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訪問着と付下の違いとはその1

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本日のお題:訪問着と付下の違いとはその1
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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今月のプレゼントはもう用意してるんですが、忙しくてなかなかページを作る暇がありません。今日明日にはページを作りますのでもう少しお待ちください(と書いて自分にプレッシャーをかける)。

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■訪問着と付下の違いとはその1

今週のお題は「訪問着と付下の違いとは」です。着物好きで、ネットの掲示板やツイッターなどをご覧になっておられる方でしたらこの疑問は一度は目にしたことがあるでしょうがいまいち区別がよくわからない、という方が多いと思います。実際のところ、さまざまな「付下」があるようでこれも混乱の原因になっていると思われます。

今回のメルマガを書くにあたって、今回の話はたかだか呉服屋歴30年の私が業界の先輩から聞いた話や断片的な情報を総合したものでして、決してリアルタイムで見てきたわけではありません。また、出現した頃はインターネットなどもなく、情報伝達が今ほど盛んでもなかったので各地でいろんな「付下」があるようで、特に20年、30年前の着物が普通に販売されているリサイクル着物の世界に親しんでいる方は「このメルマガで書いてること私の知ってることと違うやん!」ということもあるかもしれませんが、別に今回のメルマガが100点の正解の解釈というつもりもありません。「こういう解釈もあります」という感じに読んでいただければ、と思います。

あくまでも私の個人的な見解ですが、付下は呉服業界が初めて「売るため」に作り出したジャンルだと思っています。留袖も振袖も小紋など多くの着物は人々の生活から自然発生的にできたものなのに対し、付下は呉服業界主導で「こういうのを作ろう!」として売り出したものではないかと考えております。この辺の解釈は先ほど書いたようにリアルタイムで見ていたわけではありませんのであまり突っ込まないでください。

ではぼちぼち本筋に入っていきます。

訪問着と付下の違いを書く前に訪問着の作り方から説明しなければなりません。なんで?と思うかもしれませんがこれがめちゃくちゃ重要なのでまずは読んでください。

訪問着って、着物を広げた時に縫い目を超えて柄がつながって、一枚の絵になるように柄が描かれています。縫い目にかかっている小さな花や葉っぱもピッタリと合うように描かれますので、この状態に作り上げるためには反物の状態では下絵を描くことができず、一旦白生地を裁断して着物の形に縫ってしまいます。着物の形に縫うといっても、細かく丁寧に縫うわけではなく「仮絵羽(かりえば)」と呼ばれるものでざっくりと縫って着物の形にするような感じです。未仕立ての訪問着や留袖を見たことがある方でしたらお分かりだと思いますが、白生地をあの状態にして下絵を描きます。ここで柄がズレなく合うように細かく細かく下絵を描くのです。

そうして下絵が出来上がった訪問着はまた解かれて糸で縫いつけられて反物の状態に戻し(端縫い・ハヌイといいます)、そこから実際に柄を描きます。完成したらまた仮絵羽状態にし、仕立て前の完成品として出荷されるのです。

そして呉服店で陳列され、お客様が気に入って購入されますと、次は悉皆屋さんで仮絵羽状態で縫い目のところについていた筋を戻したり、端縫いをしたりで元の反物の状態に戻し、その次は和裁士さんに送られてお仕立てにかかります。和裁士さんのところではお客様の身幅寸法を加味した上でどうすれば一番柄が綺麗に見えるか、前幅後幅の調整をします。例えば注文書には前幅6寸2分、後幅8寸になってるけど前幅をもう1分狭くしたら綺麗に柄が合うなぁ、じゃあ後幅は1分多くしておこうか、なんてああでもない、こうでもないと考えながら仕立てをし、ようやく一枚の訪問着が出来上がります。

これを読んでどう思われましたでしょうか。特にどの柄がどこに来るかと考える必要のない小紋と違って、38cmの幅の反物を縫い合わせて縫い目で柄をぴったり合わせようとすると染める職人さんも和裁士さんもめちゃくちゃ手間がかかってしまうのがお分かりいただけますでしょうか。手間がかかるというのは当然コストに跳ね返ってきます。つまり、訪問着がどんどん高くなって、仕立て代も高くなってしまうんですよね。

で、こんな会話が繰り広げられたかなかったかは知りませんが…。

熊「おう、八っつぁん、ちょっと見てくれや」
八「おう、熊さん、久々だな、どうしたん?」
熊「いやね、訪問着って仮絵羽にして下絵を描いてまたバラバラにして染めて、って手間がかかりすぎるやろ?」
八「まあな、でもそれが訪問着やからしゃーないやん」
熊「いやいや、実はこんな訪問着を作ってみたのよ」

八「ん?なんだこりゃ」
熊「訪問着のように見えるやろ?でもよく見ると生地の縫い目の部分の柄は合わせてないねん」
八「ほほう、これは新しいな」
熊「これだったら少しぐらいずれても大丈夫だからいちいち仮絵羽にしなくても大体の目分量で染めたらいいから手間が省けるやろ。反物を裁断するときに袖部分110cmぐらい、それを両袖分の合計220cmぐらい取ったらその次が身頃の裾になるからそこから裾の柄を描いて、170cmぐらいで肩山が来て、また後ろ身頃が来るからその裾のあたりにまた柄を描けばいい。今までの訪問着みたいに完璧に合わせなくてもいいので仕立て代も小紋に準じたような仕立て代にすることができるかもしれない」
八「天才か!」

熊さん八っつぁんのこんなやりとりがあったかなかったかは知りませんが、今までの訪問着は製作段階でも仕立ての段階でも手間がかかりすぎて、当然価格も非常に高くなってしまったため、もう少しコストを安くできないかと工夫したのがこの付下という着物だと私は認識しています。ちなみにここに出てくる寸法はかなり適当に書いてます。

ネットなどでは、反物で売られてるのが付下、仮絵羽で売られているのが訪問着などと言われることもありますが、これは半分正解で半分間違い。販売している状態で仕立て上がった後の格が変わってくるなんておかしな話ですし、私が以前いた店では「お客様が仕立て上がった時のイメージがわかりやすいように」とわざわざ付下を仮絵羽にして販売してましたからそこで判断するにはやや難しいです。

なぜ反物状態の着物と仮絵羽状態の着物が生まれるのかを考えてみれば付下と訪問着の違いは明白です。訪問着は縫い目の柄あわせの部分を緻密に計算して染めなければならないため、仮絵羽にして手間をかけなければならない、付下は全体を見ると絵羽模様になっているけれど縫い目を超えて柄がつながっているわけではないのでそこまで緻密な柄合わせが必要なく、反物のままで染めることができるのです。コストダウンの方法を工夫して一旦仮絵羽にする必要がなくなったため、結果的に丸巻きで販売しているだけであって販売時の状態が着物の格に影響するわけではありません。販売時の状態はわざわざ仮絵羽にする必要がなくなった単なる結果によるものなのです。

また、私の若い頃には衿の柄が胸まで繋がっているものが付下、という話も聞きましたが、コストダウンのために上前身頃であっても柄が繋がらないようにしているので、当然衿から胸にかけての柄も緻密に柄合わせをしなくていいように柄を配置するでしょう。つまり、あらゆるところで柄を緻密に合わせなくてもいいように工夫した着物が付下と言っていいと思います。

私の下手くそな画像編集で同じ生地で小紋と付下と訪問着の画像を作ってみましたのでご覧ください。

まずこれが小紋です。


どこにどんな柄が来るか、全く考えずに反物に単に柄を置くように染められています。これはみなさんご存知ですよね。

そしてこれが訪問着。

先ほどから書いているようにどこにどんな柄が来るか計算して裾が上前から斜めに流れていますね。衽と上前身頃、上前身頃と左後身頃の柄が縫い目を超えてつながっているのがわかると思います。これだけぴったりと合わせるには一旦仮絵羽にして柄がちゃんと繋がるか見ながら下絵を描かなければならないのと、お仕立ての際にも緻密に柄が合うようにしなければならないのでコストが高くなってしまいます。計算され尽くした非常に手間のかかる柄です。

そしてこれが付下。

訪問着と比べて柄が少ないですが、単に柄の多い少ないを見るのではなく、柄の配置をご覧ください。

一応裾と袖のあたりに柄があり、訪問着のセオリーのような柄の配置なのですが、上前衽と上前身頃では柄がつながっていません。上前身頃と左後身頃も同様でつながっていないのがわかると思います。下前身頃と右後身頃の間の柄がつながっていますがこれはきっとたまたまで和裁士さんが気を利かせてつなげてくれたものです笑。この柄の配置ですと緻密な計算をして染める必要がありませんしお仕立ての際にも柄をぴったりと合わせる必要もないし、わざわざ一旦仮絵羽にする手間も省けます。あらゆる手間を省いて訪問着と比べると安価となります。この例でもそうですが訪問着と比べると柄が少ないことが多いですが、柄が多くても縫い目部分を超えて柄をつなげていなければ付下といってもいいでしょう。付下は概して訪問着よりも柄が少ないですが訪問着よりも柄の多い付下もありますので(注)一番着目すべきところは縫い目を超えて緻密に柄がつながっているかどうかというところです。

注:例えば総柄で裾部分だけぼかしになっているもの、全身花柄の総柄だけど裾は大きめの花柄、上半身は小さめの花柄など、大きさを変えて微妙に絵羽柄にしているものもあります。

来週に続きます。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022

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