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「デフサッカー日本代表 林滉大さん」インタビュー記事

インタビュー記事第六弾です!今回はデフサッカー日本代表であり、現在ドイツ7部のチームでプレーをしている林滉大さんにお話を伺いました。先日フジテレビの『ワイドナショー』という番組でデフフットサルについて特集され、ご覧になった方もいると思います。デフとは英語の「deaf=耳の不自由な」を意味し、また耳の不自由な人のことを「ろう者、ろうあ者」とも呼ぶことがあります。

・僕の質問

「」林さんの解答

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【サッカーについて】

・ドイツでプレーする一人の選手として、ドイツサッカーやそれを取り巻く環境をどう思うか?

「ドイツの魅力は1部から下部リーグまでカテゴリーが多く、クラブ数も多い。どのチームも自前のクラブハウスとグランドを所有していて、老若男女問わずサッカーに対する熱量がすごい。大勢の観客の前でプレーするのは選手として興奮する。

また、年間の試合数が多い。常に上のリーグからスカウティングがあるため、結果を残せば残すほど上にいけるチャンスがある。日本でプロになれなかった人や無名からプロになる人にとっては魅力的な環境だと思います」 

・自身がチームでプレーをするうえで特に難しい点や想像していたのとは違う点は?

「デフリンピック(聴覚障害者のみのオリンピックで4年に1度開催)でプレーした経験のおかげで日本とドイツのサッカー文化の違いを理解するまで時間はかからなかった。 日本は組織的な戦術を取り上げるチームが多く、連携面で難しいことが多かった。ドイツの場合は組織より局面で生まれる1対1に対して各々が責任を持ってプレーするため、個人的に日本よりドイツの方がプレーしやすい」

・ほかの国ではなくドイツを選んだ理由は?

「今後のデフサッカー国際大会に向けて、対人経験を積み重ねる必要があり、ヨーロッパの中で最も様々な人種が集まり、年間を通して試合数が多いドイツを選択した」

・ドイツには50ほどのデフサッカーチームがあり、ドイツサッカーを体感するという目的ならばそちらを選ぶこともできたと思うが、そうしなかった理由は?より困難な方を選んだのはなぜか。健聴者とプレーする意義とは? 

「ドイツも日本もそうですが同じ協会の管轄下ではない限りデフと健聴者のチームの掛け持ちが可能です。(デフスポーツはろうあ連盟管轄下)
日本もドイツも代表クラスは掛け持ちでプレーしている選手が殆どです。
僕も掛け持ちでプレーする予定でしたが、住んでいる地域にデフチームがなかったので健聴者のチームのみです。

幼少期から健聴者と一緒にプレーしてきたので個人的な意義は特にないが、デフ選手とプレーすることで健聴者にデフサッカーやデフリンピックを知ってもらえるという意味での意義はあると思う」

・練習や試合中のコミュニケーションで特に意識していることは?

健常者よりも3〜5倍くらい周りを見ること。周りを見るたびにピッチ上22人の位置を記憶して頭の中でシュミレーションしながらプレーしている。個人的にそれが聴覚障害のハンデを完全にではないがカバーできる方法だと思っている。そうしないとハイレベルな中でプレーは厳しい」

・チームメイトは自分のことをどのように理解してくれていると思うか?

「トライアルの時に自分ができないことと出来ることをドイツ語で書かれた自己紹介パンフレットで明確に伝えたので、出来ないことはチーム全体がカバーしてくれ、僕がチームにない技術(打開力・スピード)を発揮してチームに貢献するという良好な関係性です」

・現時点で通用している部分とこれからに更に改善していきたい点は?

「1対1は絶対に負けない自信があります。またボールを持ったら殆どチャンスに繋げられることが持ち味だと思います。しかしフィニッシュ面で課題を感じます」

・林さんにとってサッカーとはどういうものか?

「これまでの人生でサッカーがなかった時間はないので人生そのものかなと思います。引退後もサッカーに関わりたいと思っています」

・今後の目標やビジョンは?
「①まずはチームの6部昇格(現在7部首位) 。

②国際大会で上位へ食い込むためにドイツでの経験を日本代表に落とし込む。

③デフ選手が海外挑戦しやすくなる実績を残す」

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【ドイツでの生活について】

・日常生活を送るうえでまだまだ大変なことは?

「特にこれっていうものがありません、、笑 」

・逆に林さんにとって日本より生活しやすいと感じる面や日本がドイツを参考とするべき点は?(周囲の理解度の差、整備された環境、人間性や雰囲気など)

「日本より生活しやすい面で、ドイツは日本と比べて食材の物価が安くジムの設備も充実していて月会費が圧倒的に安い。ドイツでプレーしながら体作りしたい人にとってはありがたい。

サッカーにおいて障害に対する理解は、、
日本は聴覚障害があるだけで偏見や差別意識を持たれることが度々あり、実力や結果を示しても障害者というフィルターやレッテルを貼られて苦しんだ。それを覆すような圧倒的な実力がなかった自分も問題がありますが、、。笑

それがドイツでは全くなかった。
サッカー面で障害があっても実力があればすぐに認めてもらえたのでやりやすかった」

・こちらでの生活を通して良くも悪くも日本の見え方は変わったか?

「日本は良くも悪くも物事に対して偏見を持ちすぎるんじゃないかと思った。僕も含めて自分の独断で物事を勝手に決めがちだと思った。ドイツで関わった人はありのままの自分を受け入れてくれたので僕もそう意識するようになった」

・ドイツ語の勉強の仕方、日常的にどのようにしてドイツ語を使うか? 

「健聴者の場合は会話や映画などでドイツ語を覚えるみたいですが、僕はそれが出来ないのでドイツ語のアプリやテキストなど可視化された物でしか勉強できません。よく使いそうな単語や気になる単語を覚えて、それをすぐに実用したりしています。チーム内ではカタコトのドイツ語でしか喋っていません。伝わらない時はiPhoneのメモ機能やGoogle翻訳で伝えています」

・ドイツに来てから感じる自分の成長は何か?

「①食事面で気を使うようになった。(油っぽいものやお菓子は絶対に口にしない) 

②サッカー以外の時間の使い方。(ジムに週4で通ったり、気になる単語のドイツ語を調べたり)

③フィジカル面でドイツ人と遜色なくやり合えるようになった 。

④良い意味でプレーに強引さが備わった。

⑤生活面やサッカー面でのメンタルが強くなった。(すぐ気持ちを切り替えられる)」

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【デフサッカーについて】

・サッカーとデフサッカーとでは多少ルールや周囲の競技者が違うが、どちらの競技もやる身として難しい点や逆に違うからこそ活かせる点はあるか?

「声が聞こえない為、目だけが頼り。攻撃面ではアイコンタクトが物凄く重要。 守備面では、チームで約束事を決めた上で守備をするようにしている、しかしDFラインがバラバラになることが多く、最終的に各々の1対1の強さやカバーの速さが求められる。

デフサッカー日本代表の僕はFWとしてプレーしています。 前述した通りにDFラインが綺麗に揃うことはあまりないため、正直に言って裏抜けがしやすいです。笑僕は足の速さを活かしてDFラインの背後を狙うようにしています」

・ドイツと日本におけるデフサッカー自体への理解や認識のされ方をそれぞれどう感じるか?

日本のデフチームは全国で9チームに対してドイツは約50チームが存在する。健聴者のレギオナルリーガのように5地域に分けて年間を通してリーグ戦を行い、各リーグの上位チームがトーナメント方式の全国大会に出場することができる。決勝進出の2チームがデフ版の欧州CLに出場する事が出来る。

ドイツはデフ選手が健聴者のチームでプレーすると地元の新聞にすぐ掲載されるので認識はあると思います。僕は半年で4回も新聞に載りました(笑)

・林さんにとってサッカーとデフサッカーの違いはどんな点か?

「笛の音が聞こえない為、副審だけではなく主審も笛の代わりとして旗を持つ。 それ以外は健聴者のサッカーと変わらないと思います」

・ある記事で「デフサッカー競技者は、一般的な人よりただ音が聞き取りにくいだけであってその違いは、人種や宗教、背が高い低いなどの違いと何ら変わりない」というような意見が書かれていた。確かにそのような認識の仕方はできるが、それはあくまでろうあ者がそう認識するだけのものであって、健聴者がそのように認識するのは少し違うようにも思うが、林さん自身デフサッカーをどのように捉えているか?

「そのまんまの意味になりますが、普段の生活から聴覚障害のハンデを感じているデフサッカー選手にとって唯一の平等な環境、もしくはハンデから解放されるのがデフサッカーなんだと思います」

・デフリンピックとパラリンピックが別々なことをどう思っているか?僕個人的には知名度という点において、パラと一緒である方が良い影響があると思う。

「正直に言って僕は別々で構わないと思います。今はまだまだ知名度がない状況ですがいつかはオリパラ並みのスポーツ祭典に発展すると信じているので、デフはデフでデフリンピックの知名度を上げていった方が価値はあると思います」

・これから海外挑戦したいデフサッカープレーヤーに対して伝えたい、伝えられることはあるか

「海外挑戦するにあたって異国語が出来ないのはデフも健聴者も同じなのでスタートラインも同じです。最初のスタートが凄く大事なので伝えたいことは事前に文字化して準備した方がスムーズです。これはデフだけではなく健聴者も同じです。エージェントに任せきりにするのではなく自分が出来ることは積極的に自分から行動を起こすべきだと思います」

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インタビューは以上になります。僕なりにデフサッカーやろう者の生活について調べたうえで今回のインタビューへ臨みましたが、デフと健聴者のチームの掛け持ちができることや選手の視点から見た日独の違いなど、林さんから貴重なお話を伺うことができました。特に『ドイツで関わった人はありのままの自分を受け入れてくれた』という点は、僕も留学生として生活した1年間でとても感じました。彼らは国籍や性別、見かけなどによる偏見で他人を判断することはなく、1人の人として向き合ってくれます。相手へのリスペクトが根底にあることを感じますし、お互いにそのような関係だからこそありのままの自分でいることを誇りに思っているように見えました。

この記事が誰かの何かのきっかけになれば嬉しいです。

一般社団法人日本ろう者サッカー協会HPはこちら

林さんのTwitterアカウント:@hys1996k

今回も読んでいたきありがとうございました!また他にもドイツで出会った方々への記事を挙げているので是非読んでいただければと思います。

そして本日4月7日(火)、緊急事態宣言が発令されましたが、できる限り多くの人が不急不要の外出を避け、より一層の危機感と緊張感をもって生活しましょう!





少しでもより良いものを作っていきたいので、「スキ」や「コメント」もお待ちしています。