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【ネタバレあり】『キャプテン・マーベル』:オジ&デス対談第3弾 Vol.3

《We need a HERo》

前回は映画としての『キャプテン・マーベル』についてだったので、もう少しキャロル・ダンバースという女性ヒーロー像にピンポイントで照準を合わせてみました。過去の様々なヒーローの積み重ねの集大成のようなヒーローであり、マーベル最強とも言われるキャプテン・マーベルが女性ヒーローであることの意味とは…?

類型に当てはまらない女性ヒーロー

オジサン 『キャプテン・マーベル』という作品の魅力って、キャロルのキャラクターに負うところも大きいと思うんですけど、その辺りについてもう少し話しましょうか。

デス うん。最初にスーパーマンを引き合いにだしたりしたけど、キャロルも大義とか平和のために闘ってもいるけれど、同時に自分の感情に素直なままに行動している部分もあるよね。

オジサン 彼女は、もともとは自分の感情に従うタイプだったのが、クリーで洗脳されて、「感情をコントロールして全てのクリー人のために闘うべき」と教えられて、そうするように努力していたけれど、それをやめた結果覚醒するわけですよね。
 フューリーが、コールソンのことを「あいつは命令ではなくて直感に従ったんだ」って評したときに、「私はいつもそれで失敗ばかり」みたいなことをキャロルは言うんですけれど、実際には直感に従わないでいたからこそ苦しんで、縛られたままでいたわけじゃないですか。要は、ヒーローがちゃんと自分の感情とか直感に従うことはけっこう大事なこととして描かれているんじゃないかなと感じました。

デス そうそうそう。で、当然その直感ってのは単なる思いつきではなくて、一瞬で善悪の判断しているわけだよね。で、正しいことをしないでおいて後から屁理屈を付けたりするのはダメですよっていうかね。
 あと、まぁ、ちょっと脱線するけど、オレの正直な感想を言うと、そういうスーパーマンのいい意味での人間らしさを描こうとして失敗しちゃってる例が、ワンダーウーマンなわけですよ。

オジサン (笑)

デス ワンダーウーマンは、セミッシラというアマゾネス集団の島で暮らしていて、他の人類社会と接点がなかったという設定だから、いざ、外の世界に踏み出してみてから、ちぐはぐなやり取りがあったりとか、一緒に行動するトレバー大尉と恋に落ちたりとか、“人間らしい“描写はしているんだけど、ただ、その人間らしさが新しい映画にしてはあまりにもステレオタイプ的で、逆に「人間ってこんなに単純じゃねーだろ」みたいになっちゃう。それがね、キャプテン・マーベルの場合は、神がかったパワーを持つことになっても、最初から最後まで人間らしさを失わないし、手の届かない存在にならないんだよね。

オジサン すごく真面目な話をしているときや自分の失われた記憶を取り戻すために行動しているときでも、ちょっとふざけちゃったりとか、他のキャラとのちょっとした言葉のやり取りに、きちんと個性が描かれていて、魅力的なキャラクターになってますよね。

デス これまでの女性ヒーローっていうのは、ワンダーウーマンみたいなちょっと母性を感じさせる女神のようで美しいヒーローだったり、あるいはブラック・ウィドウに代表されるようなファム・ファタル的な謎めいていて切れ者のクールビューティー系。あるいは日本で言うならエヴァンゲリヲン系というか、ガンダムのララアみたいな、感情が高ぶって暴走する系。

オジサン 超能力少女っぽいやつですか?

デス そうそう。例えば、スカーレット・ウィッチとか。まぁ、いまのところスカーレットウィッチはそこまでの暴走は見せてないけど(※コミックでは暴走描写がある)、アメコミヒーローものだと、夏に公開になるX-MEN最新作のダーク・フェニックスなんかが典型的かな。
 もちろんそういう女性ヒーローがダメだって言ってるわけじゃないんだよ。ただ、そういう過去にあった女性ヒーローの類型を考えてみると、キャプテン・マーベルに近いタイプは、強いて挙げるなら『マイティ・ソー/バトル・ロイヤル』のヴァルキリーとか、『ブラックパンサー』の妹シュリとかだと思うけど、どちらも主役ではなかったからキャプテン・マーベルほどは掘り下げされてなかったし、登場シーンもそこまで多くなかった。

オジサン そうですね。

デス 『アクアマン』のメラもハイブリッドな感じであまり類型化されてなかったけど。

オジサン でも、まぁ、「きれいなお姫さま」ですからねぇ。

デス でも、その一方で、ほら…

オジサン 薔薇食ったり…ですか?(オジ&デス対談第一弾Vol.5参照)

デス うん、まぁ、メラはそういう天然シーンもあるけれど、アクアマン以上に猪突猛進型で無茶なこともするし、それを成功させちゃう。頭もいいし。
 あとさ、水が必要な場面でアクアマンが「おしっこでよかったじゃん」とか言ったときに「はぁ~?(呆)」みたいな顔をするんだけど、そういう冗談に純真天然っぽい「??」みたいな返しや、逆に頭が良くて厳しいお姉さんキャラ的な「なに下品なこと言ってんのよ?!」みたいなテンプレ反応をしない。ひとつひとつの表情とか台詞をみていくと、メラもかなり新しい女性ヒーロー像ではあった。でも、キャプテン・マーベルと比べると、衣装がセクシーだったり、お姫さまという属性だったり、表面上は多少ステレオタイプ的と言えるものもあったと思う。
 でも、キャプテン・マーベルにはそれがない。衣装も顔以外はほぼ全部覆われている状態のスーツで、セクシャライズを許さない。でも、じゃあ、そこで「全くのノーメイクで髪の毛は坊主頭」みたいに、必ずしも「脱女性」を徹底するわけでもない。そういう意味で、ルックス的にもいままでにいなかったタイプだと思う。

オジサン 典型的な「男勝り」みたいにしちゃってないってことですよね。

デス そう。でもヘルメット被るときは、ヘルメットの構造上、髪の毛がモヒカン状に束ねられるっていうね。

オジサン あれ、カッコいいですよね、モヒカン♪

デス ね、カッコいいよね。もう、あそこまでいくと、男性とか女性とかそういうのを超越したルックスで、とにかくカッコいい。でも、日頃の髪形は普通にいわゆる女性的なセミロングで…

オジサン でも、だいたいいつもバサバサなんですよね。地球に落ちたときなんか墜落してきてるから、バサバサでなんならちょっと焦げてるみたいな感じで…。

デス そうそうそう。で、マニッシュであろうがフェミニンだろうが、どうあろうが、こっちの自由だろっていうか、男勝りなキャラだったらこう、お姫さまキャラだったらこう、天然キャラだったらこう…みたいにパターン化・類型化されている方がおかしいわけで。その時々の気分で変わったりするわけじゃん、人間ってのは。

オジサン そうですね。

デス 男もそうだけど。キャプテン・マーベルだって、その時々で変わっていいっていうのは当たり前のことだけど、これまでの女性キャラの扱いではまだ不十分だった。それをネクストレベルに押し上げたのがキャプテン・マーベル。それも一段階あがったとかじゃなくてさ…

オジサン 一気にレベル10アップみたいな…

デス そう、一気にね。で、闘うシーンでもね、ワンダーウーマンは長い髪をなびかせながら華麗に闘うし、ブラックウィドウはスパイ・暗殺者らしくクールにスタイリッシュに敵を倒すみたいなかんじだけど、この前も話したけど、キャプテン・マーベルの闘い方は…

オジサン マヌケなとこあるんですよね(笑)

デス そう。いや、もちろん、すごくカッコよく、スタイリッシュに闘う場面もあるけど、脱力感のある戦闘シーンとか、見栄え的にはあんまりカッコよくないんだけど、無理やり力技でなんとかしちゃうシーンもある。

オジサン 実際にはすごくリハーサルして振り付けされているはずなんですけれど、戦闘シーンが美しい「振り付け」になっていないんですよね。

デス そうそうそう。そういう「カッコよく闘っていて強いんだけど、そこはかとなく笑える」っていうのは、これまでなぜか男性ヒーローにだけ許されてきた特権というかんじがある。例えばデッドプールとか、スパイダーマンもそういうところがあるかな。なんなら、アイアンマンやソーにもそういうシーンがあるけど、女性ヒーローにはなかなかそういうのがなかった。キャプテン・マーベルでは、「そこはかとなく笑えるカッコいい戦闘シーン」がすごく自然に出てきてる。
 さらに、最後の覚醒後の場面でさ、小型戦闘機を数機まとめて大の字になって体当たり撃破するときに「ヒュー!」とか言ってるじゃん?闘ってる最中にさ、「楽しいぜイエーイ!」みたいなこと言うキャラって、男性でも限られた数しかいなかったよね。ましてや女性キャラがそんなこと言うとか、なかったでしょ!

オジサン 小型戦闘機とやりあってるとき、適度にやられて、「うっ、この野郎!」みたいになったりもするじゃないですか。悔しがりながら、ついに戦艦一隻を体一つでぶち抜いて爆発させちゃうっていう。あれもいいですよね。

デス なんていうか、ある種泥臭いんだよね。女性は差別されているぶん、泥まみれになるような思いをさせられているはずなんだけど、これまでの女性ヒーローにはそういうリアリティが足りなかったのかも。観客男性への配慮で「美しい女戦士」として描かれていて、「美しく見せること」が目的化してしまってる。
 キャロルは、インフィニティ・ストーンのひとつ(スペースストーン)のエネルギーを浴びてスーパーパワーを得るわけだけど、町山さんも言ってたように、その時の表情が、歯を食いしばってて目が光って白目剥いてるみたいになってて鼻血も出てて、しかも、それがスローモーションで何度も流されるわけだよ。ああいう表情って、これまでの女性ヒーローではなかったんじゃないかな。そういう“リアル“に徹するべきところとヒロイックに描くところのバランスがいい。

オジサン そうですね。こうして他のヒーローのことも考えつつ話してみると、キャロルというキャラの新しさに改めて気づきますね。

デス うん。これまでの、色んな女性キャラの積み重ねがあって、キャプテン・マーベルのようなハイブリッドな女性ヒーローキャラが生まれた、という感じだよね。

HERo〜女性ヒーローであるからこそできること〜

オジサン 今、デスのひとは「色んな女性キャラの積み重ね」と言いましたけど、キャロルの場合、女性のキャラとか女性ヒーローとかだけじゃなくて、あらゆるヒーローの積み重ねの上でできた感じもしますよね。だから、歴代「女性ヒーロー」の歴史に並べるのではなくて、もう別ジャンルに抜け出た、という感じ…

デス でも、あのね、これ、説明が難しいんだけど、キャプテン・マーベルはあらゆるヒーローの積み重ねの上に生まれたハイブリッドヒーローで、あらゆるヒーローを越えたと言っていい存在だとオレも思うんだけど、と同時に、やっぱり「女性ヒーロー」とあえて言いたくなるところもある。でも、女性ヒーローとばかり言ってると、その枠にだけ留めておくスケールでもないし…って。でも、逆に、その両方が成立していることがすごいよね。

オジサン 確かにそうですね。女性であるからこその部分ももちろんあるし、「素晴らしい女性ヒーローが誕生した!」と思ったら、「これはもはや“女性ヒーロー”ではなくて、普遍的な“ヒーロー”だ」とか言ってまた男に横取りされる感じもムカつくから、「いや、『女性ヒーロー』ですよ!」とも言いたくなるってことですよね。

デス そうそう。女性らが中心になって作って、女性らが中心になって演じて描かれた女性ヒーローであるっていう、そこをスポイルされるっていうかさ…

オジサン だから、まぁ、デスのひとが前から言ってる「(女性ヒーローの映画は)男である自分には語りにくい」っていうのはそこですよね。男が偉そうに「いや、これはもう女性ヒーローの枠を超えた」とか言うと、ボクがさっき言ったみたいに、「また、カッコいいヒーローが出たと思ったら、“俺達の“みたいに横取りする気かよ、この野郎!」って気持ちに…

デス そう!しかもね、「これはいい意味で言っています」とか言ってね、「これはもはや女性ヒーローじゃない、女性にとっても男性にとっても紛れもないヒーローだ」「リスペクトしてるからこそ、そういう表現で称賛している」みたいなね、要は「キャプテンマーベルはみんなのもの」みたいなかんじで言われると、それはそれでムカつくじゃん?

オジサン ムカつきますね。

デス いや、それはそれで間違ってないんだけども、でも…女性ヒーローとして女性をエンパワメントするって側面もあるんだから、そこを無視するなよって思うし…

オジサン とりあえず男がそれいうとムカつくってのはあると思いますね。

デス 早い話がさ、アイアンマンとかスーパーマンとかアクアマンに女性ヒーローとして女性をエンパワメントする力はないわけだよね。それはキャプテン・マーベルだからできることであって。だから、「これはもう性別関係なしに素晴らしい」と言っていい部分と「女性ヒーローとして女性をエンパワメントできるからこそ大切な存在であり素晴らしい存在である」と言うべき部分もあるから、その両方を大事にしないといけないってことだと思う。

オジサン そうですね。女性「だから」素晴らしいわけじゃないけれど、女性「である」ことが大事ではある、ってかんじですかね。誰であっても、感情移入したり、エンパワメントされることは、いいと思いますけどね。

デス ブラックパンサーで考えてみるといいと思うけど、ブラックパンサーは広い意味での黒人のヒーローなわけだよね。それをさ、日本人で黄色人種という有色人種とはいえ、対米従属国家で生まれ育った中途半端に精神的名誉白人みたいな奴らが「いや、もはやブラックパンサーは黒人だけのヒーローではない、全世界のあらゆる人種のヒーローだ!ヽ(^O^)ノ」みたいなかんじで、無思慮にTwitterアイコンをブラックパンサーにしたりしてたらさ、なんかムカつくじゃん。みんなをエンパワメントするって結論は間違いないかも知れないけど、優先的に誰から…まず真っ先に誰をエンパワメントしているのか、その対象は誰なのかってことをさ…

オジサン その人たちから奪っちゃいけないですよね。

デス そう。要は、常にマジョリティでいつも優先席に座ってるくせに、なに今回も優先席に座ろうとしてんだよ?どいとけよ!と。

オジサン わかります。今回は、お前らは優先席じゃなくて、そっちの立ち見席に立ってろよ、っていう…

デス っていうか、立ち見席に立ちますって自分から言えないやつは、もう、このエリアに要らないから出ていって。出ていって『タクシードライバー』でも見とけよ、Blu-rayとDVDで画質の違いとか無駄に見比べとけよ。で、「同じモヒカンでもこっちのモヒカンだぜ」とか言ってマネしとけよっていうね。

オジサン だいぶ酷いですね(笑)

デス 言っておくけど、『タクシードライバー』は良い映画だし、オレも好きだからね。『タクシードライバー』がダメな映画だって言ってるわけじゃなくて…。

オジサン 『タクシードライバー』好きの男にクソオスが多いってやつでしょ、いつもの(笑)

デス そうそう(笑) だから、お前らはお前らの好きな『タクシードライバー』を家で勝手に見てろよ、と。

オジサン ディスり方がなんか遠回しですよね(笑)

デス (笑) まぁ、映画を見る許可くらいは与えてやるけど、『キャプテン・マーベル』とかにもう近づかないで、みたいな。なんか、もう、『タクシードライバー』とか『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』とかさ、あとは『惑星ソラリス』とか見てなんか哲学的なこと考えてるような気にでもなっとけよ、みたいなね。あとは、まぁ、『市民ケーン』とかさ。

オジサン 『市民ケーン』見て「薔薇のつぼみ…」とか言っとけよ、みたいな?

デス あとは『ヴェニスに死す』とか見てさ…

オジサン 一緒に黒い汗流しとけよ、みたいな?

デス そうそう(笑)

オジサン まぁ、わかります(笑) そういうあたりが、デスのひとが『キャプテン・マーベル』について、フェミニズム的観点から語ろうとするときに色々と躊躇してしまう所以ですよね。まぁ、でも、そういう葛藤があること自体は悪いことじゃないと思いますよ。

=Vol.4に続く=

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