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あいをしらないがぁる そのいち



 トム子はすてごをひろった。かんかんでりの日、ひんやりつめたいあの子をひろった。

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 夏の日、あせだくになりながら家路につく。なんにもやってない、もってない、退屈な女の子だから、今日は教科書だって学校の机においてきちゃって、なんも入ってないかるーいカバンを振り回しながらコンクリートを蹴る。
 −−かえったら麦茶、むぎちゃ。
 右足も左足も宙に。るんるんびーとがトム子の胸でおどる。軽い軽い、トム子の体はそのまま雲と一緒に果てに流れていく、かも。

 北向きのトム子の部屋は、ひんやり涼しい。ふくらはぎをしめつけるソックスは玄関に放って。麦茶、むぎちゃ。額の汗までも、駆けていって。麦茶、むぎちゃ。もっとひんやりしたい、はやる気持ちでとんでっちゃいそうだけど、重力にかろうじてつなぎ止められる。

 冷蔵庫に手をかける。からん、と空気が鳴る。ひんやり、冷気がトム子の顔を包む。目に見えない温度の戯れに目をつむって、そっと笑う。麦茶、麦茶。冷蔵庫の内部を指でたどる。
 「ちめたっ」
 指先に感じた痛いくらいのひんやりにトム子は目をまんまるくする。

 ことばも失くしたトム子の視線の先には女の子がすてられていた。

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