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ごく普通の大学生が悪事の共犯者からカモられた2年間と、その結末の話

私が過去にやらかして経験した、悪事とその結末を書きます。20年以上前の話であり、自分なりのまとめとして書き出したい。

大学生時代、僕は自分が人よりもクレバーで器用だという自信があった。大学生は大抵そうだと思うけど、僕もそうだった。僕は普通の大学生だったという事だ。そんな普通の大学生がハマった、約2年間の泥沼なお話です。

はじまりのはじまり

そんな普通の大学生だった僕は、友人に誘われてちょくちょくサバイバルゲームの集まりに参加して遊んでいた。

そこには年上の社会人のお兄さんやおじさんもたくさんいて、学生同士の集まりでは出てこない仕事の話やオヤジな話題が聞ける上に、僕と友人は若い参加者というだけで色々と優待してもらえるのでとても気持ちが良かった。まぁ、当時は優待されているという認識はなく、自分が優秀だからだと思っていた筈だ。社会が見えていない、普通の大学生だったのだ。

そんな僕に、20代後半のちょっと厳つい感じのお兄さんがコンタクトを取ってきた。彼は20代にもかかわらず土建会社の社長だそうで、威勢が良くまぁまぁ羽振りがよく見えた。今なら、ただの一人親方が一人社長として法人化してやってるだけってわかるけど、当時は「社長ってすげぇ、お金持っててすげえ」なんて思ってたよ。ほんと、社会経験のない普通の大学生だったのだ。

先に言うと、その社長は僕をガッチリとカタにはめて、泥沼に落としてグズグズにしてくれました。僕は、今でも社長に会いたくないし、会ったら怖くてまともに会話すらできないと思います。僕の中では、20年経った今でも消化しきれていない膿みたいな存在です。

最初はゲームが終わったらメシでも行こうよ、というレベルでなんの問題もなかったんだけど、そのうちにメシの後にスナックに行ったりキャバクラに行ったりするようになった。当時の僕は女性経験もあまりなく、夜のお店なんて行ったこともなかったので、怖さもあったけど、好奇心から夜の店にも着いていくようになった。大学生になったら少しは夜のお店にも行ってみないとね!なんて思っていたんだ。社長は大体の場合で奢ってくれたけど、たまに割り勘にしたり、一部負担を求めたり。でもその一部負担でも大学生には結構痛い。1万とか2万とか、1日で飛んでしまう。バイトしてもお金が残らない、でもいい経験だししょうがないな。そんな感じで考えてたけど、大学生は欲しいもの多いし友達と遊びにも行きたい。やっぱりお金がないとキツイ。

そんな生活を維持するため、僕はだんだんバイトの日数を増やしていき、忙しくなりはじめた。このときはまだ大学にもちゃんと通っていて、大学とバイトを両立させていた。この時点では、よくいる大学生の生活だったと思う。

そんななかで、ぼくは少しづつ疑問を持ちはじめた。あれ?彼は社長とはいえ何であんなにたくさんお金を持ってるんだろう?あんまり仕事してるようにも見えないのにな。サウナ行ったり病院に通ったりサバゲーやったり。たまに仕事行ってきたなんて言うこともあったけど、大体遊んでる。なんで?

そう思いながら付き合っていたのだが、その答えとして分かったのが、とある「ちょっと悪いこと」をしてお金を手に入れているということ(詳細はぼかします)何だそれは?そんなことがあるのか。あるんだ、ナニワ金融道みたいな現実があるんだ。え?そんな簡単に、目の前のお兄さんでもやれちゃうの?え?まじで?

ここで私は選択肢を間違えたのです

社長の収入源。それ一つが「ちょっと悪いこと」でした。古典的とすら言える「ちょっと悪いこと」でした。今なら断言できます。そんなことをやってる奴からは最速で離れるべき、関わってはいけない人物です。でも、自分は人よりもクレバーだなんて思っている大学生は、そんな当たり前の判断すらできなかった。そのまま付き合いを継続してしまったのだ。あわよくば、僕だって上手くやれるんじゃないか。そんな考えすらあった。そう、僕は選択肢を間違えたのだ。

それからしばらくサバゲーしたりキャバクラ行ったりしてたんだけど、そこに新顔のおっさんが追加されてきた。おっさんはサバゲーはしないけど、社長が夜のスナックに呼び出しては一緒に飲むようになったんだ。

おっさんは社長よりも年上だったけど、いつも社長から奢ってもらっていた。おっさんはお金がないらしい。ぼろい車に乗って、服も結構ぼろい。一番年上なのに一番ペコペコ腰が低い。

話を聞いていると、おっさんの立場がわかってくる。おっさんは社長からお金を借りているらしい。それも3桁万円を超える、結構な金額だ。サラ金からもたくさん借りていて、返済で首が回らないらしい。そう、そのおじさんは多重債務おじさんだったのだ。

そんな多重債務おじさんと、20代後半の社長と、普通の大学生。その3人がスナックやキャバクラで飲んでバンバンお金を使っている。今思えば異常な関係なんだが、そのときはなんとも思っていなかった。僕の中で社長はお金をたくさん持っているすごい人だったから、なんの疑問も抱いていなかったんだ。お金がない人が二人と、悪いことをやっちゃう怪しい社長が一人。社長にとって、新たな「悪いこと」を始めるために必要なパーツが揃っていたのだ。

悪いことの始まり

ある日、おっさんの部屋に3人。僕と社長とおっさん。おっさんの借金がどうにもならないという話だった。全体像は理解できなかったが、おっさんの借金はとても深刻な状況のようだった。そこで社長は僕に対してこんな事を言ってきた。「お前、こいつの〇〇に〇〇してやれ。その後は上手くフォローしてやるよ。多少時間はかかるけど、お金が入ったらみんなで分配しよう。おっさんは借金が返せて、おまえには100万以上の小遣いが手に入る。いい話だろ?」

いい話な訳あるか。どこに出しても恥ずかしい、悪いことだ。まともな人間はこんな話は受けない。当然である。ただ、その時も僕はもうまともではなかったのだ。僕は少し考えたものの、首を縦に振っていたのだ。

このときに僕の転落は確定した。脅されたわけでもない、自分の意思で参加を決めていたんだ。この後の泥沼も、大変だった借金生活も、僕は被害者ではなく、単純に自業自得だと思っている。

手はずは簡単。ちょっと不注意のつもりで〇〇したらいい。単純な話だ。それだけで、大金が手に入る。

当時の僕は、まったくもって頭がおかしかった。犯罪だけど、バレなきゃ大丈夫。上手くやれるし、上手くやったら大金が手にはいる。そのくらいの認識だった。本当に馬鹿だ。犯罪であること以外にもリスクはたくさんあったし、先に結果を言うと、この時点で僕はカタに嵌められていた。社長とおっさんは、僕自体をカモとして狙っていたのだ。覚悟も経験も知恵もない馬鹿な大学生なんて、弱肉強食の世界では美味しいカモネギちゃんだ。

悪いことをした後、その先に待っていたのはぬるま湯の泥沼だった

そして僕はその1週間位後に、ちょっと不注意のつもりで〇〇した。これでもう、後戻りは出来ない。僕は一線を超えてしまった。悪事を犯したのだ。当時はそこまで深刻には考えていなかったが、一線を越えてしまったのはこの時だ。

その後の処理はなんの問題もなくスムーズに進んだ。本当にあっけなかった。これで後は大金を手にするだけだ。マジでそんな簡単に考えていたんだ。でも世の中はそんなにイージーじゃない。このとき僕は、もう引き返せない状況に追い込まれていたのだが、気づいていなかった。

翌日。社長から電話で「おっさんが、昨日の〇〇のせいで調子がわるくなって仕事どころじゃない、やばい。今すぐおっさんの家に来い。」といわれた。緊急事態だ、とにかくおっさんの家に向かった。僕はとりあえず見舞いに行くが、何もできる事はない。謝るしかないんだが、おっさんも共犯である以上、僕を責めるような事はしない。ただ、仕事ができないとなると、おっさんの返済計画が大きく狂ってしまうらしい。

多重債務おっさんは、今回の一件で一発逆転返済しなくてはならないような限界返済計画を組んでいた。そして、その返済計画を組んだのは社長だった。そして、その返済計画はおっさんの労働力が無くなったことで頓挫した。その原因は僕がやった〇〇、ということになる。

僕もおっさんも困った、困ったが困っていてもお金はどこからも出てこない。そこで社長から提案。「おまえサラ金で50万借りておっさんに貸してやれ。おっさんが仕事に復帰したら分割で返済させる。」

え?そういうことになりますか。でも、断れない。なぜなら、僕には人に言えない負い目があるから。断れない状況に追い込まれ、僕の喉奥にでかい釣り針を突き刺されたのだ。

今の僕には助けを求める事ができる相手がいない。

僕がサラ金で借金する?マジで?嫌だ、怖い。嫌だけど、僕は悪事でお金を稼ごうとした悪者だ。ここで初めて気が付いたのだ。今の僕には助けを求める事ができる相手がいない。親も、友達も、警察も、誰にも言えない。なぜなら発端が「悪いこと」だからだ。あの事故の後、僕の世界は社長とおっさんと僕の3人だけになってしまっていた。そして、その3人の中で僕は一番年下で、一番弱く、おっさんを労働不能に陥れた加害者だった。これがどういう立場なのか、このあとイヤというほど思い知ることになる。

僕はその場の恐怖や力関係に流されるだけ流されて、相手の要求を受け入れ続ける事しかできなくなっていた。そして、相手はそんな大学生を長く搾り取ることを目的として動いていた。

今思えば、最初から仕組まれていたんだ。社長は、馬鹿な大学生をカモにして夜の街で遊びまくる計画を立てていた。そして、僕はまんまと嵌められたんだ。

サラ金、むじんくん、返済に追われる日々

僕はサラ金で50万を借りることを渋々承諾した。翌日には社長と一緒に武富士に行く予定が組まれた。さすが社長は仕事が早い。考える暇を与えないという、極単純な理由だろう。

その日の夜は眠れなかった。翌日のことを考えたら怖くてしょうがなかったので、とにかく寝てしまいたかった。以前社長からもらった睡眠薬があった。それを飲むのも怖かったが、どうやっても落ち着かず、朝の4時ごろになって睡眠薬を飲んで、いつのまにか寝てしまい、起きたらもう約束の日だった。あっという間だ。

社長の運転で武富士の店舗の前に連れて行かれた、ここから先は僕一人だ。社長は当然立ち会えないので、車で待っている。とても緊張していたが、申し込みは無人契約機、怖い人とあうこともなく、武富士ではあっさり限度額50万が提示され、そのまま横のATMで50万を引き出した。

こんな大金見たことなかった。僕はこの大金が欲しくて車をぶつけたんだ。でも、このお金はサラ金から借りたお金で、利子をつけて返さなければならない。月々の返済額は約2万5千円だ。しかも、このお金はおっさんに貸すので僕の手元には残らない。残るのは月々の返済計画だけだった。なんでこんなことになったのか、当時の僕はまったくわかっていなかったし、わかったところでどうにもならない。とにかく毎月2万5千円を返済しなくてはならないのだ。

そのまま車で待っていた社長に50万を手渡しで渡した。社長は手慣れた手つきで札を数えて金額を確認して、自分のバックにお金をしまった。おっさんに貸すお金だが、結局は社長がおっさんに貸したお金を僕が建て替えた形になっていた。僕もおっさんも文句を言えない、おっさんも僕と同じように、社長の言いなりだったからだ。

さらに、ほぼ日を開けずに、社長は僕からお金を出させようと色々な理由を作り脅してきた。理由はもう覚えていない。ただ、おっさんの返済が遅れて誰々のメンツを潰したから接待してとりなした。その飲み代が30万かかった。お前の不手際が原因だからなんとか用立てろ。とか、そんな感じで僕の知らない世界の理屈で押し込んでくる。それに対して僕はなんの抵抗もできない。アコム、レイクとサラ金巡りをすることになり、引き出したお金はそのまま社長に手渡しで渡した。僕にはサラ金のカードとばかりが増えて、月の返済額が膨れ上がり、毎月8万円以上を返済していく事になっていた。

僕はサラ金からの借金を返済すべく、今まで以上にアルバイトに励むことになった。大学にはほとんどいかず、月間250時間以上アルバイトをこなして、20〜30万を稼ぐようになった。たくさん稼ぐようになったが、借金返済以外にも、社長との付き合いや、様々な理由をつけた金銭要求ですぐにお金はなくなった。少しでも枠の空いているサラ金から出金して、なんとかお金を作っていた。

幸いというか、僕は実家暮らしだったので、死ぬほど飢えることはなかったが、自分の自由になるお金はほとんどなかった。バイト中の食事はカップラーメン2個、タバコはわかば。外食なんて夢の又夢。ひたすらアルバイトをした。朝から晩までだ。その合間に、社長に呼び出されてはキャバクラやスナックにつきあう。

もう、この時点でキャバクラもスナックも全く楽しくない。その時間とお金があれば、生活がもっと楽になるのだ。僕にとってはただの足かせだが、社長に呼び出されたら断ることは出来ない。元々ギリギリの予定が、完全にお金が足りなくなる。またサラ金でお金を借りる。一切借金は減らない。

さらに社長からよくわからない理屈で大金を用意するように言われる。またサラ金にいって新たに借金を作る。貸してもらえなければクレジットカードのショッピング枠を現金化する。そうやってなんとかお金を作っていった。

いつのまにか、僕は立派な多重債務大学生になっていた。

もう限界だ。お金が用意できない。

そんな生活が約1年続いた。ひたすらアルバイトをして、ひたすら節約をし、ひたすらお金を借りて、ひたすら搾り取られた。抵抗することは出来なかった。僕には助けを求められる相手がいなかったのだ。なぜなら、人に言えない不法行為を働いたからだ。

なぜこんな状況になったのか、僕はその原因を説明するには、僕が犯罪を犯したことを告白しなければならない。それは出来なかった。

だから、僕は助けを求める事ができなかった。ひたすらに耐え、できる範囲で対処していくしかなかった。寝る間を惜しんでアルバイトをしていた。朝は3時のクロネコヤマト、6時からコンビニの早朝バイト、10時からガソリンスタンド、夜9時からファミレス。他にもいろいろバイトをした。

ただ、そんな生活ですら続かない。収入よりも出費の方が多いのだ。さらに、長時間労働による不具合が、いろいろなところで出費を増やしていく。

返済日のすっぽかしによる延滞利息や振込手数料、不注意による紛失やバイトでのミス、居眠り運転での事故。その度に不要な出費が増える。どんどん借金は膨らむ。

大学生が借りられる限界まで借金は膨らみ、借金はサラ金、クレジットカード合わせて400万円を超えていた。もうどこに申し込んでも貸してもらえない。今思えば、アルバイト収入しかない大学生で、よくも400万も借金ができたものだ。今は総量規制があるから難しいだろうな。

当時は今よりもサラ金の金利は高く、年利は約30%だった。400万を借りると、利息だけで毎月10万円を払う必要があった。元本いれたら25万以上になる。こうなると、収入のすべてが借金の返済で、元本はほとんど減らない。これ以上アルバイトを増やすことも出来ない。ここに、僕の生活は完全に破綻した。

オタクの息子にお金を貸してます。サラ金からも借りてるみたいで、なんとかしてあげられませんか?

ここで、社長は僕をヤミ金に連れて行くような事はしなかった。そんなことをしても、たいしてお金が作れないとわかっているのだ。では、これで終わりか?いや、世の中も社長も、そんなに甘くはない。社長にはちゃんと次のプランがあった。

社長は、僕の親からお金を出させることにしたのだ。

これは本当にイヤだった。当時の僕は、親は関係ないと思っていたし、もし家から追い出されたら生活できない。でも、社長にはそんな事は関係ない。お金が必要で、関係者がお金を持っているなら、要求するだけだからだ。おまえが払えないなら、親や親戚に払わせる。当たり前なのだ。

社長は口が上手い。そして、行動力もある。アポ無しで私の家に乗り込み、父と話をし始める。事前に準備をされないように、突然押しかけるのだ。そして、ただ返済の肩代わりを迫るのではない、オタクの息子を心配している。借金で大変な状況にある。そんな息子さんのために父親が介入して、状況をリセットしてあげるべきだ。そんな設定で父親に話すのだ。

「悪いこと」のことは言わない。それは社長にとっても大っぴらにはできない悪事だからだ。でも、その部分を隠しても、社長は話が上手い。1時間ほどの話し合い、父親は僕のサラ金とクレジットカードの借金を全額返済する事を決めていた。社長の目論見通りだ。

次の日には、父親同伴でサラ金とATM巡りをしていた。400万もの大金を現生で用意した父と、いろいろおかしくなっている僕。でも、父は僕に対して怒ったり、詰問したりしなかった。「次はやるなよ」そんな感じだ。すごい父親だ。未だに勝てる気がしない。

しかし、当時の僕はというと、やっと返済から解放される。そんなことくらいしか考えてなかった。

全くもってまともじゃないんだが、「やっと解放される」これは、その時のリアルな気持ちだ。溺れている人間が、陸に上がって最初に思うのは、「息ができる!助かった!」だ。息が落ち着いて、冷静になって初めて、助けてくれた人への感謝や溺れた原因への反省が出てくる。それと同じだ。

やばい状況にある人の思考は、完全に自分本位で自分の事しか考えてない。それは、自分以外のことを考える余裕がないからだ。その時の僕は、完全にやばい状況だったし、実はこの後もやばい状況は変わらなかった。なぜなら、社長はそんな僕の状況はお見通しで、自分のことを考える余裕なんて与えず、すぐに次の手を打ってきたからだ。

再び始まるサラ金生活、そして再びの破綻

父の財政出動により、僕の借金はリセットされた。だが、社長からすると、弱味のある、抵抗できない獲物を手放す理由はひとつもない。僕の借金がリセットされてすぐに、社長はまた僕からお金を巻き上げ、僕は新しい借金ができていた。サラ金のATMでお金を引き出し、社長に手渡すイベントが復活したのだ。

しかも、今度はサラ金から借りられる上限金額が大幅に増えていた。1社あたりの上限額が50万が100万になったりしていた。僕は一度全額返済した優良顧客として、学生には過分な上限額設定をしていただいたようだ。サラ金の勤勉さには頭が下がる思いだが、本当にありがた迷惑だ。

なので、僕は借金をリセットしたのに、すぐに借金が増えいった。アルバイトの時間も増える、お金もないし精神的な余裕も一切ない。考える余裕もない。ちなみに、大学には1年以上まったく行ってない。とにかくアルバイトして収入を確保することで少しでも安心したかったのだ。

ひたすらアルバイトをしていた。1日4現場(バイト)とか当たり前にやっいた。仕事している時間はお金が増えるはずだから、安心できるのだ。「僕は頑張っいて、いつか状況は改善するはずだ。終わらない借金はないのだ。」と。

しかし、僕の借金は減らなかった。どんどん増えるのだ。でもそれは当たり前なのだ。毎月のように10万単位で社長に現金を手渡す突発イベントがあるのだから、計画通りに借金は減りようがない。この時の僕は、ただ雑巾のようにお金を搾り取られるだけの存在だった。そして、雑巾からは無限のお金は出てこないのだ。

あっという間、1年持たずに、僕の資金繰りは、また、破綻したのだ。

また父親に話して出させよう。ダメなら他にも手はある。

毎日寝る間もなくバイトをして、ひたすらに借金返済に向けて頑張ったが、とうとうサラ金からお金が借りられなくなり、また利息分すら返済できなくなった。

そして、社長から理由のよくわからない金銭要求にたいして(理由は覚えていないし、多分そのときも理解してなかっただろう)、僕にはもう、どうやってもお金が用意できなかった。

ギブアップするしかなかった。どんなことを言われるか、どんなことをやらされるのか、怖くて仕方なかったが、お金はどうやっても出てこない。

社長の家に行き、もうお金がどうしても用意できません。そう伝えた。だが、伝えたところで、そうか、わかった。帰っていいぞ、とはならないのが社長だ。社長はまだまだお金を求めていた。

また父親に話して出させよう。ダメなら他にも手はある。

そう言われた。冷徹で突き放したような言い方だった。

僕の初めての決断と行動

実はこれまで、社長は僕に対して暴力を振るったり、普段は責めたりすることはなく、僕が直接的な恐怖を感じないように接していた。スナックやキャバクラ、サウナや温泉など、買い物や格闘技観戦など、いろいろなところに連れ出しては、年の離れた友人のような付き合いをしてくるのだ。

あくまで、社長は僕に対して世話をしてやっているという立ち位置だったし、僕にお金を要求するのも、僕のために何かしらの行動を起すために必要な資金として要求してきた。

だから、2年以上、僕はいろんな疑問や恐怖を感じながらも、社長との関係を続けていたのだと思う。でも、この時初めて、僕の生活を完全に壊すことになんの躊躇もない、冷徹な声で言われた。と感じた。

僕はその時に、心からの理解したんだとおもう。「あ、やっぱり僕はただの獲物だったんだ。」と。

そして、僕は初めて「決断」した。社長と決別しなければならない。そのために、なりふり構うことはできない。どんな手段を取っても、社長と決別するんだ。社長の家で、社長の前で、僕は必死にこの後どうするか、どうやって切り抜けるかを考えはじめた。

何もできない大学生は、助けを求めた

社長は即日にも僕の父と話す気でいる。

僕は、父が家にいるかどうか確認して、時間とってもらうから先に家に帰る、時間取れたら連絡するのでそしたら家に来て欲しい。そう伝えて社長と分かれて家に向かった。まずは社長と離れなければと考えたのだ。

そのとき、社長は何ら警戒していなかった。僕を完全にコントロールできていると思っていたはずだし、抵抗するなんて考えてもいなかっただろう。

急いで家に帰った僕は、父に助けを求めた。悪事の事には触れずに、社長からお金を巻き上げられており、もうどうしようも無いのだと。どの面下げて、という気持ちはとても強かったが、もう他に手段がなかったのだ。

あの社長にずっと脅されていた、借金を肩代わりしてもらってから、またお金を脅し取られていた。でももう限界だ、今まで打ち明けられなかったけど、もう限界だ、助けて欲しい。

父は驚いてはいたが、僕を助けるため行動を起してくれた。すごい人だ。いまの僕ならそこまで出来るか分からない。そして、ここからはすべてがあっという間だった。停滞していた人生が突然動き出したように感じた。

まず、父から社長に電話し「これから警察に行く、詳細はこれから聞き出すが、もう関わらないでくれ」と伝えた。電話はもめていた。普段温和な父が大きな声で、きっぱりと決別の意思を伝えていた。

次に、最寄りの警察署に電話して、簡単に事情を話し、これから相談に行くと伝えた。父の運転で最寄りの警察署に駆け込み、事情を話した。奥に通され、刑事2名(いまでも覚えている。刑事2課だった。知能犯や暴力犯を担当する部署だ)に、これまでの経緯と、社長や関係者について話して、今後どうしたら良いかを相談した。

僕はこの時も、悪事については父にも、警察にも話さなかった。隠したのだ。意図して言わなかった。

この時、僕はこう考えていた。悪事について公になれば社長や関係者一同大いに困ることになる。それは社長も避けたいはずだ。他にも余罪が出てくるだろうし、そうなると大学生の僕よりも社長の方がダメージが大きいだろう。だから、僕が言わなければ、社長も言わずに済ますだろう。大丈夫だ。

この判断は、結果的には成功した。悪事については、最後まで明るみに出ることはなく、父にも、警察にも、この後頼ることになる弁護士にも、話すことはなかったし、今でも話していない。僕の大きな隠し事になっている。

警察から弁護士へ、そして訴訟へ

警察は基本的に民事不介入だ。今回の社長と僕との間の諸々は、刑事事件にはならなかった。なぜなら、暴力や監禁など、一発アウトな行動は一切無く、要求は不当かもしれないが、お互いに合意の上でお金を受け渡ししていたからだ。

刑事さんからは、社長がなにかしらの脅しや直接的な攻撃に出てきたらすぐに110番通報してほしいというだけだった。民事不介入だからだ。そして民事に介入する人を教えてもらった。そう、弁護士だ。

僕の父はただのサラリーマンであり、訴訟だ裁判だなどという世界には縁遠い人だ。だから弁護士の知り合いやツテは一切なかった。そんな人にも弁護士に相談できるように、無料相談や法テラスというものがある。(当時は法テラスはなかったと思うけど)

僕と父は、警察署に行ったその足で無料相談をやっている弁護士に相談しにいった。

日本の法律と社会システムはすごい

僕はとにかく怖かった。今にも社長が怒鳴り込んで来るんじゃないか、力尽くで報復に来るんじゃないか?父も怖かったと思う。少しでも安全に過ごすために、出来る手を打つことにしたのだ。

弁護士は結構年のいった白髪の男性だった。個人事務所の先生で、落ち着いた対応をしてくださり、とても安心できたのを覚えている。当時でも良いお年だったので、いまは廃業されているだろう。

僕からは今までの事情や現在の借金の状況を話した。悪事の部分は言わずに、2年間の社長との付き合い、お金のやりとり、警察に相談するきっかけ、そのほかの人間関係、いまのサラ金とクレジットカードの借入状況。

その結果、弁護士からは次のようなアドバイスを頂いた。

「暴行や監禁などの事実がないので、刑事事件にはならないでしょう。なので、民事事件として訴訟を起しましょう。相手は自らの要求したお金の正当性が証明できないのは理解しているはずなので、出てこない(争ってこない)でしょう。欠席裁判で訴訟には勝てるでしょう。 ただし、勝ったところでお金は回収できないでしょう。この手の輩は色々と心得ているので、訴訟になる場合にはお金を隠してしまうし、おそらく個人ではお金を持っていないでしょう。なので、口座を差し押さえたり、給与を差し押さえても労力の無駄になることが多いです。それでも、こちらが本気で抵抗することを示すためにも訴訟を起しましょう。」

異論はなかった。父と僕は、この弁護士先生に社長との対応の一切をお願いした。この弁護士費用も父が負担してくれた。本当に頭が上がらない。馬鹿な息子のために大金を負担した上に、弁護士費用まで負担させているのだ。

また、サラ金とクレジットカードからの借金についても、弁護士先生に相談した。先生は自己破産でもいいし、任意整理でもいい。いろいろな対応を提案してくれたが、僕は自己破産することを選んだ。とにかく解放されたいという気持ちが半分、もう借金はしたくないから、出来ないようにしてほしいという気持ちが半分だ。

また、できれば僕は自宅以外のどこかに逃げた方が良いとも言われた。直接なにかしらの攻撃をしてくることは無いと思うが、ばったりあったりしたらどうなるかわからないから、こちらからの訴状が社長に届くまでは、親戚などの家にいけるならそうした方が良い。アドバイスに従い、僕は2週間ほど、隣の県にいる親戚の家に行くことになった。

先生は、僕の代理人になったことを、まずは電話で社長に伝えてくれた。こちらが法的な手段を検討してしていることを伝えることで、社長を牽制してくれたのだ。

ここに、今後の方針がすべて決まった。

僕は疎開した。

乗客が落ち着くまで、僕は隣の県にいる親戚の家で2週間ほど生活することになった。その間、当然にアルバイトに行くことはできない。アルバイト先すべてに連絡し、即日辞めることを伝えた。どのバイト先にも迷惑をかけてしまうが、バイト先はすべて社長に知られておりが押しかけてくるかわからない。辞めるほかなかった。

父の運転で隣りの県にある親戚の家に向かう。

親戚のおじさんおばさんは優しかった。馬鹿だなあなんて笑いながら受け入れてくれ、こんなボクを受け入れてくれた。

親戚の家で過ごす間、おじさんもおばさんもとても良くしてくれたが、僕は何もすることがなかった。めちゃくちゃ暇だった。お金も無ければ移動手段もないので、読書か散歩くらいしか出来る事が無い。でも、こんなにゆっくりと過ごすのは本当に久しぶりだった。2年間アルバイトで働きづめだったし、社長からの電話やメールに翻弄され続けてきた。常に睡眠不足だったし、借金に追われて心は休まらず、自分のために使うお金は全くなかった。

疎開していた2週間、ボクは車もお金もないので、どこにも行けなかったし、なにも出来なかったけど、時間をかけて自分の状況や今までの生活を振り返ることが出来た。自分の馬鹿さ加減、家族や親戚の優しさ、社会の怖さ、犯罪行為の恐ろしさ。これからの人生。色々考えた。良い時間だったと思う。

でも、じつはこの時の反省はその後に人生に即効で効いたわけではなかった。馬鹿は変わらず馬鹿で、喉元過ぎればなんとやらで、そう簡単に人間は変わらないのだ。次の機会に書き出したいが、僕は後日社会に出てからも、状況に流されるまま何ら手を打たず、苦境に立つことになる。これはまた別の話。

社長との訴訟の結末

訴訟はスムースだった。弁護士先生の予想通り、社長は争ってこなかった。弁護士先生は、社長に対して、僕から不当に交付させた金1000万円の返金を求める訴訟を起こし、欠席裁判で僕側の訴えは全面的に認められた。社長側からの控訴もなかったので、僕側の勝訴判決が確定した。

弁護士先生は、社長側からお金を回収するかどうかを確認してきた。ただ、おそらく回収はできないだろうという当初の見立てと、もう終わりにしたい、これ以上争って社長からの嫌がらせや反撃があった場合に、対処できるかわからない。なので、社長に対しては返還を求める書面の送付のみで、差押などの手段は取らないことにした。社長は当然書面を無視、一切の連絡もなく、事件は終わった。

また、僕の自己破産手続きも何の問題もなく終わった。2年間返済に苦しんできた借金は、あっさり免責され無くなってしまった。

これにて、僕の泥沼生活は終わったのだった。

泥沼生活から開放された後の事

僕は今までとは心を入れ替え、ちゃんと大学に行き、卒業を目指して単位の取得に邁進した。アルバイトもほどほどに、生活に余裕を持たせながら、よくいる大学生の生活に戻ったのだ。

ただ、しばらくは社長の存在に怯えながらの生活だった。セルシオ(社長の乗っていた車だ)とすれ違うと心拍数がおかしくなるし、携帯がなると緊張した。2年間、社長くらいしか電話してこない生活だったからだから、電話は悪い知らせを僕に届ける怖い奴だと深層意識に刷り込まれている。20年たった今でも電話は嫌いだ。

そんな中で、新しいアルバイト先のコンビニで、偶然社長と会ってしまうことが一度だけあった。その時何を言われて、どう返したのか、よく覚えていない。ニヤニヤしながら、元気にしてたのか?みたいなことを言われて、なんとか言葉を返したはずだ。トラブルにはならなかったが、また来るかもしれないと思ったら、怖くて仕方がなかったので、そのコンビニもすぐにやめてしまった。裁判に勝訴して、そう簡単には手出しされないとは思っていたが、それでも突然鉄パイプで殴られるとか、無い話ではないのだ。危うきには近寄らざる方が良いのだ。

その後、コンビニでの遭遇以降、20年経った今日まで、彼とは一度も遭遇していない。本当に、僕の知らないところで勝手に死んでいて欲しいと思っている。このノートを書くにあたって、久しぶりに社長の名前といくつかのキーワードで検索をかけてみたが、一つもヒットなかったから本当に死んでいるかもしれない。生きていたとしても、もう僕には関わらないで欲しい。

これが、僕が体験した2年間の泥沼の思い出だ。

社長に対しての思い

何度も言うが、本当に死んでいて欲しい。この世から居なくなっていて欲しい。怖くてしょうがないからだ。

ただ、ここ最近はこの思いは単純な恐怖からではないのだと考えている。

社長は僕に対して、最後まで暴力を振るったり、単純に脅したことは一度もなかった。もしかしたら、僕が勝手に恐怖し、社長の好意や義理人情を踏みにじって逃げ出したと言うのが事実なのではないか?僕はそんな考えを完全に否定しきれていないのだ。

その後出会った、就職先の社長、今世話になっている社長、二人とも、僕が決別した社長と同じような印象なんだ。もしかしたら、社長3人が飲み屋で会ったら、仲のいい友達になっちゃうんじゃないか、僕は自分が大きな不義理をして逃げ出しただけなんじゃないか、そんな思いが今でも100%否定できていない。

頭ではわかっている。大学生に対して1000万近い金銭を使わせる大人はまともな大人ではない。悪事で得たお金で毎晩のようにキャバクラで豪遊してるなんて、ただの半グレであり、反社会勢力と変わらない。

でも、僕には、社長が僕のことを思って好意でいろいろ動いてくれたかもしれない、その可能性を否定しきれないのだ。頭では分かっているのに、これには本当に困っしまう。

僕は未だにこの件を消化しきれていないのだ。

これを読んでくれたみなさんへ

僕はなんとか生きてますし、実は今まぁまぁ幸せです。お金はあんまりないし、家族も健康ではないけど、ちゃんとご飯を食べて、ちゃんと仕事をして、家族との関係も良好です。幸せだと思います。

悪事を働いたヤツが何をのうのうと生きて、どの口で幸せだと言うのだ。そう言われると思います。僕の悪事は裁かれることもなく、人知れず闇に消えました。僕は、たぶんこのまま死ぬまで、この悪事を精算することはないでしょう。

では、なぜノートにして公開したのか。僕は過去の記憶がどんどん薄れてきている、あの時の恐怖や絶望感を忘れて、また同じ過ちをおかすかもしれない。それがとても怖い。誰も見ないかもしれないけど、僕にとって、この悪事が闇に消え、一つの区切りとして書き出しました。

もし、これが元でトラブルに巻き込まれたら笑えないけどね。書き上げてから、しばらく下書きに入れているし、もしかしたら公開ボタンはいつまでも押さないかもしれない。今後も追記や修正をしながら、今後の人生を踏み外さないための錨として残すつもりです。

終わり!

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