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呉服屋に木綿の着物が置いてない訳

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本日のお題:呉服屋に木綿の着物が置いてない訳
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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このメルマガは昨日火曜日に書いているのですが、11月とは思えないぐらい暑いですね。なんだか今年は夏は9月いっぱいまで暑かったし、11月になってこの暑さだし、なんだか変な感じです。

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■呉服屋に木綿の着物が置いてない訳

本日のお題は「呉服屋に木綿の着物が置いてない訳」です。みなさん、木綿の着物着ておられますか?私は木綿の着物が大好きで、仕事で着るのは木綿一択です。絹はもちろん着心地は良いんですけれど、生地としてはかなり弱い部類ですからちょっと引っ掛けただけですぐ破れたり擦り切れたりしますし、何よりも家庭で洗えないのは仕事で使う上では最大の弱点。

ポリエステルは家でジャブジャブ洗えて丈夫なんですけれど、私ポリエステルの着心地がすごく苦手なんですよ。私は汗かきなので、汗をかいた時に肌とポリエステルの生地の間を汗が「ツツーッ」と流れていくのを感じたりして、その汗を全く吸わないのがどうしても苦手です。

そうすると消去法ではないですけれど木綿が最適解なんですよね。汗を吸う天然繊維ですし、そこそこ丈夫な生地、ネットに入れて洗濯機に放り込んだらじゃぶじゃぶ洗える、仕事で気軽に着るのにこれ以上の生地はないと思ってます。ほとんど絹物ばかりのリサイクル店のおっちゃんがこんなこと言うのもアレですが、普段に着るのなら木綿着物は一番にお勧めしたいアイテムです。

ところがですね、木綿着物って売ってないんですよ。X(旧ツイッター)でも「木綿の着物がない!」なんて着物ファンの生の声を聞くことが多々あるのですが確かに呉服店ではあまり売られていないですよね。こういうと「呉服屋は高い絹物を売ろうとして木綿のような安物は売りたくないから置かないんだ」なんてうがった見方をされるんですけれどそうじゃないんですよ。

だってそんな「高級呉服を売ってる店」の中を見てくださいよ。たぶん数千円のポリエステルの着物も販売されてますよ。呉服店側からすれば仕立て上がりのポリエステルの着物を販売するよりも、木綿の反物を販売してお仕立てすれば数万円にはなりますし、お仕立て後に連絡しなければならないのでお客様のお名前、住所など個人情報も聞ける。お客様の寸法のデータも取れるので商売上の戦略としてはポリエステルの着物を販売するよりずーっとメリットは大きいです。

でもなぜ木綿の着物が置いていないか。

その答えは簡単。単に売れないから。SNSの着物ファンは普段着として毎日着物を着たり、毎日じゃなくてもちょっとしたお出かけの際には必ず着物を着るという方が多いのですが、そういった方は着物を購入する層の中でもごくごく一部です。言うなれば着物購入者層のピラミッドの頂点に君臨する「着物ファンオブ着物ファン」「着物キング…じゃない、クイーン」とでもいうべきでしょうか笑。そのくらいの超トップに位置する着物ファンなんですよ。

普通の業界ならそういうトップを顧客に持つと大きく利益を取れるんでしょうけれど、呉服業界はちょっと違いますのでそのあたりを解説いたします。

いろんな形態の店があるとは思いますが、呉服業界はどちらかというとライトなユーザーに支えられていると考えております。購入してもあまり着用せず「何かの時に着よう」と思ってそのままタンスの中に入れっぱなしというのが多いのでは、と思うんですよね。

以前から何度もこのメルマガで書いておりますように呉服店のお客様はほぼ固定客でして、その固定客で90%以上の売り上げを作っているのではないかと思っております(あくまでも以前に新品主体の店で勤務していた私の印象で特に統計を取ったわけではないですが)。お客様はなんとなく染み抜きなど、縁ができた後に色々おもてなしをしてもらって、なんとなく居心地が良くてたまに店に顔を出してくれるようになり、人間関係が密になっていきます(注)。

注:これが悪名高い、呉服店に行くとすぐに反物を巻き巻きしようとしてくる、というやつなんですが、反物を体に巻くとその場の雰囲気で購入する方は多いのが現実です。

だいたい日本人は着物が好きで、買う買わないは別として見るのは決して嫌いではありません。「こんなのがあるんですよ、あんなのがあるんですよ」なんて見せてもらって身体に当てているうちに着物を着て優雅に歩いている自分を想像してなんとなく購入してしまうのです。呉服店側もプロですからそのあたりをうまくくすぐります。

昔は女性は専業主婦が多く、または働いたとしても自分の小遣い稼ぎが目的で家計には入れず好きなように使えるという方も多かったので、パートの給料数万あってもそれを全て着物に充てるということも多かったように思います。ローンの総量規制もなかった時代なので世帯収入が少なくても毎月5万、6万のローンは普通に組めました。

店頭や展示会でおもてなしされて料理を出してもらってお土産をもらって豪華な陳列に圧倒されて「着物を着て優雅に歩いている素敵な自分」を想像して購入しますが、そういう方にとって自分で着物を着て外に出かけるというのは想像以上にハードルが高いです。今でこそ、着物で出歩いているこのメルマガの読者のようなかなり着物沼にはまっている方も初めて着物姿で家から一歩出るのは勇気を振り絞ったのではないでしょうか。

私もお得意さんに「着物たくさんお持ちなんだから着て出かけて楽しんでくださいよ」といったら「着物なんかこんな下町で着てたら頭おかしなったんちゃうかと言われるわ!」と言われたことがあります笑。10代、20代の若い頃なら飛び出していけますが、40代、50代になると「シワ一つなく綺麗に着物を着なくちゃならない」というような変な価値観が邪魔をしてなかなか一歩踏み出せないのが現実でしょう。

自分で着られないし、一人で着物を着て歩くなんてとんでもなくハードルが高い。店側もできるだけ着る機会を増やそうとイベントを開催いたしますが、それに参加するのも億劫という方も少なからずおられます。10年もすると購入した時の感動もなくなり「着てないし和服タンスも邪魔だし処分しよう」とばかりにそういう着物が放出され、リサイクル市場にしつけ糸つき、もしくは1-2回しか着られていないような新品同様の品として出てくるのです。

仕事帰りに運動してスリムになった自分を想像してスポーツクラブに入会するけれど、ほとんど行かずに幽霊会員になっている、というのと似ているでしょうか。今調べてみましたらスポーツジムの幽霊会員は少ないところでは2割、多いところでは8割になるらしく、その収入は決してバカにできない額になっているらしいです(楽天やYahooなどショッピングモールのメルマガは外部リンクが貼れないので「フィットネスジムの収益の大半は幽霊会員?」で検索してください)。

着物もそれと似た構造を持っていると思います。そういう方々にとって着物ははんなりの花鳥風月であり、一枚の絵画をまとうような豪華な訪問着が「着物」なんですよ。普段に着るのはハードルが高くても子供の結納、孫の七五三など、イベントで着るかな、と思って購入するので欲しい着物は生活に密着した木綿着物じゃないのです。わかりやすい金箔を貼り付けられた「いかにも着物」という訪問着なんです。着物=絹、着物=非日常であって、木綿を提案されるとバカにされたと怒り出す方もおられるかもしれません。

そんなことで怒り出すなんて想像つかない方も多いと思いますが、私なんて展示会の時にお客様の横について商品を勧めるのがあまり好きじゃないので自由に見てもらってたら「せっかく来たのに相手してもらえなかった」なんて何回も怒られましたから。まあこの辺は私がお客様の気持ちをちゃんと汲んで接客できなかったんでしょうけれど、新品の呉服は商品の単価が高いだけにお客様の期待値も高く、その期待値を下回るとクレームになりやすい商材なんですよね。

こういうのが全てとは言いませんよ。でも上で書いたような流れで販売している店が多いのではないでしょうか。だから一般的な呉服店では木綿は置かない。客層と違うから置いても売れない。売れないから仕入れない。どの店も仕入れないから京都の呉服問屋にもほとんど置いてない。絹を売りたいからといって意地悪して店頭に置かないわけじゃないんですよ。無いのよ。問屋にも無いんですよ。月に1反でも売れるんなら喜んで在庫に置きますよ。京都の呉服問屋でも置いてないから私も愛知県の某木綿に強い呉服店で普通に消費者のふりして買いますからね。わはは。

私はリアルタイムではありませんが、昔は木綿やウールなど普段着の着物を扱っている「太物屋」と言われる店と絹物を扱っている呉服店とは分かれていたと聞いたことがあります。少なくとも私がこの業界に入った30年前でも「太物屋」なんて名前は聞いたことがありませんでしたがその太物屋さんがいつの間にか消滅して絹物を扱う呉服店だけが生き残っている現在の状況を考えると、木綿の着物を好む層はかなり少数と考えるのが自然かな、と思います。

かなり少数であっても、木綿の着物を好む層は着物を着て楽しんでくださる貴重な方々ですので、もっと支援していかなければならないとは思うし、店頭でもそういう方のために在庫に置いておきたいのですが、何せ京都の総合問屋にもほとんど置いていない状況ですから、仕入れるなら各メーカーを回ってメーカーと直接取引交渉するというところから始め、取引継続するために各メーカーの商品を少しずつでも販売して仕入れ続けるのは呉服店側としても非常にハードルが高いです。

木綿の着物の販売を頑張って、生産者さんを守りたいという熱い思いを持っている呉服店が少ないながらも存在しているのはよく知っておりますし、その志は尊敬に値しますので私も微力ながら協力していきたいとは思うのですが、やるなら思いっきり時間を割いてコストもかけてたくさん仕入れなければならないので、リサイクル着物の片手間ではなかなか難しいです。また、ただでさえ少ないパイを奪いに行くというのも、頑張ってる店を知っているだけに二の足を踏みますし…。

もし、木綿の着物が好きで絶やしてはならない!と思っておられるならぜひ年に1回でも2回でも購入して仕立ててください。生産者にとって一番の応援は購入するということであり、購入して初めて生産者に初めてお金が流れるのです。木綿とはいえ1枚仕立てると4-5万ぐらいになりますのでなかなかの大金ですが、ぜひ一度木綿の着物のお仕立てにも挑戦してみてくださいね。絹物主体のリサイクル店の私がいうのもどうやねん、と思いますが笑。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022
https://www.kikuya.shop/

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