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喪服という着物はありません

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本日のお題:喪服という着物はありません
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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■喪服という着物はありません

夏真っ盛りですね。何度も何度も書いてるので「うるせぇ!」と思われるかもしれませんが夏場って本当に着物が売れない季節です。毎年のことなので「また涼しくなってきたら売れるやろ」とのんびり構えておりますが、やはり毎日店にいても閑古鳥というのもなかなか寂しいものでして…。

浴衣とか売れるんじゃないの?と言われるんですけど、当店も含めリサイクル店ってあまり浴衣はやらないんですよ。最近はインターネット通販の発達で浴衣を扱っている呉服店は夏場はめちゃくちゃ売れるみたいですけど、細かい理由は今回の話題ではないので割愛いたしますが、かなり大規模に毎日何十枚、何百枚と販売していかないと利益を出すのが難しい商材なのですが、リサイクル着物屋なんて小さくひっそりと業界の片隅で商売しているので大量仕入れ、大量販売なんてのはちょっと苦手なのです…。

まあ、そんな売れない季節ではありますが、この季節になると決まって思い出すのが以前勤務しておりました呉服店で販売していた黒紋付です。いわゆる「喪服」です。

私が以前勤務していた店でもやはり浴衣は申し訳程度に置いているだけでしたので夏場の商材には苦労しておりました。ニッパチという言葉をご存知の方も多いと思いますが、二月と八月は物が売れない月と言われることが多いんですよ。二月は日数が少ないから、八月はお盆があって帰省や旅行でお金を使うのでそのほかの買い物にお金が回らなかったりで売上が落ち込むと言われております。

そんな時に頑張って販売していたのが先ほど書いたように黒紋付=喪服でした。今はお盆といっても単なる夏期休暇のように思う方もおられるかもしれませんが、八月はお盆月(おぼんづき)と言われまして、先祖がこの世に戻ってくる月で家族でお迎えをするものでした(注)

注:割り箸を刺した胡瓜や茄子を牛や馬に見立て、先祖がそれに乗って現世に戻ってくるとか、玄関で迎え火を焚いたり。お盆が開けるとお供え物を川に流すという風習があったのですが、私の住んでいた大阪市内大正区では各家庭がそれぞれ川に流すと川の汚染につながってしまうので大阪市がまとめて流して処分していました。自治体がお盆のお供え物をまとめて処分するほど一般的な行事だったんですが、最近はこの自治体のサービスも無くなったようです。お盆が終わる時にはまた送り火を焚いてその煙に乗せてご先祖を送るというのもご存知の方は少ないでしょうね。

というわけで八月はそんな月ですので、私ぐらいの年齢ですと通常の月と比べて少し死に関すること…というとちょっと語弊がありますね。宗教とか仏様とか、そういったことが少し身近に感じられる月なのです。そのため八月のお盆月は黒紋付(喪服)の販売キャンペーンをするのが恒例でした。

今ではお嫁入りの時に着物を持っていくなんてことは考えられなくなってますが、何度もこのメルマガで書いておりますようにお嫁入りといえばとりあえず着物一式持っていかないと格好がつかない、と言われておりました。私が呉服業界に入った頃はそういった風習も次第に下火になってきておりましたがそれでも「何は無くとも黒紋付だけは持っていかないとダメ」といわれておりました。お客様がお葬式に出席したときに「旦那さんが亡くなったのに喪服も着てはらへんかったんわ」なんて愚痴(?)がよく聞かれた時代という背景もあり、夏場は毎年黒紋付販売キャンペーンをやったものです。

この夏場のクッソ暑い時に黒紋付セットの見本を持ってお客様のお宅に訪問するのですが、どんな方をターゲットにするか、想像できますでしょうか。年取ったおじいちゃんおばあちゃんいるお客様?そんなところに行ったら殴られて「出て行け!」と怒鳴られて塩撒かれますよ笑。

答えは先ほど少し書いてますが、昔はお嫁入り道具に「何は無くとも黒紋付だけは持って行きなさい」と言われておりましたので、振袖を購入していただいたお客様に対する次の提案として黒紋付をお勧めしたのです。結婚した後は家紋は変わるから今は作れない、という方もおられるのですが、こちら関西では女紋という風習がありまして、女性は正式な家紋とはまた別にお母様から娘へと受け継ぐ家紋がもう一つあったのです。時代の移り変わりとともにそういった風習は忘れられて正式に女紋を受け継いできた家庭は多くはありませんでしたが、そういう場合は今の家庭(実家)の家紋を入れておりました。

生々しい話ではありますが、お嫁入り道具には実家の家紋を入れておくと離婚時に実家の家紋の入ったものだけは持って帰ることができるとか、お金を出した所の家紋を入れるのが正しいとか、そういった風習もあり、実家の家紋を入れるのは全く問題ありません。稀に嫁ぎ先が物知らずかつイケズだった場合「その家紋はうちの紋じゃないから着てくるな」と言われたという話も都市伝説のように聞いたことがありますが、基本は実家の紋を入れます。色々書きましたが、家紋自体が形骸化しているこの時代、どの紋を入れるかなんてのはできるだけトラブルがないように臨機応変にすればいいと思います。

この黒紋付をお勧めする時に先輩に必ず言われたことが「喪服という着物はないからね!黒紋付やで!く・ろ・も・ん・つ・き!」です。もうお客様の前で「喪服」なんて言おうものなら殴られそうな勢いで「黒紋付やろ!」と言われました。黒紋付というとつい男性の紋付羽織袴を想像してしまうため、呉服店は販売する時に安易に「喪服」と言いがちですが、どうしても縁起の悪さを想起させてしまい、敬遠しがちになってしまうため意識的に「喪服」という表現を避けたのです。

黒紋付といえばちりめん地(昔は関東は羽二重生地)を真っ黒に染めた五つ紋付きの着物です。昔は黒留袖のように襲の着物を下にもう一枚着たようですが最近は長襦袢の上に直接着ます。この黒紋付に真っ黒の黒共帯、黒の帯締め、帯揚げをつけてこそ初めて「喪の装い」=喪服となるのであり、黒紋付単体ではあくまでも「黒紋付」であってお葬式など人の死を連想させる「喪服」ではありません。

某歌劇学校の卒業式には黒紋付にグリーンの袴で出席するのは有名ですし、関東のある地方では19歳の厄除けに黒紋付を着て氏神様にお参りする風習があります(現在も続いているかは不明ですが…)。また、某女性落語家さんが襲名披露される時は黒紋付に金糸の織の帯を締めておられました。その会場に向かうタクシーに乗った時に「お葬式ですか」と聞かれて「金糸の帯が見えないんかーい!」とおっしゃってましたが着物に興味のない方なんてそんなものですよね。でも私たちは呉服屋なのでそこにはこだわらなくてはならないと思うのです。

黒紋付は五つ紋のついている第一礼装着物で非常に格の高い縁起の良い着物のはずなのですが、女性の第一礼装にはもう一つ、黒留袖という非常に豪華な着物が存在します。普通の庶民にとって五つ紋付きの着物を着る場面は決して多くはなく、一般的には結婚式かお葬式かというところでしょう。結婚式には黒留袖という金箔や金糸が入った豪華な着物がありますので、残念ながら(?)女性の黒紋付はお葬式専用のようになってしまいました。

当店のサイトでは商品名に「喪服」と記載しております。正直負けたような気分なんですが(笑)、一般的には検索する時に「喪服」と検索する方が多いと思われますので、いくら「本来は黒紋付という名前でして…」といったところでお客様の目に止まらなければどうしようもありません。お客様が検索する文字を考慮しつつ、「喪服(黒紋付)」と書いて小さな抵抗をしている私なのです。

最後に呉服店で黒紋付を勧められて断る時に一番効く魔法の言葉を伝授して今週は終わります。

それは「もうすぐ亡くなりそうな人が家族にいる」です。それを言われて「それはちょうど良かった、ぜひ買ってください」なんていう販売員はいませんからね。私の知り合いの黒紋付販売数日本一(自称)の方もお客様が「もうすぐ亡くなりそうな方が家族にいると聞いたら何も言えなくてすごすご帰るしかないんだよね…」といってました。黒紋付を勧められることなんて現在はあまりないとは思いますが、もし勧められて断りたい場合は是非お使いください笑。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022

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