにも濃い闇にそのまま引きずり込まれそうな感覚に陥る。

「大丈夫なのか」
「そう思うしかない」

わずか十数センチ。それが彼らの命の幅である。他の同志はすでにそこに集まっていた。若干緊張しているようだ。無理もない、落ちれば命はないのだ。

この危険を乗り越えても得たいもの。それはほんの数メートル先にある

「ようやくおでましか」

すでに立っている一人が、男に話しかけてくる。
「いいか。俺たちは絶対に見つかるわけにはいかない」
「ああ」
「道は他にないこともない。けれどもあっちには厳戒な見張りがついている。だから多少の危険を承知でここを選んだわけだ。まさか外側から進入するとはやつらも思うまい」

「そうだな」
 冷たい風が頬を突き刺す。けれども背にはじっとりと汗がにじんでいた。
「わざわざ命をかけて、女のところにいくのか」
「ふっ。男が命をかけるといったら、それしかあるまい」

「修学旅行で命を失ったら、それこそ大恥だろうなぁ」

「おしゃべりはそこまでだ。気が散る」
「ああ」
塗りこめる闇の中、勇敢で無謀な男たちは、隣の明かりを求めて、命をかけた綱渡りをするのであった。

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