テニスコーチの価値を高めると言う言葉に対する違和感から業界のことを少し考えてみた

スクール業界には「テニスコーチ職の価値を高めたい」という志しを持つ人がおり、それを積極的に発信する人もいます。もちろん価値が高まること自体は現役コーチ時代にテニスプレーヤーを一人でも増やすことをモットーしてきた者として賛成ですが、個人の価値が上がればテニスコーチ業界の賃金上昇につながると説く考えには少し違和感を覚えます。

※ここでいうコーチの価値とはレッスン業によって得られる対価・賃金を指します

結論を言うと、個人のレッスンスキルを上げたところで業界全体は潤いません。価値が上昇するのは需要と供給がマッチしている場所に出店しているスクールに在籍しているスタッフだけです。そういう意味で上記のような考えで業界全体が底上げされてコーチ職の賃金が今より改善されることを謳う人には少し疑問を感じます。潤うのは一個人です。今の業界では、地方の小資本企業に在籍するコーチは生活水準を落とさぬ様に収益手段に工夫を続け、何も手を打たなければいずれ淘汰されるか都市部に基盤を置く大資本企業に吸収されるのがオチです。傘下に収まれる方が幸せな方かもしれません。

前提として、商品の価値は需要と供給で決まります。一個人がテニスコーチとして唯一無二の存在であればその一人の価値はどんどん押しあげられるでしょう。私が疑問を持つのは、「テニス業界に携わるコーチ全体」と一括りに表して言う人たちのことです。確かに一人のカリスマ性、スター性を持ったコーチが在籍していることで評判を読んでスクールの生徒数が増えることもあるでしょう。広告に有名人を起用する方法と似ていますね。しかしそれだけではコーチ職の価値が上がるとは言い切れない気もします。もし仮にテニスコーチ職の価値を高めようと考えたら別の側面から考える必要があります。

例えば、テニスというスポーツ自体が飛躍的に重宝される状況になった結果テニスを指導するためのライセンスが公的な独占資格となり、更にスクールの開業には厳格な審査と規則が設けられることで誰しもがなれるものではなくなる必要があります。言うなれば「士業」のように職としてのスタートラインのボーダーが高くなければなりません。(コーチ職のトップ層がいくら高いレッスン料をもらったとしても駆け出しコーチのボトム層の最低賃金が上昇するわけではありませんから。)現状において、テニスコーチと弁護士の平均賃金が同じになることは想像し難いですよね。

また別の方法を考えるとすれば、携帯電話国内大手3社の様に競合しつつも足並みを揃えてサービスの利用料を決めて定期的にリニューアルをしながら新サービスに付加価値を付け続けることでしょうか?群雄割拠とも言えるスクール業界が整備され安定してサービスが提供できるまで壮大な道のりですね。今この瞬間も出店と閉店が繰り返されていることでしょうし、公共施設などで個人事業でレッスンをするフリーコーチも一体どれほどいるでしょうか?業界のルールなんてあってない様なものです。余談ですが、かなり昔に松岡修造氏がテニススクールはテニス界のコンビニであるべきという様な発言を某テニス雑誌内でされていたと記憶しています。業界が整備されたあかつきには、どなたか大手スクールの店舗数の変遷を表す動画を出して欲しいですね。

さらに別の業態で考えてみましょう。同じサービス業で高い単価を出しているのはなんといっても水商売でしょう。テニススクールもホストクラブの様に内装を豪華絢爛にしてその空間だけ別世界を演出したら商品単価を桁違いに上げてみましょう。コーチも指名制にして生徒との同伴やアフターも付けて、誕生日にはイベントを開催してみてはどうですか?月毎の売り上げランキング上位者の顔写真を掲載しましょう。色んな意味で賭けな気がしますが、おそらくグループレッスンが成り立たなくなるでしょう。あぁ、でも巷のフリーコーチなんかは自前の施設こそありませんが食事会とかアフターフォローとかそれに近しいことをやっている人がいるかもしれませんね。別に変な意味ではなく。

結局「テニスコーチ職の価値を高める」にはどうしたら良いのでしょうか。今のところの答えとしては、何か途方もないことがない限りは全体の価値上昇は起こり得ないと言うことだと思います。例えば、世界的なカリスマ性を持ったテニスコーチが現れてレッスンに革命を起こしてくれるくらいのことです。別記事でも書きましたが、私が今テニスコーチなら本業に縛られず別のスキルを伸ばして二刀流になるか、本業内の付帯収入とは全く違った商品を新たに検討します。まぁそれも商品開発に携われる権限があってのことですが。いずれにしてもレッスンのスキルだけを伸ばして価値を高めると言う方向性では的外れだと言えます。理想は明日スクールをクビになっても生きていけるだけのものが別車輪であったほうが良いのは確かで、コーチ職の価値を高めるより自分の価値を高めることを僕は必要だと思います。

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