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訪問着と付下の違いとはその2

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本日のお題:訪問着と付下の違いとはその2
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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■訪問着と付下の違いとはその2

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訪問着と付下の違いとはその1

このコストダウンした訪問着とも言える付下は売れたらしいです。めちゃくちゃ売れたらしいです。今まで訪問着は高くて手が届かなかったのに、ぱっと見た目は訪問着みたいな柄だけど安く売られてるんですから売れますよね。某巨大チェーン店の社長曰く「うちの会社は付下のおかげで大きくなった」と言わせるほど売れたらしいです。売れると他のメーカーも似たようなものを作って売ってみようと思うのはどの業界も同じでして、いろんな付下が出てきますが、だいたい全ての付下が縫い目を超えて柄を緻密に合わせる必要がないような柄付をしつつも裾と上半身の柄の区別がつけられていて、一応絵羽柄みたいな感じになっています。

そして年月が経ち、いろんな付下が生まれました。いくつかの例を出しますとこんな感じです。

これらは付下の王道で縫い目にかからないようにしながらも上前と袖に小さな飛び柄を配置したもの、少し縫い目にかかっているのもありますが、訪問着ほど緻密に合わせる必要がない飛び柄のような感じですね。私は職人さんの仕事をそれほど詳しく理解しているわけではありませんが、このくらいの一部の柄合わせなら比較的簡単にできるのでしょうか。背縫いなんかには全く柄がかかっていないので柄合わせは一切必要なさそうですね。

4番目は柄が全て上向きになっていて一方付小紋(いっぽうづけこもん)とも呼ばれるもの。私は小紋の一種という感じで教わりましたがこれを付下と呼ぶ方もおられます。反物は肩山、袖山を境に柄が上下反転するのですがこの着物は肩山、袖山で柄をひっくり返しているので着物のどの面を見ても柄が全て上向きになっていますが、横の柄合わせは一切考えられていないので全く繋がっていません。

これは裾ぼかしのみですのでやはり訪問着のように緻密に柄合わせを考える必要はありません。これも付下と言っていいでしょう。

この頃はインターネットは当然としてもまだテレビですらそれほど普及しておらず、情報伝達の手段があまりなかったため、様々な「付下」が出てきましたが、狭義では「緻密に横の柄合わせをする必要がないけれどなんとなく絵羽柄になっているもの(すごくざっくりとした言い方ですね笑)」というところが共通の特徴と言っていいと思います。そして広義では「訪問着ほど柄が多くないけれどなんとなく絵羽柄になっているものも「付下」と呼ぶ方もおられるようで、おそらくこの辺が混乱の原因となっているんでしょうね。

ちょっと柄の多めのものを付下訪問着と呼んだり、飛び柄のものや総柄裾ぼかしのものを付下小紋を呼んだり、ぱっと見は色無地ですが地模様が絵羽柄になっている無地付下やら、小紋付下やら一方付付下小紋やら…。まあいろんな「付下」が出てきましたが、このあたりは呉服業界でもそれほど統一されているわけではなく、地方によって魚の呼び方が違うのと同じように地方によって多少の呼び名が違うというぐらいに思っておけばいいでしょう。そこまで細かく細分化されているわけではありませんが、これも「付下」ってどういうものかわからない」という原因の一つでしょうね。

ところがですね、時代は流れて平成、そして令和。この頃になりますと生活習慣の変化からかなり着物離れが進みまして、着物にあまりお金をかけなくなってまいりました。以前はお嫁入りといえば留袖、訪問着、色無地、黒紋付(喪服)など一式持っていったものですがそういったこともなくなり着物が売れなくなってきました。すると次第に「なんとか安く作って買いやすいような値段にしよう」と努力するわけです。また、カジュアル需要が下火になり、訪問着など礼装需要が残ったため売れるのはフォーマルものばかり。頑張って販売するために安売り競争…とまでは言いませんが、私の経験では展示会での安売り企画は訪問着が一番多かったように思います(注)。

注:展示会などで「訪問着50000円ぽっきりセール」なんて見たことありませんか?ああいったコーナー展開の特価商品で訪問着が使われることは多かったんですよ。訪問着の表地で利益が出なくても仕立て代や帯、帯締め帯揚げ、うまくいけば長襦袢まで正規の価格で買っていただけるのでそれなりに利益が出たのです。訪問着はそういった安売り企画で使われることが特に多かったように思います。

時代が変われば着物の柄の流行も変わります。訪問着の柄もそれほどゴテゴテと柄付したものはあまり好まれなくなってきましたからこれ幸い。コスト的に比較的安く作れるような全体的にあっさりとした柄の少ない訪問着も多々作られるようになってきました。その一方で付下は人間のおしゃれに対する欲求に応えるかのように少しずつ柄が多くなり、手の込んだ柄になり、上前の身頃と衽部分で繋がるような柄も増えてきました。

そうするとですね、次第に訪問着と付下の境界線が曖昧になってくるんですよね。元々付下は訪問着のコストダウン版だったのですが、その元々の訪問着がまたコストダウンを強いられて柄が少なめになってしまい、逆に付下は好きな人だけが購入するマニア向けの着物という位置付けで、無理に値下げして販売するような商材でもなく安売りのターゲットにされることもなく値下げ圧力を受けることもない高値安定の地位を確保いたしました。

そうすると、元々コストダウンを目的として出来上がった付下ですが、逆に訪問着の方が価格が安い場合も多々見かけるような逆転現象が起こり、柄の違いも当初ほど明確なものではなくなってしまったため次第に訪問着と付下の区別がつかない状態になってきました。これが現代です。

もっとも、当店のようなリサイクル店ですと10年20年前に作られた着物を販売しておりますのでまだ訪問着と付下の違いは多少明確ではあるのですが、新品の販売の現場では訪問着と付下の境界線は私の感覚ではどんどん曖昧になっているような印象です。

先ほどから例に出している商品ですが、すべて付下ではなく訪問着と書いているのをお気づきでしょうか。私はもう訪問着と付下を区別する必要性はほぼなくなっているのではないかと思っておりますので、付下に近い、柄の少なめの着物も全て意識的に訪問着と記載しております。これは中の人から聞いたのですが、きもの文化検定でも着物の種類の中から付下はもう無くしてもいいのではないか、という意見は頻繁に出るようですが、先ほどちらっと書いた某チェーン店の社長が「うちは付下のおかげでここまで大きくなれたので付下には感謝している。どうか無くさないでほしい」とおっしゃったとのことで、今のところ「付下」というジャンルは残っているようですが、私の感覚では付下という着物は、近い将来に訪問着と統合されてなくなってしまうのではないか、なんて思っています。

さて、長々と二週にわたって訪問着と付け下げの違いを解説してきましたが大体お分かりになりましたでしょうか。もし疑問がございましたらメールやツイッター(@gofukunokikuya)にご連絡いただければなんでもお答えいたしますよ。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
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