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ミシュラン


「ミシュランガイド」という本をご存知だろうか。

世界的に有名な、レストラン・ホテルのガイドブックである。


もともとは、Michelinというフランスに本社を置くタイヤメーカーが、旅行者を増やしひいては自社のタイヤの売り上げを伸ばすために地域の観光名所などをピックアップした小冊子を作り始めたのを起源とする。
これが受けて、フランスをはじめ世界各国で星の数でレストランやホテルを評価するようになったとされる。


日常生活で、ミシュランを見て訪れるお店を決める人はあまりいないだろうが、「ミシュラン掲載店」「3年連続三つ星獲得!」の謳い文句は見たことがある人も多いはずである。


そしてミシュランに選ばれたと聞くと、

世界的なグルメ評価機関にみごと選ばれたのか!すごい!いつか行ってみてぇ…

という感想を抱く人は私だけではないと信じている。


それほどにミシュランは日本国内でも比較的高い知名度を得ていると思うのだが、ここにふと疑問が生じた。


誰がどうやって選んでんの…?


世界中の料理店の中から、格別にうまい店を厳選し、星の数をつけて評価する。考えてみれば、死ぬほど膨大な作業であろう。そんな事ができるのか?それもタイヤメーカーに。


そこで、ミシュランガイド作成時の調査形態について調べてみた。
すると、基本的には調査の方法は非公開であり、評価基準も不透明なのだが、2015年6月の「朝日新聞GLOBE」というサイトの記事に、ミシュラン調査員の一人へのインタビュー記事が掲載されていた。

この記事によると、
・まず(多くは前年版に載っていた)評価対象のホテルに泊まる
・泊まりながら、そこから行ける範囲の評価対象レストランを昼/夜と覆面調査する
・食べた後は必ず報告書を書き会社に提出
・評価対象以外にも、読者から推薦されたレストランを抜き打ち訪問して、シェフの出自や店構え、仕入れルートを聞き込みして、良さそうであれば他の調査員に調査を依頼

といった形である。
美味いものが食べられて死ぬほどハッピーな生活かと思っていたが、想像してみると毎日これはちょっとキツいかもしれない。


また当然、評価する立場として、食に対する底知れない知識を持っている事は前提であるようだ。
調査員になる条件はとても厳しい。ホテルスクールを卒業し、レストランやホテル業界に長く関わり、その道に精通している事が必須である。
そして何より強靭な胃袋を持っている事が重要らしい。連日のコース料理堪能は、常人では成し遂げられないらしい。
現に、調査員は世界に90人(うち日本人は7人)と非常に少ない。


なるほど、やはり厳正に調査しているんだな…と思っていると、ミシュランのwikipediaには、「ミシュランガイド東京」の項目に面白い事が書いてあった。

東京版について、
「平凡な店に星が与えられている」
「星の大盤振る舞いは、マーケティング上の配慮に過ぎないのでは」
「根本的に文化も違うのに日本料理が本当に分かるのか」
「格付けをする事で料理人の間に上下関係を作ってしまうのではないか」等の批判もある。

一部の料理評論家や雑誌記事を始め、東京都知事・石原慎太郎も、読後にミシュランガイドを酷評した。
3つ星を獲得した店が、Yahoo!グルメの評価では、5点満点中、平均3.09点だった例も指摘されている。
フランス人調査員の中には、モズク等、日本料理に使用される食材に嫌悪感を示す者がおり、店側が気を遣い、通常のメニューとは異なる食材で、料理を提供した例もあったという。

日本では、フランス人の来店客は目立つ事に加え、
・席に着いた直後に皿を裏返してしげしげと眺める
・二名で来店し、一人がアラカルト、一人がコースで料理を注文する
・コースの内、数皿だけ省略するよう要望する
・電子辞書で食材を調べる
・メモを取る
といった特異な行動を取る事で、ミシュランガイドの調査員である事が、店側に見破られる事もあったという。


…これはいかがなものだろうか。
確かに、詮索の多いフランス人が急に来店したら、店側も容易に察するに違いない。普段と違うもの、フランス人の味覚に合いやすいものを出す店もあるだろう。そうなると評価が成立しなくなってくると言える。
(ただ、この部分のソースはかの『週刊文春』2007年11月号なので、少々尾ひれが付いている可能性はある)


また、明らかにミシュラン調査員だと思われるフランス人に遭遇した人による個人ブログ記事もあった。面白い。

日本人女性にフランス人男性のカップルであります。
<中略>
席に座るなり男性が店内をキョロキョロ見回して私はすぐにピンときたのです。彼らはすぐにミネラルウォーターを頼みました。そして、ビールもシャンパーニュも頼まないのに、ワインリストを二人でじっくり眺めているんですね。不思議というかまったく不自然。最終的にはグラスの赤ワインを1杯だけ頼んだだけでした。


まぁ、そんなわけでミシュランの調査員は確かな舌を持ってはいるが、ミシュランガイドの評価の仕方は、適切だとは言えない部分もある。
またやはりミシュランの本業はタイヤメーカーであるため、営業戦略の一部となっている可能性は当然あるだろう。


ミシュランガイドには賛否両論あるとはいえ、日本に星の数ほどある店から名店を選ぶ一つの基準としては確固たる地位がある。
皆さんもぜひ使ってみて欲しい。


※別にミシュランを批判したい記事ではありません。

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