夫婦別姓と一緒に考えたい家制度のこと

夫婦別姓の議論について思うところ

 今年の6月に最高裁にて、夫婦別姓制度についての判決が出され、現行制度が合憲であるという判決が出ました。
 この判決が出て、私は残念に思う一方で、若干安心した気持ちにもなったのです。

 現在の裁判で争われている論点は、会社の社長であったり、海外で婚姻した夫婦であったり、確かに不都合ではあるけれども、若干遠い話をしているような気持ちにさせられる内容でした。

 私は夫婦別姓の問題はもっと身近に不都合があるように思っていて、裁判で違憲となり夫婦別姓が出来たとしても、“特効薬”にはなるのではと思う一方、根本的な解決につながらない危険もあると思っています。

 それでも結果的に変われば良い流れになるはず、そう思って応援していました。しかし、結果的に合憲判決が出たので、改めて私が思う問題点をこうして書き残そうと思います。

問題は家制度の名残

 タイトルにもある通り、私は「家制度の名残が残ったままであること」が問題だと思っています。
 極論、夫婦単姓自体は男女差別的な制度ではなく、「姓は女性が変えるもの」という世の中の通念があることで、男女差別的な機能を持つことになっているわけです。

裁判の中でも、以下のような言い方がされています。

本件各規定は,その文言上性別に基づく差別的な取扱いを定めているわけではないが,長年にわたり,夫婦になろうとする者の間の個々の協議の結果として,夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めており,現実に,多くの女性が,婚姻の際に氏を改めることによる不利益を受けている
このことは,国民の間に,夫婦の氏の選択について極端な偏りを生じさせる意識や考え方が広く存在することを明らかに示しており,夫婦となろうとする者双方の真に自由な選択の結果ということ自体にも疑問が生ずるところである。
令和2(ク)102  市町村長処分不服申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/412/090412_hanrei.pdf

 この点に対して、問題意識を持って、変えていきませんか?

 夫婦別姓は、確かにこうした家制度の意識に関する特効薬になるかもしれません。しかし、もとの家制度の意識が残ったままならば、「夫婦別姓は、“女性が”旧姓のままで公的な処遇を受けられる権利」と思われてしまいませんか?

 家制度が廃止されたのは昭和22年。すでにかなりの時が経っています。
 法律が家族の形を規定するわけではないですが、そもそも家制度が男女差別的な考え方である以上、変えていかないといけない問題だと思います。

正しい認識を広める

「家制度の名残に対して、問題意識を持って、変えていく」ということの具体的な第一歩としては、以下のような誤解に気がつく事かと思っています。

・結婚の際には片方の家の戸籍に入る、という誤解
 ⇒結婚の際には、夫婦の新しい戸籍が作られる。家の戸籍というものは存在しない。
 (嫁ぐ、○○家に入る、という言葉は家制度の名残)

・結婚した時には女性が姓を変える、という誤解
 ⇒新しい戸籍を作る際に、夫婦どちらかが“戸籍筆頭者”になる。
   筆頭者は夫婦のどちらでも良い。

・結婚して男性が姓を変えるのは「婿養子」、という誤解
 ⇒結婚するときには、夫か妻のいずれかの姓を選ぶことができるので、男性が姓を変えることも当然ありうる
 (すでに婿養子という制度は存在しない。家制度の名残)


例えば、漫画で女の子が「結婚したら、私、○○って名前に変わるんだ」のような描写は、誤解が常識のように語られている状態です。こういった描写にまずは違和感を持つ人を増やす。それが第一歩なのでは、と思っています。
(逃げるは恥だが役に立つの特別編のドラマで、婚姻届を出す際に姓を選択する場面があったりしますが、それ以外はあまり見覚えがないです)

ちなみに私はこの現状は行政の怠慢の一面もあると思っています。法務省の戸籍に関するページは、非常に簡素なものです。


最後に

 私は結婚して姓を変えた男性なのですが、そのことを周囲の人に伝えると、結構な割合で「婿養子になるってこと?」と聞き返されました。

 実家と揉めているという話をすると、「それは実家の方が正しい」、「そんな奥さんやめれば?」と言われることもありました。(これを相手は善意で言っている訳です)

 しかし、そういった考えの人ですら、最後には「夫婦別姓が出来ると良いのかもね」ということを言ってくれます。

 夫婦別姓の認知度は相当に高くなっています。以前に比べて実現はかなり現実的になったようにも思います。しかし、それだけでは、まだ身近にある、生々しくて、処理しがたい問題は解消しないと私は思うのです。

参考

夫婦別姓関連の判決文については、裁判所の裁判例検索にて「民法750条」で検索すると表示されます

法務省の選択的夫婦別氏制度の説明は割と充実しています。


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