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抗生物質耐性:手術や軽度の感染症が生命を脅かす

 薬剤耐性感染症は、世界中で毎年70万人近くの命を奪っています。 しかし、専門家によれば、これは始まりに過ぎません。この危機的状況に対処しなければ、2050年には年間1000万人以上の命が失われると予想されており、これはがんによって年間に失われる命を上回ります。これは深刻な危機です。「Current Pharmaceutical Design 」誌に掲載された最近の研究では、抗生物質による治療が腸内微生物叢の多様性と機能にどのような影響を与えるかを強調し、抗菌薬耐性(AMR)のメカニズムを調査しています。英国で行われた古い研究も、西洋医学が「暗黒時代」に逆戻りする脅威が高まっていることを明らかにしています。
 
●AMRに関連するコストは数兆ドルに達する可能性がある
 抗菌薬耐性(AMR)に関するレビューは、抗菌薬耐性の世界的な広がりを検証し、それに対処するための行動を探るために、英国首相から依頼されたものです。マクロ経済学者のJim O’Neill,氏が議長を務め、英国保健省とウェルカムトラストから資金提供を受け、2つのコンサルタント・チームを活用して詳細なシナリオ分析を行いました。

 2016年夏に完成したこのレビューの厳しい結論には、抗菌薬耐性による世界的な総費用は100兆ドルに達するという予測も含まれています。

●感染症への警告:様々な要因の「パーフェクト・ストーム」が、スーパー・バグなどの微生物モンスターを生み出している
  微生物が突然変異を起こすことで、最終的には薬剤に抵抗できるようになります。 薬剤に抵抗する能力を発達させる過程にある微生物は、まさに生き残り増殖する微生物なのです。微生物には常にこの能力が備わっていますが、この問題は新たな緊急性を帯びています。それは、抗生物質の使用とその薬剤に対する耐性が急増する中、科学者が新薬を発見するペースが大幅に遅れていることです。

 研究者らは、使用されている抗生物質の種類が豊富で、その使用頻度が多く、ジェネリック医薬品が比較的低価格であるため、AMRはこれまで以上に危険性が高まっていると述べています。病原体がさらされる抗生物質の数や濃度が増えることで、耐性菌が発生する可能性は飛躍的に高まります。 また、開発中の新しい抗生物質の数が限られているため、西洋医学はAMRに打ち勝つための有効な代替策を持っていません。

●抗生物質の問題点
 かつては危険な副作用のために使用を避けていた抗生物質を、医師たちは使用せざるを得なくなっています。 例えば、腎不全を引き起こす可能性のあるコリスチンは、一般的に使われなくなっていました。 しかし、この10年間でコリスチンはグラム陰性菌感染症の最後の治療薬として使われるになっていますが、事実上、効かなくなってきています。

 本レビューの著者は、抗生物質耐性が広く波及し、すでにMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)のような「スーパー・バグ」を生み出していると指摘しています。また、抗生物質の不必要な使用と過剰使用がAMRの蔓延を許していると報告されています。 過剰な抗生物質は人間にも動物にも消費されています。 事実、人間にとって医学的に重要と定義された抗生物質のうち、重量比で70%以上が動物にも投与されています。さらに問題なのは、多くの抗生物質は、家畜の成長促進や病気の予防を目的としたものであり、治療するものではないということです。

 人間や動物への抗生物質の過剰使用がもたらす危険な状況に加え、抗菌剤耐性は下水道や農場からの流出物を通じて環境全体に広がる可能性があります。動物に投与された抗生物質の70~90%が未代謝のまま排泄されるという事実を考えれば、その重要性はさらに高まります。 レビューによれば、人間の健康に不可欠な抗生物質は、動物への投与が禁止されるか、厳しく制限される必要があります。

 米国では年間4000万人が呼吸器感染症で抗生物質を投与されていますが、そのうち2700万人が不必要に投与されています。患者を蝕んでいる病原体の種類を正確に把握していない医師は、治療しなければならないため、多くの医師は広域スペクトルの薬剤を選択します。そのため、耐性菌が発生する確率が高くなるのです。レビューによれば、治療にあたって多くの医師が経験、直感、専門的な判断で診断していると報告しています。

●AMRの脅威
 同レビューは、抗菌薬耐性菌の急増が世界的に深刻な影響を及ぼし、手術や軽度の感染症が生命を脅かすようになり、過去50年間の医学の進歩が実質的に帳消しになると予測しています。抗生物質が効かなくなることによる副次的な影響は、人工股関節置換術、帝王切開術、化学療法、腹部手術などにつきものの重篤な感染症のリスクです。

 海外旅行がますます容易になることで、AMRが多くの国(現在抗生物質の使用を規制している国でさえも)に広がる可能性があることを指摘し、レビューでは、脅威への対処のために世界が協調して行動しなければならないと結論づけています。また、このレビューの著者たちは、抗生物質の使用を控えるような啓蒙活動を行うこと、衛生環境を改善すること、農業における不必要な抗生物質の使用を減らすこと、農業汚染を減らすこと、などについても助言しています。 さらに、より迅速な病気の診断や、新薬開発を促進するための市場参入報奨金やグローバル・イノベーション・ファンドの活用も勧めています。

 もちろん、病気と闘うために自然な手段を用いることは当然の解決策となります。現在開発中の感染症対策の代替手段には、ファージ療法、プロバイオティクス、エッセンシャルオイル、バクテリアを攻撃する酵素、ペプチド、免疫刺激などがあります。

 抗菌薬耐性は、食い止めなければならない脅威です。 デービッド・キャメロン前英国首相は、 「もし私たちが行動を起こさなければ、抗生物質が効かなくなり、医療の暗黒時代に逆戻りするというシナリオが待っている。」と述べています

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