第九回ゴイサギ読書会『艸径』溝川清久 作を読む
日時:2022年4月30日(土)15:00~17:00
場所:塔事務所
参加者:近藤かすみ、松村正直、万造寺ようこ(リモート)、いわこし(司会) 敬称略
<進め方>
①いわこしよりレジュメに沿って感想および読みを発表(添付資料参照)
②参加者の感想と読み
③自由発言
<近藤かすみさんの感想>
・旧かなが歌とあっている
・漢字とひらがなのバランス
・歌が定型に収まっている
・文体が確立していてこの文体に当てはめる作り
・字あまりが少ない
→全体に神経がゆきとどいている歌集。
よいと思った歌
→「上の子」という表現が時間の流れを表している。子への愛情が歯型に見
える。
→角を折るという表現に歌の丁寧さんが表れている。文語を自由自在に使っている
→京都の景を歌っている。
<松村正直さんの感想>
・一首それぞれに時間が重層的に入っている
→今は声をひそめる(低くいう)必要はない。なぜならおほたかはもういないからそこに「低くしていふ」という表現をすることで、おほたかがいた時間と今とが一首の中に折り込まれている
→過去から未来への時間として現在の中に過去(おたまじゃくし)と未来(蛙)が織り込まれている
→去年受けた授業の時代から今回第八講で受けた時代は二百年たったという歌意からは、過去→現在→大過去という時間の流れが歌われている
・歌を作者がコントロールしている傾向がある。
→ルビで読みを指定する。定型に収める
・隙がない
・帯文の永田和宏さんの「佐藤佐太郎」との共通点としては、佐太郎は短歌至上主義的なところがあり、作者の情が極力排されたような歌そのものの技巧を読ませるつくりになっている。それに比較すると溝川さんの歌は情がある佐太郎といった感じである
<万造寺ようこさんの感想>
・神経のゆきとどいた歌集である。隙がない。
・上賀茂や植物園の景を丹念に詠まれている
・豊富な草木の知識
・あまり感情を出さないが樹木への愛情が感じられる
→伐られる樹への思いがある。この一連「けやきの谺」にはそういった愛情が感じられる
※この「けやきの谺」は2016年度の塔短歌賞作のうちの24首だそうです。
<歌の特徴について>
・文語定型、感情を出さない、ルビによる読みへの指示(種子を「たね」と 読ませる)などに歌集全体を作者が完成したものにしようとする強い意志が見られる。
・三句目が「~の」で終わる歌が多い
・絵を描くように詠まれている
・植物の歌が多いが植物図鑑的ではなく時間を表現する素材として歌われている
・植物を歌うことによって直線ではない循環する時間が歌われる
→いまはそこにいない人とあべまきの季節による移り変わりがリンクする
・父のうたが少ない(戦争で亡くなられた伯父は多くうたわれている)
・恋のうたについて
→このうたはこの歌集の中でも少し感じが違うように思われる。
→このうたは恋のうたとしてよい
→穂村弘の"体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ"を思いだした(いわこし)
・時間の経過の表現について
→本物が現存しないということ。なくなった時間の経過が歌われている。
・助詞の使い方について
→「かへでに」の「に」の部分。定型に収める助詞
→「はがきの裏へ」の「へ」初句の「に」との重複を避ける
・ものの働きへの着目について
<その他>
・この読書会がなければ読むことがなかったかもしれない。読んでとてもよい歌集だと思った。(近藤かすみ)
・若い人にも読んでほしいが文語定型や草木花の歌に手にとりづらいところがあるかもしれない
・定型にきっちり収めるのではなく少し破調があったほうが歌集としては広がりができるかもしれない
以上
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