第九回ゴイサギ読書会『艸径』溝川清久 作を読む


日時:2022年4月30日(土)15:00~17:00
場所:塔事務所
参加者:近藤かすみ、松村正直、万造寺ようこ(リモート)、いわこし(司会) 敬称略

<進め方>
①いわこしよりレジュメに沿って感想および読みを発表(添付資料参照)
②参加者の感想と読み
③自由発言

<近藤かすみさんの感想>
・旧かなが歌とあっている
・漢字とひらがなのバランス
・歌が定型に収まっている
・文体が確立していてこの文体に当てはめる作り
・字あまりが少ない
 →全体に神経がゆきとどいている歌集。

よいと思った歌

上の子の歯型ちひさく残りたる笏(しゃく)見遣りつつ雛を並べぬ P36    ※かっこ内は歌集ではルビ

→「上の子」という表現が時間の流れを表している。子への愛情が歯型に見  
える。

採り来たる秋野の草の種子(たね)収め古封筒の角を折りたり P55 
※かっこ内は歌集ではルビ

→角を折るという表現に歌の丁寧さんが表れている。文語を自由自在に使っている

 北山の稜線あをく連なれる大垣書店のカバー手触る P172

→京都の景を歌っている。

<松村正直さんの感想>
・一首それぞれに時間が重層的に入っている

おほたかの営巣ありし樹を指してなほ棲めるがに声低くいふ P11

→今は声をひそめる(低くいう)必要はない。なぜならおほたかはもういないからそこに「低くしていふ」という表現をすることで、おほたかがいた時間と今とが一首の中に折り込まれている

 草の葉へ薄日の届く畦道を先に蛙となりたるが跳ぶ P67

→過去から未来への時間として現在の中に過去(おたまじゃくし)と未来(蛙)が織り込まれている

 第八講を君と並びて聴きをりぬ去年(こぞ)の秋より二百年過ぐ  P153    ※かっこ内は歌集ではルビ

→去年受けた授業の時代から今回第八講で受けた時代は二百年たったという歌意からは、過去→現在→大過去という時間の流れが歌われている

・歌を作者がコントロールしている傾向がある。
→ルビで読みを指定する。定型に収める
・隙がない
・帯文の永田和宏さんの「佐藤佐太郎」との共通点としては、佐太郎は短歌至上主義的なところがあり、作者の情が極力排されたような歌そのものの技巧を読ませるつくりになっている。それに比較すると溝川さんの歌は情がある佐太郎といった感じである
 
<万造寺ようこさんの感想>
・神経のゆきとどいた歌集である。隙がない。
・上賀茂や植物園の景を丹念に詠まれている
・豊富な草木の知識
・あまり感情を出さないが樹木への愛情が感じられる

根絶やしを身じろがず視る枝打ちて幹を伐りたるのちの工程(プロセス)P127 ※かっこ内は歌集ではルビ

→伐られる樹への思いがある。この一連「けやきの谺」にはそういった愛情が感じられる
 ※この「けやきの谺」は2016年度の塔短歌賞作のうちの24首だそうです。

<歌の特徴について>
・文語定型、感情を出さない、ルビによる読みへの指示(種子を「たね」と 読ませる)などに歌集全体を作者が完成したものにしようとする強い意志が見られる。
・三句目が「~の」で終わる歌が多い
・絵を描くように詠まれている
・植物の歌が多いが植物図鑑的ではなく時間を表現する素材として歌われている
・植物を歌うことによって直線ではない循環する時間が歌われる

 あべまきの落葉がふかく積むところ教へてくれしひとを思へり P135

→いまはそこにいない人とあべまきの季節による移り変わりがリンクする

・父のうたが少ない(戦争で亡くなられた伯父は多くうたわれている)

 一度のみ父とめぐりし北山に虎杖(いたどり)の名を聞ける沢あり P46  ※かっこ内は歌集ではルビ

 やや小さき父のコートを濡らしては墓への径に日照雨降り来る P214

・恋のうたについて

 君のこゑが雪と言ひたり覚めやらぬままなづきの仄か明るむ P171

→このうたはこの歌集の中でも少し感じが違うように思われる。
→このうたは恋のうたとしてよい
→穂村弘の"体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ"を思いだした(いわこし)

・時間の経過の表現について

 厚紙の建築模型たどりつつ現存せずとあるをまた読む  P164

→本物が現存しないということ。なくなった時間の経過が歌われている。

・助詞の使い方について

 長らくも彼が吹きつぐファゴットのかへでにあるをこの春知りつ P141

→「かへでに」の「に」の部分。定型に収める助詞

塗るほどに花の濁るを思ひてははがきの裏へやまざくら描く P186

→「はがきの裏へ」の「へ」初句の「に」との重複を避ける

・ものの働きへの着目について

 破(や)れ来たる広辞苑第四版を淡きみどりの花布(はなぎれ)支ふ  
 P204 ※かっこ内は歌集ではルビ

<その他>
・この読書会がなければ読むことがなかったかもしれない。読んでとてもよい歌集だと思った。(近藤かすみ)
・若い人にも読んでほしいが文語定型や草木花の歌に手にとりづらいところがあるかもしれない
・定型にきっちり収めるのではなく少し破調があったほうが歌集としては広がりができるかもしれない

以上

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