これが映画だ! 第四回
それが…でもそれが映画に与えたもの
過去三回から随分と間が空いてしまった。前回は『大いなる幻影』を紹介したが、今度は何を紹介しようか?いっそ、それ以前に遡ってみようかな?
それにしても、遡ってみると、とんでもない作品のオンパレードなのである。1916年、D・W・グリフィスは『イントレランス』を発表するのである。
上の写真をご覧いただきたい。米粒みたく一番小さいのが演者たちである。昨今のCGやVFXが阿保らしくなるほどの超巨大オープンセットなのだ。しかも本作は4編から構成され、これはバビロン編のスチール・ショットなのである。後の1987年には、この超大作『イントレランス』のセット建設に参加したイタリア人兄弟を描いた『グッドモーニング・バビロン!』が製作されている。
さらに、視点の異なる複数のカットを組み合わせて用いる技法を“モンタージュ”という。元々はフランス語で「(機械の)組み立て」という意味なのだが、映像編集の基礎であるため、編集と同義で使われることも多い。しかしながら、独創的な“モンタージュ”を使って見せたグリフィス。だから、彼の名を取り“グリフィス・モンタージュ”と呼ぶ人も多い。そしてその“グリフィス・モンタージュ”と双璧をなすのが、“エイゼンシュテイン・モンタージュ”なのである。分かった方は、かなりの映画通…というよりマニアかな?
今のロシア、旧ソビエト連邦の映像作家セルゲイ・エイゼンシュテイン、特に映画の題名は知っている方も多いのではないだろうか?『戦艦ポチョムキン』(1925年)、『イントレランス』のそれ、そして構成、さらに『戦艦ポチョムキン』の衝撃的モンタージュ。これはもう観るべきであります。
ウジ虫の湧いた肉で作られたスープをきっかけに、水平たちの反乱が起こり…畳みかけるような映像、ストーリー性よりも連鎖性を重んじたかのような映像、そして有名なオデッサの階段のシークエンス。オデッサの階段は、
1987年、ブライアン・デ・パルマ監督の『アンタッチャブル』の中で、駅舎の階段を乳母車(オデッサの階段もそう、スチール参照)が落ちてゆく。これはデ・パルマ監督の敬意をこめたオマージュとも言えるだろう。
話を戻すが現実的に言えば、グリフィス・モンタージュのほうが先なのであるが、エイゼンシュテイン・モンタージュは革命的だなどと称賛されることが多い。私はどちらも冷静に再見した後、インパクトの問題だけではないかと思う。歴史に刻まれた『イントレランス』も『戦艦ポチョムキン』もどちらが素晴らしいか?なんて甲乙つけるのが馬鹿らしいし、ニュアンスの違う、またお国柄も違う両作品をぜひご覧頂きたい。
今回の主役級映画
イントレランス INTOLERANCE
監督・脚本 D・W・グリフィス
出演 リリアン・ギッシュ、メエ・マーシュ、ロバート・ハーロン 他
1916年/アメリカ/モノクロ/167分※
※現存するフィルムの上映時間
戦艦ポチョムキン
監督・脚本 セルゲイ・エイゼンシュテイン
出演 アレクサンドル・アントーノフ、グレゴリー・アレクサンドロフ 他
1925年/ソビエト連邦/74分※
※現存するフィルムの上映時間