高円寺の小杉湯

社会人で一人暮らしを初めて約2年半、小杉湯には週に2回は通っている。

なぜそんなに通っているのか。それは俺の心の拠り所となっているからだ。

小杉湯の特徴は熱湯と水風呂の加減。
熱湯は他の銭湯よりも熱く、体の芯まで一気にあたたまる。
水風呂は井戸水を使っていることもあり、肌触りは柔らかく匂いも気にならない。
熱湯を限界まで、水風呂は40秒〜1分くらいにして、一度休憩する。
そうすると体中の血液が全身を回り、脱力を含んだ倦怠感に併せて幽体離脱したかのような感覚に陥る。その間、何も考えずただ幸福に包まれていることが出来る。

↑のはどんなときも同じ感覚を味わえるので、あらゆる場面で重宝している。

仕事で神経をすり減らしたときは解きほぐすことが出来た。
今の自分に悩み、ネガティブが止まらないときは一度強制シャットダウンが出来た。
本を読みすぎて頭が凝り固まったときは一度銭湯を挟めばまた読めた。
よく眠れないときは銭湯に行くことで改善した。

結果、俺は事あるごとに小杉湯へ足を運んでいる。

それだけ通っていると、だいたい顔なじみの人というのが出てくる。

戦時中のメガネみたいなのを欠けている、お腹だけすごい出ている人。
水風呂の時間がとても長い人。
いつも男の股間を凝視している人。
特徴的な入れ墨の人。
びっくりするくらい痩せている人。

一度も声を交わしたことはない。何をしている人なのかもよくわからない。
ただ、銭湯に通うという行為がなければ認識すらしなかったであろう人たち。だけれども今では愛おしい。

多様性のリスクは分断だとこの前読んだ本に書いてあった。
もともと個々を認めるという考えが普及する先には、やがて「風潮的に認めなければならないけれど、関わりたくはない」という考えに発展し、それが分断に発展するのではということらしい。

銭湯では、皆関わろうとしない。ただ、ルールは皆守る。
喋らないこと。タオルを風呂につけないことなどなど。


互いの尊重と自己の快楽が共存していている。話さないけど、いつも一緒の人がいる。
それが、俺が銭湯に通う一番の理由かもしれない


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