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ミックスが上手く行かない理由とその対処(入門編)

ミックスに限らず、上達するために最も大事なのは嫌にならないことです。そのために、何となく良くなった気がするという体験を積み上げることと最初から情報の洪水に流されないことが重要だと考えます。

この記事はミキシングに興味を持った人が実際にやってみた時につまずくポイントを推測し、それぞれの対処法を提案する逆引き的なものです。

ミックス完成までにどんな工程があるのか知りたい

ミキシングの中で行うことは下記のいずれかに分類出来ます。

・音量バランスと左右のパンニングを調節する
・楽器の音色をかっこよくする
・曲のストーリーに沿って目立たせる楽器を強調する
・不快な音を取り除く

・各楽器の響きや距離感、音像を馴染ませる

分かりやすく聴き映えに影響する順に並べてみたので、上にあるものほどチャレンジしやすいはずです。書籍や動画でTipsを探す時に、上記のどのポイントについての説明をしているのか意識する癖をつけると上達が早まるでしょう。

これらを実現するためのツールは世の中に溢れていますが、最初から全てのツールを手にすることには僕は懐疑的です。最初はフェーダーとパンだけでミックスし、それで上手く行かないと感じてから他のツールに手を出すくらいでちょうどいいと思います。小学校一年の算数の教科書にいきなり因数分解や微積分が出てきても困るのと同じです。

どの楽器から着手していいのかがわからない

初めてミックスをするとなった際、個人的には曲の印象を決めるトラックから着手するのが考えやすいと思います。例えばドラムとかボーカルとか。「軸となるトラックに対してその他のトラックが大きいのか小さいのか」というところまで問いを簡略化すれば難易度はかなり下がると思います。そして慣れないうちは同じ手順を繰り返すのが良いでしょう。考えることを減らすのが肝心です。

いやそう言われましても…という時はパラデータを公開しつつミキシングの手順を解説してくれているような動画を探し出して一つ一つ真似してみて下さい。手と耳でミックスが出来上がっていくのを体験することが出来るでしょう。

あとは好きなジャンルの音楽で練習するのも大事です。

どうなったら完成なのかがわからない

ミキシングはスタート地点も途方に暮れてしまいがちですが、どこまで行ったらゴールなのかも最初は決めるのが難しいと思います。結論を言うと自分が完成したと思ったらそれがゴールです。

ではどうすればゴールを決められるようになるのでしょうか? そのためには、普段から「この曲はどうやってミックスしているんだろう」と考えながら音楽を聴く癖をつけるのが非常に重要だと思います。かっこいいミックスを聴いた時にかっこいいと感じることは簡単ですが、それが何故かっこいいんだろうと分析する癖をつけることで、自分が目指したいミックスのイメージが少しずつ具体的になってくるでしょう。例えばボーカルは他の楽器に対してどれくらい明瞭に聴こえるのか、スネアやキックはどんな音色なのか、ギターやキーボード、ベースなどのリズム楽器はどれくらいの音量なのか等。

ここではモニター環境をなるべく変えないことが重要です。

・同じ部屋で
・同じ機材で
・同じ音量で

聴くことで、音を聴く時の基準がブレずに育っていきます。

ミックスの中で起きている問題を耳で特定出来ない

ゴールが分からない問題とほぼ同じですが、ミキシングを進める中で解決しなければならない問題の典型例をいくつか挙げていきます。

・他のトラックと帯域が被っている
・広がりが足りない
・特定の帯域が出過ぎている
・特定の箇所で引っ込んでしまう/浮き出てしまうトラックがある
・トラック間の空間の馴染みが悪い

慣れてくれば耳で判断出来るようになりますが、そのためにも自分のミックスについて、また巷の音楽についてこれらの問題を疑いながら聴く癖をつけるのが良いでしょう。原因が分かれば、YouTube等で検索すれば解決策は沢山ヒットします。

勿論、目に頼ることも重要です。昨今のEQには大体スペクトラムアナライザーがついているものが多く、帯域ごとの情報量を目で確認することが出来ます。コンプレッサーにはリダクション量の時間変化をグラフで表示してくれるものもあります。

どのツールを使えばいいか分からない

問題が特定出来たとしてもそれらを解決するのが難しいのは、どの問題も解決方法がいくつも存在するからです。ミックスが上手くなる過程で問題特定を耳で行えるようになるだけでなく、その問題を解決する方法をいくつも思いつくようになり、最適な手段を選ぶことが出来るようになっていきます。

選択肢が少ない間はあれこれ試すよりも同じツールを同じ方法で使い続けて、時間をかけて自分の中に基準を築いていく必要があります。

現代ではテクノロジーが十分に発達したためツールに頼る方法もあります。iZotopeのNeutronやFabfilterのPro-Qでは帯域の被りをグラフィカルに表示することができ、NeutronのSculptorやSound TheoryのGullfoss、sonibleのsmart:EQ等、半自動的に問題解決やクリエイティブな音作りをサポートしてくれるテクノロジーがあります。

プリセットを使っても上手くいかない

どんなエフェクトプラグインにもメーカーが用意したプリセットが沢山入っていると思いますが、それらの中には役に立つものもあれば役に立たないものもあります。ここではその理由を説明します。

まずプリセットが役立つ可能性が高い例から説明します。ディレイやリバーブはプリセットをそのまま使える可能性が高いです。例えば広がる音にしたければホール系、スタジオっぽい響きにしたければルーム系のプリセットを探すだけで足掛かりは容易に得られるでしょう。Wet/Dryだけは弄って下さい。プリセットを色々試すことで空間系がどう働くのか何となく肌感覚で理解できるようになりますが、ゆくゆくは実際にスタジオやホールなどに赴いて現実空間の響きを体験するのもセットで行えればベストです。

これに対し、EQやコンプレッサーはプリセットをそのまま使うことはほぼ不可能です。何故なら、ソースのレゾナンス(共鳴)の周波数や音量、波形の鋭さ等によって掛け方が大きく変わってしまうからです。例えば高めのチューニングのピッコロスネアのために作ったEQプリセットを胴が深くチューニングの低いスネアにかけても見当違いな帯域にEQがかかってしまいます。他にも、ピークマージンのあるソースを想定して作成したコンプレッサーのプリセットをピークマージンのほとんどないホットな波形にかけるとコンプレッションがかかり過ぎてしまいます。

ではこれらのプリセットとはどう向き合うべきでしょうか。まずEQについては、プリセットのEQポイントを1つずつON/OFFして、それぞれがどんな意図で入れられたノードなのかを想像、推測することで「どの帯域へのEQが音色にどんな影響を及ぼすか」の学習に繋がります。また、打楽器のように特定の周波数で共鳴する楽器の場合はプリセットのローミッドにカットが入っていることが多いので、そのノードの周波数をソースに合わせて上下させるとそのまま使えるでしょう。

コンプレッサーのプリセットについてはとにもかくにもスレッショルドを動かすところから始めて下さい。かかり過ぎると良くないと思うかもしれませんが、あまり気にせず大胆にやって下さい。さまざまなプリセットを切り替えながらスレッショルドを上げ下げしてみて下さい。いい感じだなと思うプリセットを探し当てたらスレッショルド以外のパラメータに注目し、何故いい感じになったのか考えてみて下さい。

ところで、どのエフェクトも「こうすればどんな時もうまくいく!」という魔法のようなセッティングは存在しませんが、それでも手元のソースに合ったプリセットが欲しい場合はNeutronのMix AssistantのようにA.I.にカスタムプリセットを作らせる方法もあります。

意識して欲しいこと

繰り返しになりますがミキシングを嫌いにならないように、楽しんでやることが大事です。最初のうちはどんなプロセスもやり過ぎてしまうと思いますがそれで何ら問題ありません。自分の手で音が変わるのを楽しんで下さい。

ミキシングを習得していく中で自分の中に基準、エンジニア的な音の聴き方を育てていくのにはどうしても時間がかかりますが、楽しんで行うことが出来れば苦痛にはならないでしょう。

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