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饅頭こわい

町内の若い衆が集まって馬鹿話に華を咲かせていると、怖いものはなんだという話になり。
そんなことを話していると、1人の若いやつが真っ青になって飛び込んできた。聞くと、途中、蛇がでてきたのでびっくりして走ってきたというじゃねぇか。


辰吉「なにを言ってやんでえ、何が怖えって言った !
   聞いてりゃなんだと、いい若えもんが、蛇が怖いの、     
   蜘蛛が怖いの、蟻が怖いの、べらぼうめ !
   いいか、人間は万物の霊長(ばんぶつのれいちょう)と     
   いうじゃねえか。青大将が怖いだって、笑わせやがら
   ぁ。おれなんざ、青大将をきゅきゅっとしごいて、鉢
   巻きにしてカッポレを踊ってやらぁ」

三吉「へぇ、大変な野郎がでてきたぜ」

辰吉「蜘蛛なんざどこが怖いんだい。蜘蛛を2.3匹つかまえ
   て、納豆ん中に叩き込んでかき回してみろ、納豆が糸
   引いてうめえのうまくねえの。蟻なんざ、赤飯を食う
   ときに、ごまの代わりにぱらぱらかけて。もっとも途
   中で胡麻が駆け出して食いにくいっていうのがある
   が。馬なんざ図体(なり)は大きくなったって了見は小
   せぇもんだ、食ったら桜肉といってオツなもんじゃね
   ぇか。おれなんざ、生意気いうわけじゃねえが、怖え 
   もんなんか1つもねぇ。


周りのやつらが、それでも1つくらい怖えもんがあるだろうとしつこく食い下がると、辰吉は妙に弱気な感じになって、そりゃ恥になるから言えねぇ、とつぶやきやがった。

それでも教えろとつめ寄ると、

辰吉「実は饅頭が怖いんだ」


三吉「饅頭って、あのアンコのはいった食べる饅頭のことか
   い?」
こりゃ面白れぇ。饅頭饅頭という度に、いやがるものだから、図にのって色々な饅頭の名前を並べたててやった。
唐(とう)饅頭、栗饅頭、そば饅頭。
そのうちにみるみる辰吉の顔色は青ざめて、とうとう布団にくるまって寝込んでしまった。

そこで別の部屋へ移ったやつらは、生意気な野郎だから、饅頭をたくさん買ってこらしめてやろうと話がまとまった。
てんでに買いに出かけ、山のように饅頭が揃った。

唐(とう)饅頭、酒饅頭、そば饅頭、栗饅頭、中華饅頭。

これを寝ている辰吉の枕元へきれいに並べて、隣の部屋に移ってから声をかけた。

「おーい辰吉」
むくっと起き上がった辰吉は饅頭の山を見て泣き出した。
してやったりと皆大喜び。
ところが、よく見るとどうも様子がおかしい。

辰吉「おぉこの唐饅頭(とうまんじゅう)は本当に怖い。あっ栗饅頭はなるほど怖い。こっちのそば饅頭はやっぱり怖い」辰吉は泣いているふりをしながら、うまそうに饅頭をパクパクパク。あぁ食べきれない饅頭は、風呂敷に包もうとまでしてるぞ。

三吉「おい、一体お前が本当に怖いのはなんなんだ」

辰吉「へぇ、ここらでいいお茶がいちばん怖い」



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