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ぴあ創業50周年イベントに行きました

親族にぴあ株式会社の株を持っている人がいるので、その誘いを受けてぴあ創業50周年イベントを見てきました。第一部は会社の歴史を振り返るもの、そして第二部は布袋寅泰によるライブという構成でした。わたしのスタンスは「まあ誘われたし時間あるから行ってみようかな、布袋のライブはそうそう見られないからね」程度だったのですが、これが思った以上によかったので本稿で書いてみます。

ぴあといえば「チケットをご用意できませんでした」と言ってくる不届きなところというイメージが強いですが、元はと言えばライブや演劇、映画などの開催情報をひたすらまとめる雑誌が起源だったと言います。今も代表取締役をやっている社長が学生のときに立ち上げた雑誌がやがて企業体となり、今の形になりました。今だとまあ学生も起業するよね、と思いますが、50年前にこれをやっているのはなかなかすごいことと思います。

イベントでは冒頭でぴあの歴史をまとめたVTRを流したあと、社長がスピーチをしました。このスピーチがなんとも良くて、大きく心を揺さぶられました。思ったことが二つありました。

一つは、「感謝ってすげえな」ということです。社長のスピーチから伝わってきたのは周囲への強い感謝の念でした。ぴあの社史を見ると、絶妙なタイミングで人からの助けがありました。そのため、「その人たちの手助けがなければ今の会社はなかった」という意識が強くあるようでした。社長が繰り返し「ぴあは授かりものである」と言っていましたが、Webで見つけた10年前くらいのインタビューでも同じことを言っていて、本当に信念としてそれを持ち続けているんだなと思いました。社長のスピーチというと、自慢話に終始しそうだと思ったのですが、わたしの覚えている限り、自慢話は1秒もなかったと思いました。実際は社長の手腕がなければここまで会社が大きくなることはなかったでしょうから、本来は自慢すべきことがたくさんあったのではないかと思います。でも、ほとんど自慢はしませんでした。来賓で呼ばれていた秋元康のスピーチの方が自慢話多かったです。
これは推測ですが、社長が、ぴあが、ここまでいろんな人の助けを得ることができたのは、感謝が土壌にあるからではないかと思います。なんでも自分の手柄にしようとする人がいますが、そういう人に対して助けてあげようと思う人は、強い利害関係を持つ人だけと思います。こういう人だからこそ、利害関係を度外視した形であっても、助けてあげようと思われたのではないかと思うのです。この世界には助け甲斐のない人というのがいますが、ぴあの社長はそれとは真反対の人、助け甲斐にあふれている人だったんじゃないかなと思います。
また、このイベントは無料で、社員や株主(抽選)たちを招待して行われているものですが、それ自体が壮大なる感謝の表れと思います。スピーチの中でも個人株主への感謝の念がありました。(ぴあの個人株主比率は高いのです)株主に対してこんなに感謝する人がいるとは、と驚きを禁じえません。株主総会のお土産や株主優待なんて企業価値を高めるための儀礼でしかないと思っていたのですが、ぴあの場合おそらくそれだけではないのだな、と思えてきました。たかだか10分程度話を聞いただけですから、本当は全然的外れなのかもしれません。本当はもっと極悪非道で無能な社長なのかもしれませんが、仮にそうだったとしても、この社長を信じたいなと思いました。それだけ人的魅力がある人だな、と思いました。

社長のスピーチを聞いて感じたことのもう一つは「企業理念の力って偉大だね」ということです。「企業理念」だとか「熱意」だとか、あとは最近流行りの「パーパス経営」だとか、そんな話はちらほらと聞いていて「あーはいはい」くらいだったのですが、ぴあの話を聞いているとなかなかそうでもないのかもしれない、と思いました。
ぴあのやっている事業の中に「ぴあフィルムフェスティバル」というものがあります。これは金になるからというよりは、今後出てくる新人アーティストを応援したいという気持ちの表れでやっている事業です。象徴的な話として株式上場をめぐるエピソードが紹介されていました。ぴあは一度証券会社から株式上場を勧められたときに、証券会社の担当者に「上場したらぴあフィルムフェスティバルみたいな金にならない事業はやめた方がいいか?」と聞いたそうです。そのとき当時の担当者は「もちろんです。経営を最適化するために不採算事業はどんどん切っていくべきです」と言ったといいます。社長はその話を聞いて上場を断念したそうです。その数年後、同じ証券会社からまた上場の話を持ちかけられて、「上場したらぴあフィルムフェスティバルみたいな金にならない事業はやめた方がいいか?」と聞いたところ、「とんでもない、そういう事業こそが大事でしょう」と答えられたそうです。それでぴあは上場を決めたというのです。結果的に多くの個人株主の支持を得られて、今もそれなりの株価を維持できています。池井戸潤の作品か?って感じのアツいエピソードですよね。特に理念のない経営者であれば、おそらく最初の時点で上場しちゃってたのではないかという気がします。もちろん、ぴあフィルムフェスティバルが兆単位の赤字を垂れ流してしまって会社が潰れてしまっては元も子もないので、結果論の要素はあるとも思います。しかし、それだけぴあフィルムフェスティバルを重視しているんですよ、ということを表明することには大きな意味があります。それによって得られるブランドイメージや信頼といったものが、今のぴあを支えていると思います。この価値は抽象的で非科学的で、金銭で測れるものではありませんが、それゆえにこそ重要なのだ、ということが、ぴあの姿勢を見ていてなんだかわかったような気がしました。また、おそらくそれが、前項の「助け甲斐」の話にもつながってくるのだと思います。理念がしっかりしているからこそ、それに共鳴して、助けてあげようと思ってもらえる人が出てくるということです。

社長もそろそろ代替わりをしそうな年齢ですので、こうした企業の姿勢がいつまで続けられるかは次世代以降の社長にかかっていると思います。それを続けるためにはやはり「理念」をどう受け継いでいくか、それにかかっているんだろうなと思います。時代は変わっていくので創業の理念をいつまでも引き継ぐわけにはいかないのだろうとも思いますが、精神性みたいなものはこの代で終わっては勿体無いなと思いました。今後ぴあの活動をどこまで追えるかはわからないですが、今後も見ていきたいと思います。

さて、最後に布袋寅泰のステージですがこれははちゃめちゃに良かったです。彼のギタースキルは替が効かない存在です。理念とか継承とかそういう話じゃないです。多くの人に勝手に影響を与えて次世代のギタリストを産むことはありますが、それとこの技術の素晴らしさはまた別の話です。ああ、またいつかどこかで生で聴けるといいのですが……

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