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着物販売の仕事をやめようと思った話その2

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本日のお題:着物販売の仕事をやめようと思った話その2
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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検針器が壊れました(汗)。通常プロの和裁士さんはマチ針の数は把握しておりますので着物の中に入ったままということはないのですが、リサイクル着物はどんな方が縫製したかわかりませんので検針器は欠かせません。その検針器が壊れてしまったんです。

メーカーさんはすぐ近くだったので車で走って行って見てもらったのですが、残念ながら基盤から壊れて修復不能と言われまして、仕方なく新しいのを購入したのですがなんと11万円(涙)。必要なので仕方ないものですがちょっと辛いです…。

新しいのが送られて来るまで1週間程度必要でして、検針器がなく出品時に点検ができないのでしばらく新規商品登録を停止いたします。メーカーさんにもできるだけ急いでください(涙)と伝えておりますので今週中には送られて…来たらいいなぁ。

ただいま呉服のきくや本店サイトでは30%-90%OFFの秋のセールを開催いたしております。在庫処分品は今までも50%-90%OFFにしておりましたが、在庫処分品ではない新しく登録した商品も全て30%OFFとなっておりますので是非ご来店くださいませ。期間は10月17日までですが、全て1点ものですので気に入った商品がございましたらお早めにご注文ください。

期 間:10月17日23時59分まで
割引率:リサイクル着物全品30%から最大90%OFF

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■着物販売の仕事をやめようと思った話その2

先週に引き続き「着物販売の仕事をやめようと思った話その2」です(その1は移行前の楽天ブログをお読みください)。今から30年ほど前、バブルの後ではありますが、まだそれなりに着物は売れていたものの、生活様式の変化により普段着需要はすっかりなくなっておりました。それでも結婚や葬儀など節目の時には着物を着るというフォーマル需要は残っており、呉服店はフォーマル着物の販売に重点を置くようになっていきました。

先週も少し書きましたが、展示会といえば販売員がお客様を囲んで帰れないようにして無理やり販売している、というようなイメージを持っておられる方も多い印象ですが、そんなことはありません。固定客でもっているような呉服店でそんなことをすれば、次からは展示会に足を運んでもらえなくなりますし、なによりクーリングオフという伝家の宝刀がありますので電話一本でキャンセルできる時代にそんなことをして売上が上がるわけがありません。

先日、クラブハウスで着物ファンの方とお話ししたのですが、その方が展示会に行って目撃したところによると、お客様が販売員を引き連れて着物を見て歩く様子が「私を楽しませてくれたら買ってやってもいいよ」という風で驚いたのだそうです。おっしゃる通りでして、必死の接待をしてさんざん遊んでもらってようやく「しゃーない、買ってやるか」と言ってもらえる感じなんですよ。

今でこそ男女平等が当たり前に言われるようになりましたが、今から30年ほど前は働く女性は今ほど一般的ではなく、四年制大学を出て就職した女性は、2-3年で結婚相手を見つけて寿退社をすることが多かった時代です。四年制大学だと卒業すると22歳ですから結婚退社するまでの期間が長い短大の方が就職に有利だと言われていたほどです。

当時は今の感覚では考えられない男女「不」平等が当たり前でした。夫の給料は全額妻に渡し、妻はわずかな「小遣い」を夫に渡して家計を管理するのが一般的であり、また妻が外にパートに行ったとしてもその給料は全額好きに使っていいというのもごく当たり前で「男子たるもの女の金をアテになんかできるかい!」という「男女不平等」でした。夫婦別財布なんてありえない時代でしたね。

そんな時代だったので、普通のサラリーマンの家庭であっても奥さんは昼間3-4時間のパートで月5万や6万の着物のローンは簡単に払えていたのです。

そうそう、先週の続きでしたね。そんな感じで毎日着物販売をしていたんですがある時馴染みのお客様から電話がかかってきたんですよ。何度も展示会に来ていただいて、ご自身の着物やお嬢様の着物を仕立てさせてもらっていました。着物が好きというよりも、フォーマル用にどうしても必要なものを少しずつ購入していただいていたお客様です。

「はいはい、どうしました?」

「あの、3年か4年前ぐらいに頂いた帯なんだけど、1回も使っていないのにシミだらけになってるのよ」

「え?とりあえず見に行きます」

当時は新品しか扱っておりませんでしたのでシミだらけになっているはずはありません。確かその帯は博多のメーカーさんが展示会に出品してくださったときに私が説明して購入していただいたもののはず。いつもはフォーマル用の着物ばかりだったのですが、カジュアル用の着物もお持ちだと聞いて、じゃあこの帯はどうですか?とどんな着物にもコーディネートしやすい帯を選んで購入していただいたものでした。決して安いものではなく、30万円ほどですから高級品の部類です。

ちなみに私、そのメーカーの帯は今でも大好きでして、たまにリサイクル市場にも出てくるので見かけたときには高くてもだいたい仕入れます。オークション形式なのでなんとしても手に入れようとすると高くなるんですけどね。

なんでシミだらけになってるんだろう…と思いながら車を走らせるんですが、今だったら見なくても原因はだいたい想像できます。1回も使っていなかったというのがミソで、むしろ1回も使っていなかったからこそシミが出たんです。そう、おそらくカビが原因で、タンスの中で保管しているうちにカビが発生し、そのカビが茶色く変色したのです。

お客様の家に行って拝見しますとやっぱりカビ。白地だったのでところどころ薄茶色に変色したカビが余計に目立ってしまいます。もちろんそのままでは使えないぐらいの傷み方でした。

購入していただいてから何年もタンスの中に入れたままで虫干しもしていなかったため、タンスの中の湿気によりカビが発生し、それが変色したのは明らかでした。最近の住宅は気密性が高く、冬場はアルミサッシに結露するような家が多く湿気が家の中にこもりがちです。そのためこういったトラブルは少なくありません。

なんとかしなくては、と明らかに使用していないのにこうなったからなんとかしてもらえないか、とメーカーさんに土下座の勢いでお願いしたところ、当時とても親しくおつきあいさせてもらっていたメーカーさんなので新品と交換させてもらいますよ、と快く対応していただきました。

メーカーさんに無理を言ったことで、お客さんには納得いただける対応ができたと思います。しかし私の気持ちは全く晴れなかったんですよ。先週お話ししましたように、お客様にいらないものをお勧めして買わせているだけではないか、身につけた時にきれいに見えるように、締めやすいようにとメーカーさんが研究を重ねて世に送り出した帯なのに、一度も使用されることなくカビが発生してシミが出てしまった、あの帯はきっともう使えないので廃棄処分されるのかな、なんて考えました。

自分の仕事がとても無意味でつまらないものではないか、とちょうど悩んでいたときだったのでこの事件がその想いに一層拍車をかけました。お客様に着物を楽しんで欲しくて一緒に選んで購入していただいたのに、自分の仕事って一体なんなんだろう。

自分はお客様のことを考えて、お持ちの着物にどんな帯が合うかを考えて一生懸命一緒に選んだ。お客様も着物を着てどこかに出かける自分をイメージして決して安くはないお金を支払ってその帯を手に入れた。結果としてこういうことになってしまったけれど誰も悪くはない。誰も悪くはないんだけれど、お客様に30万もの大金を使ってもらって自分は一体何やってんだろう、と思考の袋小路(汗)。

先週書いた、「そんなこと売る側がどうのこうの言うべきものじゃない」と言う先輩の言葉もよくわかります。「この前購入していただいた着物、着てもらえました?」なんていちいち呉服屋から電話がかかってきたらお客様の方も鬱陶しいはず。購入後のメンテナンスは別として、納品した後はもう店側としてはそれ以上立ち入るべきではないでしょう。

この事例だけだったら「しかたないね、メーカーさんにも対応してもらえたしよかったよかった」と言って終わりなんでしょうけれど、先週書いたように自分の販売している着物のほとんどが着られずにタンスの中に眠っているんじゃないか、と薄々感じていましたから、それが現実として目の前に突き付けられたショックは消えませんでした。

男性は仕事の帰りにスナックに行ってストレス解消をします。女性のいる店の中だけでちやほや接待してもらってお金を使ってました。それと同じように女性も呉服店や宝石店で食事をしたり、接待をしてもらって着物や宝石を購入しストレス解消をしていたのかもしれません。極端な話、購入した着物や宝石を身につけるかどうかはまた別の話という観点もあるかもしれません。

しかし自分は一体何してるんだろう、一生の仕事がこれでいいの?と思い始めました。
来週に続く。

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