乙骨先輩は乙骨先輩なのか?


※注意

以下には、週刊少年ジャンプ2021年9号に掲載の内容、及び「呪術廻戦」14巻に未収録の内容に関するネタバレが含まれます。

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137話ショック


呪術廻戦137話「堅白」において、呪術ファンが待ち望んだ乙骨憂太が再登場しました。呪術高専東京校の2年勢で唯一登場していなかった人物であり、0巻の主人公・日本に4人しかいない特級呪術師の1人であるなど、間違いなく本作の重要なキーパーソンです。
渋谷事変で数々のネームドキャラが悲惨な目に遭い、「早く乙骨先輩きて…」と多くの読者が待ち望んでいましたが(私もその1人です)、先週の夏油(偽)の本格始動を受け、満を辞しての降臨でした。
センターカラーの表紙を見て私も大興奮したものです。

しかしその興奮は、最悪の形で裏切られることになります。細かい経緯は不明ですが、「五条先生の教え子とか関係ありませんよ」「彼は渋谷で狗巻君の腕を落としました」「虎杖悠二は僕が殺します」
というまさかの発言。そう、再登場した乙骨先輩は主人公と敵対する化け物キャラとなっていたのです。乙骨先輩帰って......
少年漫画では過去に敵対したキャラが味方になって助太刀するパターンはよくありますが、見事に逆の最悪のパターンですね。

乙骨先輩は五条や夏油と同じく「特級」に分類される桁外れの実力を持つ術師であり、敵に回すとこれほど恐ろしい存在もそういません
同じく特級である九十九が味方であることが確定した前回で安心したのも束の間、読者、特に乙骨ファンを地獄に叩き落とす。これが芥見下々のやり方です

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しかし…


本編をよく読んでいくと、この乙骨先輩の行動にはいくつかの疑問点が出てきます
それを踏まえて、私が考えたのは、「乙骨先輩は乙骨先輩じゃない説」つまり、「乙骨先輩ニセモノ説」です。
以下はそう思い至った詳細です。決して乙骨先輩が敵に回ったという事実から逃避したいわけではないのです。決して。

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乙骨先輩は乙骨先輩なのか?

はい。
どういうことかというと、「何者かが乙骨憂太になりすましている」ということですね。突拍子もない。
しかし、一応、そう考えた理由はあります。

「偽物」「変身の術式」が存在する
第90話で、封印直前の五条が偽夏油と対面した時のモノローグを思い出してください。
「偽物?」
「変身の術式?」
「全ての可能性を六眼が否定する」
そう、この世界には少なくとも、他者に変身する術式が存在するわけです。だからこそ、五条も疑ってかかったわけで。
少し違いますが、渋谷事変で登場したオガミ婆も降霊という形で他者に化けていましたね。乙骨先輩はおそらく存命であるため、降霊ではないでしょうが。

「じゃあ誰が変身してるの?」というところなのですが、おそらくは味方サイドじゃないかなと思います。上層部をだまし、牽制する。まだ術式の明らかになっていない夏油一派あたりが怪しいでしょうか。

「変身」という答えは願望に満ちていてかつ突拍子もないのですが、再登場した乙骨先輩への違和感が多かったのは事実です。他人なのではないか?と思えるほどに。
そんな乙骨先輩への違和感をまとめてみました。

①九十九との繋がり
乙骨は、少なくとも1巻時点から海外に渡っていました。劇中で明言されたわけではありませんが、そのパートナーは夏油一派の1人、あのミゲルです。つまり、乙骨は夏油一派と間接的に繋がりがあることになります。

……だから何だ、という話なのですが、136話にて登場した九十九由基のモノローグにはこうありました。

「さて ラルゥが動く時間を稼がないとね」

この「ラルゥ」とは、夏油一派の1人で、あの星乳首筋肉オカマのことですね。一声吠えただけで空気を揺らし地面を割るなど、確かな実力者であることを匂わせます。
つまり、ラルゥと九十九は繋がっているわけで、ラルゥとミゲルにもまだ繋がりがある可能性はある。間接的に、乙骨と九十九の間にも繋がりがある可能性があります
もとより呪術上層部に従うタイプではない九十九の思惑と、事変の真の状況を知っていれば、乙骨自身も上層部に従うとは思えません。
とはいえ、もともと夏油は0巻で乙骨が対峙した敵であり、大事な友人を手にかけようとした許せない存在でしょう。そんな彼が、ミゲル個人とはともかく夏油一派と仲良くするかと言われたら、微妙な気はしますが。

②「里香ちゃん」ではなく「リカちゃん」
 ネットでもよく指摘されている違いですね。
祈本里香に呪われていた頃の乙骨は、漢字で「里香ちゃん」と呼びかけていました。
しかし、137話で再登場した乙骨は、「リカちゃん」とカタカナで読んでおり、この「リカちゃん」の姿も描写されていません。祈本里香は0巻のラストで既に解呪しており、同じ存在かどうかも疑問です。誰かが当時の乙骨のステータスだけをコピーしたような、そんな印象を受けます。

③結婚指輪がない
乙骨の左手をよ〜く見ると分かるのですが、0巻4話「眩しい闇」のラストにて確かに付けていた里香との結婚指輪を、再登場した乙骨は付けていません。
(数コマにわたって描かれていないので、作画ミスではないはず。多分)
あれほど大事な人である里香の指輪を手放すというのは、かなり不自然な気がします。乙骨の姿と制服や刀は真似できても、里香の形見である指輪までは用意できなかった、という解釈は強引でしょうか。

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とはいえ……:現実的な考え

再登場した乙骨先輩に疑問点が多くあるとはいえ、変身の術式と断じるのはさすがに妄想の域です。現実的には、こんな感じなのかなあという気もしています。

①上層部の言いなり説
上層部の言ったことを信じていて、虎杖も殺すし五条や夜蛾も敵だと認定している説。
上で書いたように、夏油一派との繋がり含め、高専組の誰かと連絡を取れれば上層部が嘘ついてることは明白なので、さすがに信用しておらず、この説はないはず。
もし本当に上層部の言いなりなら、乙骨先輩の格が落ちる気もします。

②全部演技だよ説
「虎杖を殺す」は上層部に取り入るための嘘で、本当はバリバリ虎杖たちの味方パターン。
一番心強いというか、夏油+裏梅+1000万の呪霊軍団+1000人の悪虎杖に加えて乙骨先輩も敵に回ると、もうどうしようもないと思うので、こうなってもらわないと困ります。
とはいえ、「縛り」を結ぶことも厭わない乙骨が、現段階で既に友好的かと言われると、私の勘ですがやや微妙です。今の乙骨が偽物で、本物が裏で味方として動いてるなら話は別ですが。
そういう願望から、乙骨偽物説を唱えたという個人的な経緯もあります。

③上層部側じゃないけど虎杖は殺すよ説〜今じゃないけどねパターン
虎杖を「いつ」殺すかについては、乙骨は触れていません。なので、このパターンは、いずれ死刑になる虎杖を自分の手で殺す、いわば介錯するというイメージです。つまり今の偽夏油が敵である限りは、虎杖たちの味方についてくれるというわけですね。
これも頼もしいですがやや微妙。なぜかと言うと、これも「縛り」を結んでもいいという発言が問題になってきます。老獪の集まりであろう上層部が、乙骨と縛りを結ぶ際に「いつ殺すか」という穴を残してくれるとは思えません

④上層部側じゃないけど虎杖は殺すよ説〜狗巻君の仇パターン
個人的に最も可能性が高いだろうと思っているのはこれです。上層部のことは信用してないけど、虎杖を殺すという一点に関してのみ利害が一致している、ということですね。上層部との会話からも、信用していない感はありありですし。
つまりは虎杖を本気で殺しにくるわけで、呪霊や偽夏油との戦争に関しては敵の敵だから味方かもしれませんが、虎杖サイドからすれば敵という認識になってしまいます。
「いや、狗巻の腕やられたくらいでそんなキレる?」
「そもそも上層部が狗巻の腕をやったんじゃないの?」
という意見もあるでしょう。妥当な意見だと思います。
しかし、前者に関しては、乙骨の人間性を考えるとありえない話ではない、と思います。 (後者については、やや本筋からずれるので、最後に付録として考えを書きます)

0巻で乙骨は夏油との最終決戦で、痛めつけられた友人達(真希、狗巻、パンダ)とその犯人である夏油を目の当たりにして、完全に覚醒します。 その時の言はこうです。

「夏油が正しいかはわからない」
「僕が皆の友達でいるために」
「僕が僕を生きてていいって思えるように」
「オマエは殺さなきゃいけない」

極端な話、彼にとって、時として「正しいか正しくないか」は最優先ではないのです。里香に呪われ、自分が間違っていると蔑む日々を送ってきた彼にとって、深い友情を築けた真希や狗巻やパンダを大事に思う気持ちは、時として善悪よりも尊重されることがあるのです。0巻では結果として良い方向に発揮されましたが、持って生まれた力の大きさに比べて、かなり危うい人間性だと言えるでしょう。平時では、伏黒をして「先輩の中で唯一手放しで尊敬できる」と言わしめる人格者なのですが。

さて、つまり、このような価値観を持つ乙骨にとって、狗巻を傷つけた虎杖は、たとえ主人格が宿儺であろうと、許せない、許してはいけない存在になってもおかしくはありません。「許してはいけない」というのは、「許さない自分でないと、狗巻の友人ではいられない」という意味です。
このような理由から、「狗巻を傷つけた」という一点のみにおいて、乙骨は虎杖の敵にまわってもおかしくはないと、私は思います
しかしながら、これは主に0巻時点での彼の言動をもとに考えたものです。里香や夏油の一件を経て、後輩を持つようになり、かつての敵と世界を旅して、彼の価値観は大きく変容しているかもしれません。

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まとめ

私自身の願望としては、①の全部演技説か、主題である乙骨先輩ニセモノ説です。というか、まあ、願望であるわけですが。センターカラーで沸き立った私の気持ちのやり場として書きなぐっただけなのですが。
とはいえ、その論を導くために137話の乙骨の状況はそこそこ整理できたのではないかと思います。そこには偏見や願望は極力挟んでいません。

しかしとにかく、これからの物語の行く末は作者しか知らぬところでしょう。この創作世界における神の一手を、つらつらと自分なりに考えながら待ち続ける。それもまたこの作品を読む醍醐味の一つなのだと思うようになってきました。

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付録:狗巻の腕を落としたのは誰なのか

はい。
結論から書きますが、私は「狗巻の腕を落としたのは虎杖(宿儺)である」と考えています。理由をまとめてみます。

①上層部が冒すリスクが大きすぎる
狗巻の腕を落とした犯人について、虎杖の対抗馬として挙げられているのが「呪術上層部」です。つまり、友情に篤い乙骨を利用するために狗巻を傷つけた、0巻で五条の取った「起爆剤」と方向性としては同じ策です。

しかし、これは薄いかな、と個人的には思います。タイトルに書いた通り、上層部側が冒すリスクがあまりに大きすぎます。誰かを利用して間接的にやったのならまだわからなくはないですが、それでも危険です。
0巻の百鬼夜行では、乙骨が反転術式を使えたこともあって狗巻(真希とパンダも)の怪我は完治しました。五条の起爆剤というやり口も、露骨ではなかったこともあり特に禍根は残っていないようです。
しかし今回は違います。狗巻の腕は戻らず、乙骨は上層部の意向の通りに動いています。もし上層部の仕込みが本当で、いつか乙骨にバレることがあったら。
ある意味五条よりも危険な存在となり、上層部が一掃されてもおかしくありません。それは少し危険すぎないか、と私は思います。

②腕が落ちる説明がつく
虎杖犯人説のもう一つの反論が、「どうやったら片腕だけ切れんの?」という問いです。

虎杖(宿儺が主人格)と狗巻が対面した描写はありません。宿儺に主導権が移ってからはほぼノーカットでVS漏瑚、VS魔虚羅が描かれており、虎杖に主導権が戻ったのも魔虚羅を倒した直後のため、1対1で狗巻と対面はしていないはず。
ということは、虎杖(宿儺)が腕を落とす攻撃(=斬撃)をしたとすると、それはVS魔虚羅で宿儺が無駄に発動した「伏魔御廚子」しかありません。領域の発動時、宿儺から半径140m以内にいたのでしょう。伏魔御廚子の犠牲となり粉微塵になった女性が「メガホンの人」として狗巻を回想していたので、狗巻が彼女の近くにいたタイミングからそう時間は経っていないことが予想されます。したがって、伏魔御廚子に巻き込まれたというのは不自然ではないわけです。

しかし、ここで引っかかるのは、
「伏魔御廚子に巻き込まれて腕一本で済むの?」
「領域のキワキワにいたんか?」
ということです。確かに。

これも説明がつくのではと思っています。とはいえ、後者の、領域の140mギリギリにいたというのはやや出来すぎです。可能性がないではないですが。
それよりは、例え領域の外の方だとしても、まともに巻き込まれた可能性の方が高いと思います。じゃあどうして腕一本で済んだのか。

それは、他でもない狗巻の術式である「呪言」であると思います。

「止まれ」「動くな」「斬るな」など、宿儺の不可視の斬撃でも防ぎ得る語彙はあるのではと思います。さすが夏油もお墨付きの高等術式、呪言ですね。しかし、それで100%防ぐことはできなかったはず
VS花御で明らかにされた通り、呪言は格上には効きが悪く、本人への反動も大きいというデメリットがあります。渋谷での一般市民の護衛のために術式を多用していたとみられる狗巻はかなり疲弊していたはずで(上述の女性の回想でもかなり汗をかいている)、その状態で花御よりも格上の宿儺の領域展開を防ぎきることは不可能でしょう。
腕一本で済んでいるというのは、領域の発動時間が長くなかったことを差し引いても、むしろ狗巻の実力の高さが現れているとすら言えると思います。


まとめ
ということで、残酷ですが、結果として虎杖が狗巻の腕を落とした、という構図はあり得ると思っています。狗巻自身は虎杖を許すかもしれませんが、乙骨が絡むとどうこじれるか想像がつかないのが怖いですね。
どうしようもなくこじれたら、もう狗巻先輩から乙骨先輩に「許せ」と一声かけてほしいくらいです。それで一瞬で解決したら笑う。


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