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後遺症(前篇)

※この文章に出てくる登場人物は全て敬称略且つ仮名です。

文学フリマ38が終わって二週間以上が経過しているが、私は腑抜けた状態になっている。
「いつも腑抜けてるじゃん」と思われるだろうが、更に腑抜けた状態になっていて、ぎょうざの満州のように言えば「三割腑抜けている」。
文学フリマの終了後、数日は文学フリマで買った本を何冊か読んだものの、それ以降は全く何もする気が起きず、せいぜいがYouTubeかプロ野球をネットでぼんやりと眺めているくらいだ。本を読む気も起こらない。

思えば今年の四月から五月の半ばにかけての私はリア充だったと言っても過言ではない。友人と花見をし、プロ野球観戦に行き、一人で博物館や美術館、寄席に足を運んだ。更には積ん読になっていた本とマンガを何冊か読破した。
おまけにFFⅦリバースの為にプレイステーション5を買い求め、それで遊んだ。
冬眠していた野生動物のように、冬に蓄えていたエネルギーが解放されたのか。
そして先月の文学フリマである。

それらの反動が来たに違いない。むしろ来ない方が不思議である。
御存知のように私の脳の容量は驚くほどに狭い。覚えておかなければならない事柄も次の瞬間には忘れており、どうでもいい役に立たない事柄は覚えている。
その圧倒的狭量スペースに、短期集中的にこれでもかと情報の波が押し寄せ、私の脳内はあっと言う間に決壊をした。今はその再生をじっと待っている。そのための腑抜けた状態だと思われる。

そんな状態ではあるが、今更ながら文学フリマ38について書こうと思う。
既に記憶が不明瞭且つ曖昧になっているが、そこはご容赦願いたい。

以前から言及していたように、私は今回の文学フリマでは世話になっているM読書会のメンバーと共にアンソロジー本「夢想文学」を作り、それを頒布した。
当日は私のブースと、M読書会の主宰者の宮田とブースと机を並べて、お互いの本と夢想文学を並べた。
宮田は彼女の友人と参加をしており、個人で作った本やブックカバーを、また、友人と共同で本を作り、それらを並べていた。
私のブースと宮田のブースが上手い具合に横並びになったのは、文学フリマの出店の申し込みの際に、申請をすれば希望のブースと横並びにすることが出来、その為である。

前回、前々回と一人でほぼ一日中椅子に座って出店をしていた私にとって、隣に知り合いがいるのは心強かった。客が来ず、茶を挽いていたときにも隣に話し相手がいると孤独が紛れた。

今回の私のブースは入り口に近く、客の往来が多く見込まれる場所だった。前回は会場の端の方で、目的の本があるような客しか来ない場所であり、三百部刷ったフリーペーパーは七割近く余った。
今回は前回と前々回の経験を踏まえ、二百五十部のフリーペーパーを刷ったのだが、十六時には捌けたので良い塩梅だったように思う。
ちなみに、何故、そんなにフリーペーパーを配るかと言うと、広告であることは勿論、自分が手持ち無沙汰にならないためである。

私はこれまで幾度かの文学フリマでの出店を経験しているが、椅子に座っているだけというのは恐ろしく暇だ。
「いらっしゃいませー」
「どうぞ、お手に取ってごらんくださーい」
等と声掛けをするも、それだけだと飽きる。そのうちにじっと座っていることに疲れて無口になり、下を向いてスマホをいじったりすると、更に客が素通りしていくという悪循環だ。

よほどの名が知られた作家でもない限り、黙っていても客が来ることはそうそうない。そのためのフリーペーパーである。
客の為ではあるが、自分の為でもあるのだ。
私のフリーペーパーは本の広告をしているのは勿論だが、千三百文字ほどのエッセイを載せた。前回、前々回に続き、これも三度目である。
文字数がそれなりにあるため、その場で読むのは難しいがそれは狙いであり、あとで戻ってきてくれれば良い、という思惑の遅効性のフリーペーパーだ。
実際に、前回も今回もフリーペーパーを手に取ってくれた客がしばらくしてからブースに戻ってきて「フリーペーパーが面白かったので、本を買います」と言ってくれたことがあった。それを聞いたときは私は心の中でガッツポーズが出た。
刷った枚数の割りに効果が少ないかもしれないが、それは二の次だ。

さて、今回の文学フリマからは入場料の千円が必要になったが、それでも過去最高だったという前回の文学フリマと大差ない客の入りだった。
その恩恵に私も与ることが出来たかと言うと疑問符が付くところだが、十数冊が売れた。無名の個人のエッセイにしては上出来のように思う。

そんな今回の文学フリマで最も嬉しかったのは、前回の文学フリマで私の本の一作目を買ってくれた方が今回も私のブースに来て「前作が面白かったので続編を買いに来ました」と言ってくれたことだ。
「それを聞きたかった」
これはブラックジャックの名言のひとつだが、そのときの私の心境は正にそれだった。それが聞きたくて二作目を作り出店していたようなものだ。
出店者冥利に尽きる。またこのセリフを聞けるように、次の作品を良いものにしたいと思う。

ちなみに私が参加したアンソロジーの夢想文学は取り置きを含めると半分以上が捌けた。こちらもなかなかの結果だったように思う。(続く)








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