ジャンプ+ 個人的ベスト読切5選【1月度】

集英社の運営するオンライン漫画サイト・ジャンププラス。
ジャンプ本誌や関連雑誌の掲載作品を電子媒体で読むことができるサイトですが、それとは別にこのジャンププラスだけで連載される作品が数多くあります。

連載作品も粒ぞろいなのですが、今回注目したいのが読切作品
これもまた、ジャンププラスでしか読めない掲載作品がたくさんあり、そのクオリティも素晴らしいものがゴロゴロあります。
そこで、毎月の掲載された読切作品から、個人的に刺さった作品を5つ、まとめていこうと思います。あくまで個人的な主観で選んだものですので、ご了承ください。また、順位付けをしているわけではありません。

今回は1月度です。もう2月も終わろうとしてますが……


アウトオブドラゴン/中田春彌

そこは剣と魔法の世界。兵団の同期であるルーカスとマルコは凶悪なドラゴンを前に口喧嘩を始めて…!?

「順位をつけるつもりはない」と言っておいて何ですが、個人的に1月で圧倒的に好きだった作品

とにかく起承転結とキャラの掛け合いがメチャクチャ綺麗。よくありがちな「君は援護を頼む」という言葉一つから42ページものストーリーが膨らんでいくのが圧巻で、コメントにもあったが上質なコント、というかしゃべくり漫才を見たような気分になれます。

異世界ものではあるものの、人間関係や会話のあるあるがめちゃくちゃ現実的でバリエーションも広く、広く共感を誘う。しかしキャラの言葉遣いはウィットに富んでいて、あくまでギャグ描写であるから嫌味っぽくもない。ただ現実のあるあるを異世界に当てはめただけでもなく、それぞれのキャラクターの背景が明かされて展開が二転三転していくのも、ページをめくる手を止まらなくさせてくれるところです。

そして絵もめちゃくちゃ綺麗、というか美麗。そういえばギャグ漫画と美麗な絵の相性がいいのは「歯医者さん、あタってます!」で実証済みでした

ドールガール/稲実シキ

薬を飲まなければ、身体が小さくなり続ける病気『マトリョーシカ症候群』が発症した小町。幼馴染の大成は、同級生として彼女と共に中学生活を過ごしていたのだが——……!?

シリアス枠からはこちら。
「身体が小さくなり続ける」という病気に侵された少女と、その幼馴染の少年との交流と恋模様を描く。

まず1ページ目の演出が目を引きます。
もちろんこの『マトリョーシカ症候群』はわかりやすく非現実的なフィクションの中の病気であるのですが、この1ページ目からは「この作品世界には『マトリョーシカ症候群』が本当にある」という作品世界の中でのリアリティを感じます。「作品の中のキャラクターにとっては現実なんだろうな」ということがこの段階でわかるし、シンプルに引き込まれる。非常に優れたやり方だと思います。すごい。

読んでいくとまず目につくのが、主人公の身体が縮んでいく少女『小町』の描写。一見いじめられたりはしておらず、仲がよさそうに見えるクラスメートとのやり取りの中に絶妙な「人形扱い」が垣間見えるセリフや演出がとてもリアル。表紙と同様に、「実際にこんな病気があったらこうなるだろうな」というリアリティの演出が見事です。

それがあるからこそ、小町を混じりっ気なしに人間として見ている幼馴染の大成の描写が光ります。この二人しかないと読者に思わせてくれる、素敵な恋愛ものだと思います。
特殊な設定を自然と受け入れさせてくれるリアリティと、そんな世界でも確かに育まれる恋愛の描写。総じて読者への確かな説得力を持つ、良作だと思います。


魔導騎士アスフェル鈴木の一日/西村たまじ

異世界に憧れる病弱な少年・のりお。そんな彼の元に、異世界から魔導騎士・アスフェルが舞い降りた…!そしてなぜかアスフェルはのりおの代わりに登校することになり!?

「鈴木だ!! まごうことなき鈴木!!」
「酸化銀と鈴木くん?は知り合いだった 過去に何かあったのかもしれない」
「消しゴムが 不動産広告みたいに輝いて…」
「最近離婚した先生の…薬指の指輪跡が消えていってる…」

『異世界人が現代に来たら』という設定そのものはよくあるのかもしれないが、その結果引き起こされるドタバタのバリエーションとセンスがとにかく秀逸。アスフェルとそれを取り巻くクラスメートや先生のキャラ・距離感も心地よく、絶対鈴木じゃないアスフェルを何か自然と受け入れてる心地よい雰囲気からは変なリアリティは感じない一方で、アスフェルの魔法に対する表現や効果は妙にリアルで生々しく、そのギャップが可笑しい
異世界(中世)の終わってる衛生感・倫理観に触れてるのもポイント高い。着眼点が絶妙なのよ……

「アウトオブドラゴン」も異世界ギャグだったけれど、あちらが美麗な絵柄と展開で魅せていくのに対して、こちらはシンプルにギャグのセンスで笑わせてくれる違いがある。その手の王道ギャグとしてはここ最近で随一好きかもしれない作品。


賢者の時間/五月十三日

大学受験を控えた少年・サイトウ。ある日、彼は自慰行為を我慢すればするほど、その期間に応じて賢くなる力が芽生えた。好きな人と同じ大学に入るため、彼は聖なる我慢を続け賢者になることを決めたのだった。

『THE・男子のアホな生態』をここまでのストーリーに昇華した見事な漫画。「現実をちょっとだけ誇張した」感じで描かれるファンタジーと現実の境目を描いているような雰囲気が、まるで自分たちが住んでいる世界の地続きみたいで楽しい
「能力を少しずつ試して法則を理解する」のような、能力モノの正当なあるあるを踏まえているのも可笑しいところ。何でそこだけちゃんとしてるんだ。

また、題材が下ネタまっしぐらなのに不潔な感じがしないのもグッド。この手の下ネタ関連の漫画が不適切だ不快だと叩かれることが多いこのご時世では、これ地味ですが結構重要だと思います。

繰返しになりますが、こういう男子のアホな感じを見られるのは素直に楽しい。これぞ少年向けの漫画という感じです。


ワンチャン・イン・ザ・ヘル/三月病

ある日の飲み会終わり。可愛くて面白くて大好きな先輩が家に誘ってくれた…!ということは、OKってこと!?彼女の家には既に不気味な先客が大量にいて…!?

「賢者の時間」が男子高校生のちょっとシモな日常とするなら、こちらはそれの大学生版。年齢が上がったからか、ちょっと大人向けの、生々しい男女事情が描かれています。本作はあくまでギャグ漫画で、ポップな絵柄ではありますが。

この「ギャグ漫画で、ポップな絵柄」というのも個人的にはポイントで、少年漫画ではややはばかられる大人の生々しさを中和してくれて、読み味がかなり良くなっています。これがないと青年漫画みたいになってしまう気がする。

本作、少し意味深な描写があるのに回収されそうでされなかったり、「幽霊が見える」という設定にあまり必然性のある意味が無かったり(感じられなかったり)と、手放しで激賞される作品ではないと思うのですが(偉そうですみません)、どうにも好きと言ってしまう、何度も読み返してしまう不思議な魔力がある漫画です。

こういう「感覚的に惹かれる」漫画になぜ惹かれるかを分析するのは難しいのですが、やはりキャラクターと掛け合いの魅力が高いのはあると思います。こういうところに作者のセンスと読者の好みがモロに出るのではないでしょうか。私は大好きです。


はい。ということで、1月度の読切を5つ選んでみました。
自分で5つと決めたので5つだけピックアップしましたが、1月は本当に豊作で、泣く泣く外したものがいくつもあります。
特に、「赤と白」「山形の初恋」が個人的に好きでした。2月も楽しみです。


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