『ザ・ボーイズ』と『タイバニ』:オジ&デス対談第5弾 Vol.2
アメコミ原作ドラマ『ザ・ボーイズ』と日本のアニメ『TIGER & BUNNY』を合わせて語ってみようという「ぬいぐるみと人間が対談形式で映画について語るシリーズ第5弾」、前回は『ザ・ボーイズ』について話したところで終わっていたので、今回は主にタイバニについて語りつつ、女性の描かれ方や女性像の提示の仕方について少しフェミニズムっぽい話にもなってます。
「キレイな『ザ・ボーイズ』」〜TIGER & BUNNY〜
オジサン タイバニこと『TIGER&BUNNY』は2011年に放送されていたアニメ作品で、ネクストと呼ばれる特殊能力者がヒーローとして活躍する世界を舞台に、ベテランヒーローの虎徹(ワイルドタイガー)と新人ヒーローのバーナビー・ブルックス・Jr.(通称バニー)の活躍を描いたバディーものなんですけど…。
デス まぁ、このネクストってのがアメコミヒーローものでいうならX-MENのミュータントに近い感じだよね。要するに、アべンジャーズやジャスティス・リーグのヒーローのようなオールラウンド・プレイヤーはあまりいなくて、なにか一つの能力に極端に特化したタイプのヒーローたちが互いに競いながら、時にはチームワークで力を発揮するみたいなね。
オジサン 『ザ・ボーイズ』と同様にヒーローがいるのが当然の世界で各ヒーローにスポンサーがついていて商業化・商品化もそれなりに進んでいるんですけど、犯罪が起きるとそのヒーローたちが出動させられて、その活躍の様子が「ヒーローTV」というTV番組で生中継されているっていう設定がちょっと独特なんですよね。
デス でさ、ボーイズが「汚いタイバニ」と呼ばれていたわけだけど、こっちは言うなれば「キレイな『ザ・ボーイズ』」なわけだよね。タイバニでもヒーロー側の人間の悪事とか腐敗とか欺瞞ってものも描かれるし、商業主義のえげつなさにも触れられているけれど、それが露悪的な手法ゼロで万人が見られるテイストでつくられているよね。
正直言うと、ジェンダー描写が微妙なところがあって、それが欠点なんだけどね。
オジサン それなんですよねぇ…
デス 具体的には、ブルーローズというヒーロー兼アイドル歌手の女子高校生やドラゴンキッドというボーイッシュな子がいるんだけど、結局「女の子ってこうあるべき」という役回りを押しつけられてしまってる感じがする。
とはいっても、日本のクソミソジニー大国のコンテンツとしては比較的マシだよね。あくまで相対的にはマシというだけだけど。続編も作るらしいから、今後はそこら辺を気をつけてほしいなって思うところはある。主役の虎徹さんがオッサンなんだけどさ…何歳くらいだろ?
オジサン 子供が小学生だし、30代後半とかそんくらいじゃないですかね。
デス 普通に魅力的なキャラなんだけど、たまに娘とかブルーローズに対してキモいものの言い方をしたりセクハラ発言をしたりとかするんだよね。そこは明らかに欠点だけど、それ以外はとてもよくできてるよね。虎徹さんとバニーちゃんのブロマンス的なかんじ、BL的な描写もいいよね。
で、このnoteさ、アメコミ映画の話を中心にしてるから、タイバニについても「アメコミ要素」をまずは指摘しておこうと思うんだけど、さっきも言ったように、まずネクストがX-MENのミュータント的なんだよね。で、ヒーローやってるネクストは人気者である一方で、ネクストに対する偏見や差別なんかもあるってことも示唆されてる。当然、犯罪者のネクストも沢山出てくる。ただ、X-MENがシリアスで暗い話が多いのに対して、タイバニは一貫してコミカルでさほど沈痛な感じはない。
オジサン そうですね、「明るいX-MEN」ってかんじありますね。X-MEN好きなひとなら、「このキャラの能力はX-MENでいうとあの人だな」とか考えるのも楽しいでしょうね。
デス で、虎徹さんが子供の頃から憧れている先輩ヒーローのレジェンドは「太ったスーパーマン」みたいなビジュアルで、虎徹さんも最初はそういうかんじのコスチュームでダサいンだよね(笑)
オジサン ブリーフ野郎ですね(笑)
デス で、バニーちゃんは実は幼い頃に両親を殺されていて、その犯人が誰なのかっていうのを追っている青年で、これはバットマンのブルース・ウェインなんかに通じる設定だよね。他にもヒーローものに限らず色んなパロディがあって、スカイハイってヒーローのプライベートの姿が『トップ・ガン』のトム・クルーズっぽかったりね。あと、スカイハイさんは、とにかく…面白いよね。なにげに一番好きなキャラかな。
虎徹さんから考える日本のオッサニズム
オジサン 僕は、まぁ、(自分の名前の由来だし)虎徹さんにそれなりに思い入れがあるんですけど、でも、虎徹さん、けっこうイラつくんですよね。ま、ああいうアニメや映画って「視聴者には分かっているけれど登場人物にはまだ分かってない」っていう描写がけっこう多いじゃないですか。
デス うん、あるある。
オジサン サスペンスなんかで「ああ!今危ないのにっ!」ってはらはらさせるためによく使われますけど、タイバニでもいつも視聴者は虎徹さんやバニーちゃんよりちょっとだけ早く事実に気づくようになっているんですよね。で、はらはらしてるときに、なんか素っとぼけたこと言うから…。
デス まぁ、そこはさ、いかにイラつかせずに描くかってのがけっこう難しいよね。ただ、最近のハリウッド映画なんかではイラつかされることはほぼないよね。タイバニは虎徹さんをちょっと抜けたところがあるひとと設定しているから、わざとそうなっている部分はあるけど、それ差し引いたとしてもちょっとイラつくときあるよね。
オジサン あれ、もともとは「疲れたお父さんに見てほしいアニメ」っていうコンセプトらしいから、ボンクラな日本のオッサンが見ても虎徹よりも早く色んなことに気づく必要があるわけじゃないですか。だから、ああいう風になってんじゃないかなーって気がしてます。そのせいか、娘に対するセクハラとかも、一応は「やっちゃダメですよ」風に描きつつも、「でも、ついやっちゃうもんだよね」っていう共感の方が強く描かれている感じがして、そこがボクはちょっと…モヤモヤするポイントですね。
デス そうそうそう!所詮は「(笑)案件」みたいなね。
オジサン 「お父さんって娘のことを愛しているからついこういうこと言っちゃったりやっちゃったりするんだよねー」みたいなかんじで、最終的に娘もそこまで怒ってないみたいな話になってんですよね。オッサンのポジティブ歴史修正みたいなの、ほんとやめてほしいですね。
デス まぁやっぱ日本のコンテンツ見てて、今も昔も引っ掛かるのはそういうとこだよね。
オジサン 女性キャラの台詞回しとか声のトーンとかもですけど…。あとはファイヤーエンブレムっていうゲイのトランスヴェスタイトのキャラの描写がすごくステレオタイプ的でちょっと差別的なんですよね。男性のお尻をやたら撫でるとか、そういうやつ。
デス そもそも日本のテレビ業界で、セクマイがそういう役回りを求められてるってのがあるよね。そういうステレオタイプ的な誇張した振る舞いを引き受けるひとしか、「セクマイ枠のタレント」にはなれないみたいな傾向があるよね。結果、世間もそういう印象に流されているっていうのはあると思う。ファイヤーエンブレムの場合は、今後作られるシリーズで内面を掘り下げたりとかしていける余地はあるよね。
オジサン ボクからみると不十分だなぁという印象なんですけど、一応、そういうことを劇場版ではやろうとしてはいましたね。
タイバニって、同人やってるひとにもすごく人気があって、というか、むしろ一度同人やめたけどタイバニ見て復帰しましたってひとがいるくらいに人気がある作品なんですよ。それで、れっどさんの(同人やってる)知人によると、映画におけるファイヤーエンブレムの内面描写に感動したっていう意見も多いみたいで、遅れてはいても少しずつは追いつこうとしてるのかなぁとか思いますね。
デス でも、追いつこうと頑張っている勢力も一定数いるけど、意地でもブレーキをかけようみたいな、なんならバックラッシュして逆行してやろうみたいな勢力が大き過ぎてさ…。
オジサン ボク、ほら、ガンダムUC好きですけど、ユニコーンでさえ「男だから」「女だから」みたいなこと言うじゃないですか。お前ら、宇宙世紀なんだろ?って思いますよね。ガンダムシリーズって女性パイロットも多いし強いんだけど、アニメ制作の中心に関わっているひとの大半が男性だからそういう風になっちゃうのかなって気がしますね。
デス それはあるね。
オジサン 一回オッサンを全部追い出して女性だけでやった方がいいんじゃないですかね。オッサンが「女の子の物語」とかいって作ってもどうせオッサンの作ったオッサン向けのものになっちゃうわけで。(押井守の「ぶらどらぶ」制作のニュースに触れつつ)
デス 押井守とかはさ、ただのプロデュースに回ればいいんだよね。ネームバリューを活かしてさ。で、女性に好きに作ってもらえばいい。
オジサン なんていうか、女性のキャラばっかり出てきてもオッサンがやってるとオッサンが考えた妄想の女性しか出てこないわけじゃないですか。
デス アニメだけじゃなくて女の子ばっかりのアイドルグループとかもそうだよね。
オジサン オッサン向けにプロデュースされた女性をたくさん見せられても…って話ですよね。
デス すでに90年代にスパイスガールズとかはフェミっぽい歌を歌ってるわけじゃん?でも、AKBとかはオッサンが男向けに作ってるから、そういう歌を歌うことはないわけだよ。女性を山車にしてるだけだから。視界に入る女性の数だけ増やせばいいもんじゃなくて、意思決定に女性が参画することが大事だよね。
オジサン それも大量に女性が参入しないと、オッサンの気に入ることを言わざるを得なくなるから、もうオッサンは本当に金だけ出しててほしいですよね。
デス まぁ、そういうことがあるからクォーター制とかがあるわけだよね。10人中たった1人女性がいたところで、女性の意思が反映できるのか、って話でさ。こういうときにリベラルとか左翼のオッサンのイラつくところは、「10人中1人いるんだからちゃんと女性の意見も反映させてますよ?それともなんですか、あなたは彼女が男性に臆して意見も言えないような意志の弱い女性だって言うんですか?それは彼女に対する侮蔑じゃないんですか?」とか言い出すわけだよ。
オジサン あー、「それは女性を弱いものだと決めつける差別ですよ」論法ですね。
デス そう、そういう薄っぺらいリベラリズムの悪用ね。本来は反論する価値もないほど馬鹿馬鹿しいんだけど、そのレベルのことをいう馬鹿が日本にはまだいっぱいいるから、いちいち反論していかないといけないわけだよ。
オジサン オッサンたちは、たちが悪いことに、自分たちが散々女性の意見を蔑ろにしてきてるのに、そのことに無自覚だったりするんですよね。
=第5弾 Vol.3に続く=
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