ずっと塩だった友が2グラムの砂糖を見せてくれた話

その子は、私が「ほんとにひでーやつだー」も言うと、「そうだぞ、私はそんな奴だ」とすぐに言う人だった。

部活で初めて出会ったのはこの人で、初めて買い食いをしたのもこの人。
その人はゲーマーのオタクで、漫画とかアニメもある程度齧っていた。
私はどっぷりと漫画やアニメ、ソシャゲにハマる方。だが、その人と違ってゲーム機もPCも持っていなかったから、その人とはあまり話が合わなかった。その人はアンダーテールとか、ぷよぷよとかウマ娘とかしてた。
分かりにくいので、仮としてAとだけ言っておく。


Aはとにかくひねくれていた。
「卑怯だ」とか「都合良すぎないか」と言うと、「そういう人間だからな。今までもずっとそうだったし」と肯定ばかりしてくる。
かと思えば「自分の事は1番自分が知っている、とか言うけど1番自分が分からない」と言う。
言ってること違うぞ、と言うと、「そうだよ。私はコロコロ意見が変わる人間だから」と言う。

正直面倒くさいとずっと思ってた。
何を言っても「そうだと」同調され、あたかも自分の思考を全て読み取っている、というムーヴ。
糠に釘と言った方がいいのだろうか。
そんな感じだった。

でもAに初めて彼氏が出来て、何も進展がなく彼氏から振られた。
でもAには何かしらの変化があったらしく、度々「頭を撫でられたい。癒されたい。別に恋愛はしたくないけど」という旨の話を聞かされた。相談ってやつ?
でもAは私の話はあんまし聞いてくれない。
いいアドバイスも言われてない気がする。(Aは決まって相談の初めは、「どうでもいい私の話を聞いてくれ」と言ってくる)


ここまで書いて気付いている方も多いと思うが、
Aはただ単に

「不器用」

なだけである。


相談に乗ってくれないかという連絡を受けた。
なかなか時間が取れなかったが、少しの間ならと返事をしたら、電話がかかってきた。
その日も相変わらず同調していて、アドバイスをしても手応えがなかった。
私はそんなAに、少しイライラを感じていた。
だってAには親友がいて、その親友さえいてくれればいいと、ずっと前から言っていた。じゃあ私はなんなのか。お前の眼中にすらないのか。 この通話の時間はなんなのか。


だが、今日は少しだけ違った。
Aの親友が、精神的に危ないと聞いた瞬間、ずっと同調してきたAには余裕があると勘違いしていた。
私は家族とも全く上手くいってない。Aもあまり良いとは言えないらしい。学校も上手く通えていないA。
だが、大切な人が苦しい目に遭っている。
震えた声でAが言った瞬間、昔の「死にたがっていた自分」を少し思い出した。
寂しくて寂しくてしょうがなかった。相談なんて誰にも出来なかった。だがAはこうして私に電話を掛けてきている。

でも何言っても同調ばかりして話題を逸らし、「自分はそうだ」とばかり言い続けている。

自分はダメな人間。
親友がいなくなったらもう何も出来ない。
自分はもう変われない。
自分はヘタレだから。


なんだかAが哀れに見えた。
そしたら、今まで溜めていた気持ちが一気に溢れて、Aにぶつけていた。


なんでいつもいつも私の言葉に同調する。
私はお前の1番大切な人じゃなくていいから、Aはもっと親友とA自身を見てやれ。
なんで同意ばかりする。他人の意見に流されるなよ。
勝手に私の言葉で自分を決めつけるな。
もっとAを見ろ。Aが可哀想だろ。
親友さんばかり見るな。Aも見ろよ。
私はAを見てるから。
A、前に言ったよな、「私は家族が嫌いだ」って話したら、「じゃあこの部活のみんなを家族だって思えって」さ。それって自分を見ろって言ってんのと一緒だろ。


お互い泣いていた。気付いていたけど言わなかった。だがAは私をからかってきた。泣いてんのか、鼻すすってる音聞こえるぞって。
うるせーよ。
こんな時までそんなこと言うのかよ。

そしたらAは、「ドラマみたいな事言うじゃん」と言ってきた。
もう何個も乾いたAの言葉を聞いた私は、とにかく冷静に答えた。

そうだよ。そんな作り物しか見てこなかったからだよ。クサイセリフ言ってるのは分かってるよ。でも死んで欲しくないんだよ。Aも、Aの親友さんにも。


私は言った。
「ドラマみたい?当たり前だ。
ドラマでしか見たこと無いんだから。
こんなセリフ、誰にも言われたことないんだから」




死にたかった時、誰も助けてくれはしなかった。相談出来なかったし、誰かに打ち明けることさえも出来ない。今も出来ない。
リスカをした時、家族は「やめろ」と一言だけだった。叱ってくれる人なんて誰もいなかった。

だから私は、私にかけたい言葉をAにかけた。そしてAを叱った。


Aは前に言っていた。「他人の気持ちなんて分かるわけない」と。そんなの当たり前だ。
だから私は私自身に言うように、Aに伝えた。
自分を見てやれと。


Aに寄り添おうなんてもう思わなかった。
もう衝動的に出た言葉しか言わなかったし、それが自分が本当に言われたい言葉だったのも、言い切った後に気付いた。
だって、今までAに何を言っても乾いた反応しかかえってこなかったから。
Aはしばらく無言だった。


「Aは私じゃない。私もAじゃない。AはA。私は私。私はAを見てるから」


こうやって文字にしてみたら、とんでもなくクサイセリフだったんだな、と痛感している。恥ずかし。
でもあの時は夢中に声をかけていた。
1ミリでもいいからAに届いて欲しかった。


だってAはずっと、なにかに閉じこもっていたような気がしていた。


Aが言った。
「お前と話すとなんか壮絶な話題になる」

確かにそうだと思った。こうやって文字に起こしてみたら、当初の話題から大分逸れている。
だって初めは恋愛相談らしきものだったし。(恋愛っていうかAが元彼に対する気持ちでモヤモヤしている事を聞いていただけ)
親友さんが危ないと聞いた時から、私の中の何かのスイッチが起動した。

私は、Aのプラスになれただろうか。
Aは最後ら辺は笑っていた。
無理して笑っていたのか、私には分からない。
本当に、私はAの事が分からない。


通話の切り際、Aが言った。
「今日は本当にありがとう


私もありがとうと言って切った。
その5文字とAの笑いが含まれた対話で、部活の仲間として1年間過ごした経験から少し察することが出来た。
それと同時に、過去の自分に言いたくなった。
死なないで、生きててありがとうって。

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