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春の訪れと湯たんぽの終わり

3/28


失ったものばかりを大切にして、今を悲しんでいる。何故だか寂しい、なんて言えてしまえば簡単だ。

キャリーケースを抱えて帰り道を歩く。この中に必要なものが全て入っている。このままどこかに行ってしまおうか、それも簡単すぎる。
あんなに処分したのに、私の部屋は物が多い。それも嫌になる。捨てても捨てても身軽になれない。どこに行っても苦しいのかと思うと、どこにも行けなくなってしまう。

これだけあれば幸せだと言えるものがない。何も要らない。1日の大半は失ったもののことを考えている。目線が安定せず、うわの空でいる。何も手につかないのでまたぼんやりと考えている。
戻ってくるなら何だってする。でも何をしても戻ってこない。
せめて楽しく暮らそうとする。

3/29


昨日と今日は最近の私では考えられないほど動けなかった。
仕事に行けば楽しく、やる気が出た。喜んでもらえる写真が撮れたと思う。でも家に帰るとだめだった。
今日中に作業を終わらせて明日の朝はゆっくり過ごそう、と躍起になり、パソコンの前に座り続けた。予定を詰め込みすぎたと反省した。

3/30


それでも昨日の夜、頑張って作業をして良かった。朝起きて夜眠ることができれば百点満点だと思いたい。

離婚と引っ越しをしたので住所変更などの手続きをする。前の住所と現在の住所、前の名字と現在の名字、それぞれ5回ずつは書いたと思う。

女の子たちから賑やかな連絡が届く。
通知が来るたびにスマホの画面がぱっと明るくなる。真っ暗な部屋の中で、夜標のようだった。

3/31
遠くから来てくれたお嬢さんを撮る。嬉しくてたくさん撮った。
初対面の人間の前で服を脱ぎ、写真を撮ってもらおう、と決めることが出来るなんて、なんて勇気だろう。信頼してもらえて光栄だった。

4/1
風に吹かれて散る桜を見た。ぼんやりしていたら春が来て、春が終わってしまおうとしている。この調子だと4月中旬には初夏の陽気になっているに違いない。
春にし忘れたことはないかと思い出そうとする。約束したけれど果たせなかったことがたくさんあった。夏のお楽しみになればいいな。

4/2


女の子たちと女子会をする。
お花見BBQだと言い張っていたが、桜の木は遠くにあった。見えると言えば見える、見えないと言えば見えない、といった距離であった。
みんなが楽しそうで良かった、何より私が一番楽しんだ。




帰り道、寂しくなるかと身構えたが、今日は平気だった。帰ったら夕立のような激しい雨が降る。濡れた街のにおいがして、つらくなって窓を閉めた。

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