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DX推進のカギは「合意形成」って本当ですか?―後編―

こんにちは!
HackCamp【合意形成ラボ】研究員のゴウイケイコです(私たちが合意形成を研究する理由はこちらから)。

多くの企業が取り組んでいるDX(デジタルトランスフォーメーション)。しかし、DXという言葉の解釈が違っていたり、目指す方向性が業務改善か価値創出かで意見が割れたりして、なかなか進まないのが実情のようです。

「まずは関係者間で目線を揃える必要がある」と指摘するのは10年以上前から組織における合意形成の仕組みの研究と実践を続けてきた、先輩の矢吹さん。前回(DX推進のカギは「合意形成」って本当ですか?―前編―)に引き続き、矢吹さんに「DXと合意形成」について教わります!

やっかいな問題とどう対峙する?

ゴウイケイコ:従来の経験則が生かせない難しさってありますね。

矢吹さん:DXは“やっかいな問題”そのものだね。「DXでなすべきは業務改革か、価値創出か」という問いに正解はなく、あえて言えばどちらも正解。でも、同時にはできないから、どちらかを優先する。では、どちらから始めるのが正解か。どちらを選んでもきっと正解なのだろうけれど、全員が納得する答えを論理的に導くのは難しい。

ゴウイケイコ:矢吹さんの説明はいつも論理的で、分かりやすいのですが、やっかいな問題は矢吹節をもってしても太刀打ちできないと……。

矢吹さん:いやいや、俺は全然論理的じゃないし、むしろバリバリの右脳派……って話はまた別の機会にするとして(笑)。

いままで企業はデータとロジックをエビデンスにして経営判断を下してきたんだよね。でも、やっかいな問題には通用しないし、そもそもデータやロジックで差別化するのって難しくて、そこから新しい価値は生まれにくい。VUCA時代に必要なことは客観的な正解を探すことではなく、自分たちにとっての答えやストーリーを創ることなんじゃないかな。言い換えれば、センスメイキング。自分たちが進むべきはこの道だと自分たちで決めてしまうということ。

でも、これが簡単にはいかないんだよね。いままでエビデンスに頼って正解を選んできたから、自分たちで決めなさいと言われても、そう簡単に各自の考え方も組織の仕組みも転換できない。これこそが課題の本質なんじゃないかと思う。

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今回のDX論は私のつぶやき
コロナ禍でデジタル化が進んでいますね」に
矢吹さんが反応したことから始まりました。
対話のきっかけは意外なところに
転がっているんだなと改めて思いました。

議論の出発点は「ありたい姿」

ゴウイケイコ:世の中には正解がないやっかいな問題が溢れていますし、用語の解釈は人によって違っているかもしれないんですよね。そんな難しい状況下で答えを作るためには何から始めればいいのでしょうか。

矢吹さん:DXのような部門横断型プロジェクトだと「まずはビジョンを作りましょう」と言いたくなるけれど、そこから始めると話が大きくなり過ぎるし、現場は「ビジョンは経営者が決めるもの、自分たちには関係ない」と受け身になりがち。そうならないために、まずは全員がDXを自分事化するためのプロセスが必要だと思う。最初は個々のチームで考えて、それをつなぎ合わせて組織全体に広げていくイメージだね。

議論する際のポイントは「ありたい姿」を話すこと。つい何を改善すべきか、何が問題なのかを挙げたくなるんだけど、問題について話し出すと近視眼的になるし、心理的安全性が保たれていない組織では発言を控える人も出てきて、議論が深まらない。

ゴウイケイコ:いま出てきた「心理的安全性」って私が研究したいテーマの一つです。合意形成をするためには心理的安全性がとても大事だと思っていて。

矢吹さん:あ、そうなの? じゃ、心理的安全性についてはまた次の機会に話そう。

「ありたい姿」というと、バックキャスティングのイメージで遠い未来を考える人も多いけど、この場合は「半年後にどうなっていたら仕事がやりやすい?」「2カ月後にどうなっているのが理想?」くらいの距離感がいいと思う。問題点をあげつらうと場が暗くなっていくけど、その反対にありたい姿や理想の未来を語れば、明るくならざるを得ない。チームのみんなとワクワクしながらありたい姿を考え、そこで合意形成するから、自分事化できるんだよね。このプロセスが新しい価値創出(DX)への出発点になると思う。

ゴウイケイコ:話を聞いている私までポジティブな気持ちになってきました。ありがとうございま……

矢吹さん:待って、最後に少しだけ生々しい話をさせてもらっていい?

DXがうまくいっていない現場はおそらく【業務部門v.s. IT部門】みたいな構図になっていると思う。たとえば、業務部門はIT部門に「これをやって」と依頼するけれど、IT部門は日常業務に忙殺されて対応できない。あるいは、業務部門の「これがやりたい」と、IT部門の「これができる」にズレがあって進まない。ほかにもいろいろなパターンがあるだろうけど、DXは一方向の依頼や指示ではうまくいかないもので、業務部門とIT部門との仕事のやり方を根本から変えるくらいの話なんだと思う。

それなのに現在の延長線上に目標やスケジュールを作るから、「やることが決まっているのにIT部門が逃げ腰」「そもそも業務のオーダーが無理ゲー」とボヤくことになる。忙しいからアウトカムの議論から始めたくなるのも分かるけど、それでうまくいっていないのならば、まずはありたい姿で合意形成してほしい。そこから【業務部門v.s. IT部門】の解消の糸口が見つかると思う。

ゴウイケイコ:そうか、対立の構図をそのままにビジョンを共有しようとしても、うまくはいかないですね。根本的なところを解決するための第一歩としても、合意形成が有効であることが分かりました。ありがとうございました。

最後に「DXと合意形成」のポイントを振り返ります。
(1)DXやデジタル化といった言葉は解釈が人それぞれなので要注意
(2)議論の前には「認識合わせ」をしよう
(3)VUCA時代には正解ではなく、自分たちにとってのストーリーを創ることが大切
(4)問題点ではなく「ありたい姿」から考えよう

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コロナ禍で握手がしづらい時代ではありますが、
マインド的にはしっかり手を取り合うことが、
DX推進のあるべき姿です。

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