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太陽と埃の中で


この物語は事実に着想を得た創作であり団体、事件、人物は架空のものとなります。


ミーン、ミーン、ミーン…

真夏の茹だるような暑さの中、俺は歌舞伎町にいる…


「暑い、暑すぎる!」


タバコの吸殻と誰かが食べて捨てたアイスの棒に目を落としすぐ遠くを眺める

歌舞伎町の区役所通りは蜃気楼でユラユラと地面が揺らいでる


「今年一番暑いみたいですよ」

暑そうにしてたら別の組のAさんが声をかけてきた

Aさんは人としては悪い人じゃないと思う
何個も下の俺を気にかけてくれ、舎弟の面倒見もいいみたいだと聞く

「そうですか、だからこんなに暑いわけだ」

周りを見渡せば黒塗りの高級車の列に屈強な体つきの強面が数十人

皆、上着も脱がず手持ちのハンカチなどで汗を頻繁に拭いている


車に乗ってればいいのだが、そうもいかない。
運転手同士には各々付き合いがある

挨拶したりされたり、一抜けで車内にというわけにもいかないのだ。それに、車内に戻る理由が暑いからと言うことが負けになるみたいで言いたくない

そんな変な『意地』というか『痩せ我慢』がヤクザにはある


暑いと嘆いても涼しくなるわけでもないのはわかってるがつい口にしたくなる


滝のような汗でワイシャツが体に張り付く…気持ち悪い


区役所通りの街路樹に止まった蝉が鳴き、某求人会社の宣伝トラックが通る…

マ〜ニラ♪マニラ、マ〜ニラ求人♫
ミンミンミーン…マ〜ニラ♪マニラでアルバイト〜♪ミーンミンミンミンミ…


運転手を引き摺り下ろしたくなる気持ちを抑えて暑さと闘う

車内はクーラーが効いてて20°〜24°に保たれてる

お昼時、太陽は真上雲一つない青空

プールに海水浴、涼しい川でバーベキューetc




俺は歌舞伎町…こう言う時に限って時刻の針は遅く進んでいる様に感じる
これが相対性理論かと下らない事を考える


…30分…1時間…1時間半…


某喫茶店からガードの人間が飛び出してくる

(ボディーガードの事を略してガード或いはお付き、付きと呼ぶ)



「出られます!」


その一言で今まで感じていた暑さや気怠さは吹き飛び周囲に緊張が走る


周辺と喫茶店入り口に強面の男達の目線が飛ぶ



その緊張感が一般人にも伝わるんだろうか、喫茶店前の道を避け目線を逸らし歩く

物珍しそうにジロジロみたりしてくるのは観光客くらいだ


その視線を感知し目で威圧する強面の集団


(誤解が生まれない様に言っておくが決して普段からこんな大人数でそうしてる訳ではない
こう言う特別な日に限って普段よりガードが多く緊張もして気が張り詰めているのだ)

喫茶店の入り口から数名出てきたと思った矢先
強面の男達数人挨拶しながら駆け寄る

「御苦労様です!御苦労様です!」
「ゴラス!ゴラス!」 

案内する者や荷物を預かる者、後部座席のドアを開ける者や周囲を警戒する者と各々が役割を全うしてる


偉い方々が一番偉い方をお見送りするため連なった一番先頭の黒塗りの高級車までたどり着いた


車種はアルファードロイヤルラウンジ、ガードが後部座席のスライドドアを重そうに開ける…

本来アルファードは後部座席が自動ドアなのだがこのアルファードは軽装甲防弾仕様で強化された足回りに厚さ5cmの窓ガラス、そのためドアが重く手動じゃないと開かない




厚さ5cmといえば広島の大先輩がこんな事言ってたのを思い出した


「昔の、わし達鉄板とチャカを何個も用意して試した事があるんじゃが、威力強いので鉄板3枚、3cmは貫通する。じゃけ本家や本部の扉の鉄板は5cmにしたんじゃ。それならトカレフでも貫通せんからの」

トカレフは入手のし易さと扱いやすさだけでなく、フルメタルの弾丸を使用するため貫通力が高く、防弾は難しいという裏付けがあり所持使用してる組織も多い。





話を戻そう…
重厚なスライドドアが大口を開けて待っている、一番偉い方が乗り込もうとしたその時だった



「オラァー!」


その場に居た全員が怒鳴り声の方向を向いた
そこに居たのは…




                       つづく

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