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私は”私”の文字を書く

講師をしていると、そこには目の前の生徒さんと対等でいたい思いは別にして、やはり生徒と先生という図が出来るもので。

私の文字をみて、学びにきてくださる生徒さんということもあって、“麻衣先生のような字になりたい”口々にそう言って、こちらが恥ずかしくなるくらい熱心な眼差しでみながら書いてくださいます。

ただ一方で、作品制作においては頼んでくださる方はお客様であり、いただく言葉は十人十色。作品とお客様の相性、期待値から様々な意見をいただき世界に一つの作品を制作します。これまでの五年間、依頼を受けるたび完全オーダーメイドスタイルで作品を作ってきました。

作品サンプルを見ていただき、テンプレートに沿って必要事項を入力すれば仕上がるような形式にすれば、時間は早いかもしれませんしお客様の期待値より大幅に下がったものを納品するリスクは避けられます。しかしながら、依頼する方の背景や想いに触れると、やはりそれはテンプレートにはおさまりきらないものがあるのです。結婚式といっても親族だけで祝う食事会から知人友人集めた大きなパーティーまで規模が違ったり、新郎新婦の衣装や装飾、引き出物などみていくと一つとして同じ式がないのと一緒。たとえ何百回何千回の”おめでとう”や”感謝”の言葉を書こうとも、相手が違えばその文字にまとわせる雰囲気は変えて然りというのが作家としてのこだわりです。

ただやっかいなのは、ときにお客様を想うこだわりが空回りしてしまうこと。先日、恥ずかしながら見事に空振りを振ってしまった出来事がありました。

とある夫婦からの命名書のご依頼。その夫婦は学生時代からの付き合いで、私の主人や息子も合わせて年に何度も食事をするような仲で、互いの結婚式にも行っています。ご縁はがき教室や私の活動も、起業当初から温かく見守ってくれていた二人。そんな二人のもとにやってきた愛しい命。ご主人は本当に子どもと遊ぶのが上手で、息子は会うたびヘトヘトになるまで遊ばせてもらうのが常。子どもを望んでいることも聞いていただけに、妊娠したと聞いたときには私まで家族で三人の仲睦まじい家庭を想像して顔がほころんだものです。臨月を過ぎていよいよ入院準備をしているのかしらというタイミングで、命名書を書いてほしいと頼んでいただきました。

制作を頼まれた際、オーダーメイドという形式をとっているため必ず仮制作段階としてお客様に一度か数度、お見せし意見を伺うようにしています。例えばイラスト一つとっても、お客様から「苺が6粒大きく鮮やかにのっかっていて、スポンジは二段、フリルのように可愛くクリームが絞られていてハートのチョコプレートが添えられたショートケーキ」くらい細かくいただけることはかなり稀。「ショートケーキ」または「ケーキ」、「可愛い絵があったらいいな」という言葉から想像を膨らませていきます。この想像がお客様の期待通りを超えて”これこれ!すっごくいいね”になった瞬間は感動モノです。

その夫婦からいただいたご要望を並べてみたとき、私の中でふいにボタンの掛け違いがおこってしまったようでした。”あのような結婚式を上げた二人なら”と考えて考えて、これまでの私とは違う雰囲気の筆文字で挑もうとしたのです。提出した仮制作の作品に返ってきたメールからは、遠慮がちでありながらも納得いかれていないことが伝わってきました。その中でも、みた瞬間鉄を打たれたような一言があったのです。

「マイさんの字を書いてほしい」

この一言でした。

あれ、なにか違う…。なにがいけなかったんだろう…。

この言葉は、作品に対してなによりも的を射ていた表現だったのです。少し時間をおき、冷静になってみてみるとそこには”私”らしくない筆文字がありました。期待に応えたい気持ちが空回り。まるで中学1年生がブカブカの学ランを着ているように、自分たちでも居住まいがしっくりきていない様子で、文字たちは並んでいました。でもどうにか似合おうとして、肩肘張っているように見えたのです。

何者かになろうとして、背伸びして、“誰か”に近づこうとして書いていて。「それは誰なの?」自分へ問いかけて、ハッとしました。その誰かは、小さくも硬いプライドが勝手に作り上げた”完ぺきに作品を仕上げる私”だったのです。裏を返せば、自分の字に心の奥底では自信がなかったということ。しかしあの言葉をもらって、そんな彼女には一生出番はいらないとなんだか吹っ切れた気持ちになりました。と同時に、感謝がじんと滲み出てきたのを感じたのです。

この夫婦は、私の字を求めてくれた。どこにでもあるような整った命名書ではなく、”玉城麻衣の作品がいい”と言ってくれていたのだとようやく気づきました。心の奥底からコトコトと温かい自信が湧き上がってきました。

書道家となればごまんとプロがいる中で、私に任せてくださる真意を信じて
私は、私の文字を書こう。そのためにも、もっともっと基本を知り練習を重ねよう。いつどんな方に託されても、私が一番、私の字に自信をもてるように。そして今は、今この瞬間、私が出せるすべてを尽くして作品を作ろう。

そうして心のままに楽しみながら、ありったけの愛情を込めて書かせていただいた下書き作品は、筆文字もイラストも、その夫婦にぴったりの作品になりました。そのようなものができた瞬間は、そうこれ!これしかない!という作品との一期一会が生まれます。お二人へお見せする前にも、これは気に入ってくださるというたしかな予感がありました。とっても気に入ってくださったようで、あとは無事に小さな命が生まれてくることを待つばかり。出産のご報告を受けたら、いよいよ満を持してのタイミングで清書です。

こんな成長と感動、一期一会があるから。

講師と負けず劣らず、私は制作という生業も大好きです。これまでも、これからも、作品を作り続けます。


【玉城麻衣 たましろまい】
1993年生まれ、熊本県出身。
2015年、自分の人生で出逢う1000人の 縁ある方へ筆文字で「ご縁はがき」を届けるチャレジに挑戦、2年間を経て1000枚を書き上げる。
その翌年から「ご縁はがき講師」として 活動を全国で展開。 出会ったお客様の数は950名を超える。
2018年7月「ご縁はがきのキセキ」 個人出版500部。
2020年11月福井新聞掲載。同年12月週刊誌「週刊女性」掲載。
2021年9月書道のはな*みちスカウトキャラバン、カリグラフィー部門グランプリ受賞。
公開講座の他、企業研修や公立高校での出前授業、学童や福祉施設においてもご縁はがきを通して、手描きの筆文字で感謝を伝える技術を普及している。

【お仕事について】
・公開講座へのお問い合わせ、
・出張講座などの講師のご依頼、
・デザインや記念品制作など書道家活動
下記リンクよりHPをご覧ください。
個別のお問い合わせもお待ちしております。
http://goen-hagaki.com/

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